10-9 c さいきんの王国革命戦記
朝から始まった戦いは昼過ぎで早くも終了した。
バゾリが前面の歩兵に撤退を指示し、王国軍もそれを追わなかった。
馬も人も疲弊していた。おそらく互いにこれ以上の戦いは無理だったに違いない。
その後の展開を話そう。
王国軍後方に抜け出た騎兵隊はアリスに足止めされるのを嫌って散り散りになって逃げた。運悪くアリスに目を付けられた二騎だけが落とされて、他は戦場とはまったく違う方向へ四散していった。
戦場を離れた彼らがまた一団となって攻めてくる可能性を恐れたアリスが今度は王国軍の後方に貼り付けになった。
丸太を左肩に乗せるように抱えて王国軍の背後を見張るアリスは本当に張飛のようだった。
逃げ去った敵の騎兵隊はアリスの心配したように王国軍の後方には出てこなかった。彼らは、戦場を大回りして右翼、王国軍からみて左翼に合流して、その後は守備に追われることとなった。
両翼は昨日と逆の展開になった。
まず、左翼。
王国軍左翼はジュリアスの策ががっつりと嵌った。
敵歩兵が駆けつける前に、王国軍に包囲された敵騎士隊は十数騎ほどを残して殲滅した。
次に右翼。
右翼ではジュリアスの作戦は空ぶった。敵の突撃隊に対応するためにパイク部隊が動いてしまったため、包囲作戦を開始するのが遅くなり、騎兵同士の乱戦となってしまったのだ。
最期に正面。
正面の歩兵たちは昨日と同じようにサボっている感じで牽制し合っていた。
しかし、そのちょっとした牽制でも王国軍の前面が支えきれなくなってきた。それほど騎兵に真ん中をブチ抜けれた影響は大きかった。ノワルからの合流組も加勢して、ひたすらに盾で相手の攻撃を凌ぐのを手伝った。
王国軍は相手を壊滅させて手の空いた左翼の歩兵部隊も正面に回して耐え忍んだ。そのせいで、折角優位になった左翼で相手を一気に押しつぶすことが出来なくなってしまった。
ここまでが前半。
そして後半。
ついに、野犬部隊の包囲網を敵歩兵たちが突破してきた。
野犬の数が少なかったのもあるだろうが、野犬に対処する部隊と両翼に向かう部隊に別れての対応が取られてしまったためだ。
左翼は敵騎兵が壊滅していたので問題は無かったが、右翼側は問題だった。昨日やられた歩兵2騎兵1の組み合わせが王国軍の騎兵を次々と倒し始めた。
パイクから短剣に持ち替えた王国軍の歩兵隊が駆けつけて敵歩兵を押さえにかかるものの、右翼から抜けてきた歩兵は400人に近かった。全ての歩兵を押さえきることは出来ない。次々と右翼の騎兵が倒され始めた。
バソリの考えた歩兵2騎兵1の作戦は良く練られ、訓練されていた。
まず、騎兵が相手騎兵を止める。
そこに近くに居た歩兵二人が駆けつけて馬を挟みこむように攻撃するのだ。挟みこむ二人はあらかじめペアとして決められていて、動きも良く訓練されていた。
歩兵に馬を両側から挟みこまれると、馬上にまたがっている人はどっちかにしか攻撃できない。さらに、馬は後ろに下がれない。前方を馬でとおせんぼされ、左右を盾を持った歩兵で塞がれてしまうと、この状況からは簡単に逃れられないのだ。
ところで、この歩兵2騎兵1の作戦を行っている最中の敵の騎兵だが、馬が止まっていて狙いやすく、意識も対面している相手に集中している。
そんな相手に、有効な武器があった。
そう、丸太だ。
そして、ここにはそんな丸太を扱うのがとても上手な女の子が居た。
そう、アリスだ。
右翼が押され始めたと認識したアリスは、見張りをアープたちに任せ、単騎右翼に疾走し、そのまま丸太をぶん回して、王国軍の騎兵に取り付いている敵騎兵を片っ端からぶっ飛ばしていった。
アリスのこの行動で、状況が一変した。
そもそも歩兵2騎兵1作戦は強力だったが、かならずしも一瞬で決着がつくというわけでは無かった。
馬を足止めするのにも時間がかかるし、馬を止めてから歩兵が取り付くまでにも時間がかかる。さらにそこから、自分たちが怪我をしないように相手の馬を殺せるチャンスを狙うのだ。一刺しで馬が死ぬとも限らない。
そうこうしてる間に後ろをアリスが通りかかったら、棒立ちの騎兵が丸太でぶっ飛ばされる。
敵騎兵は縦横無尽に戦場を駆け巡るアリスを牽制しながら、避けるようにひたすらウロウロとし始めた。騎兵でアリスを牽制したいのだが、誰も丸太という武器に対する対処法をしらない。
これによって敵歩兵も困ってしまった。騎兵が馬を止めてくれないと作戦が始まらない。
歩兵同士の遮二無二な乱戦が始まるのかと思ったが、そういうものでもなかった。
敵歩兵はひたすらどこかに止まっている馬は居ないか探してうろつき始めた。王国軍の歩兵にも騎兵にも攻撃を仕掛けてこない。訓練していたのが歩兵2騎兵1の作戦だけだったのだのかもしれない。
そして、困ったことに、王国側の歩兵もそれにお付き合いした。
王国の歩兵たちも相手が攻撃してこないのなら、こっちからはわざわざ手は出さないとばかりに、ひたすらウロウロする敵歩兵を牽制しながら一緒にウロウロするのだ。
王国側の騎兵だけはきちんと敵と戦おうとするのだが、相手がかまってくれない。王国の騎兵はひたすらに敵騎兵を追いかけまわした。
こんな感じで、右翼は誰も戦わずに皆がひたすら徘徊しているだけというなんともカオスな状況が始まり、最後まで続いた。
中央は互いに守る気満々なので膠着し、左翼はしばらくジュリアスたちが押していたが、アリスから逃げた騎兵たちが駆けつけて来て、こちらも膠着状態となった。
両軍完全にニッチもサッチもいかなくなったところで、バゾリのほうが折れて今回の戦闘は一旦お開きとなった。
この戦闘の結果、
王国軍は歩兵700、騎兵200の計950。
反王家軍は歩兵2100、騎兵200の計2300。
アリス到着後善戦していたかのようにも見えた王国軍だったが、戦力はますますジリ貧になってしまっていたのだった。




