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10-9 b さいきんの王国革命戦記

 明るくなるとともに反王家軍がじりじりと前進し始めた。

 王国軍も距離をゆっくりと詰める。

 互いに、正面歩兵の裏に配置した騎馬隊も歩兵部隊も相手から隠したままだ。

 陣形を崩さぬまま距離を詰めていく両軍。

 先に動いたのは王国軍だった。騎馬隊が左右に展開する。

 それに呼応するように反王家軍も騎馬隊を展開する。

 騎馬同士が相手に向かって狙いを定めるようにゆっくりと正面を向いた。

 そして、その瞬間だった。

 こちらの陣地まで響き渡るほどの怒声で「ラ~ンス!!」とバゾリの号令が響いた。


 その直後、反王家軍正面の歩兵部隊がふすまを開くかのように一斉に左右に別れた。


 その開いた隙間から、ときの声を上げて中央後方に配置されていた100騎の騎兵たちが全力で駆け出してきた。

 彼らは全員剣ではなく大きな槍を構えていた。

 そして、この日最初の両軍の衝突はバゾリの奇襲という形で唐突に始まった。

 弾丸のように飛び出してきた突撃隊は、王国軍の薄くなっていた中央正面の歩兵たちを吹き飛ばして王国軍を突き抜けていった。

 王国軍の中央全面が蹴散らされ大きな穴が開いた。

 「中央を締めろぉお!!」

 「中央からなだれ込ますなっ!」

 王国軍からすぐさま声が上がる。

 すぐさま左右の兵士がぶち抜かれた真ん中を埋め、薄い一本の兵士のラインが完成した。

 反王家軍の突撃隊は勢いそのまま王国軍のはるか後方まで駆け抜けていた。

 再び王国軍の軍師から大声の指示が飛んだ。

 「後ろからまた騎士が来るぞ!」

 その声にようやく自分は事態のヤバさを理解した。

 上空の鳥から戦場の俯瞰を確認する。

 王国軍のど真ん中を突き抜けて行った騎馬隊はゆっくりと弧を描くようにして戻ってくると、王国軍の背後に位置した。

 包囲されるとかなり分が悪いとは聞いた。

 では前後を挟まれた場合どうなのだろう?

 同じことなのではないだろうか。

 右翼側の後方に位置していた歩兵隊が慌てて振り返ってパイクを構えて中央に駆け出す。

 「中央を壊滅せよ!」王国軍の背後まで突撃してきた部隊の隊長と思しき騎士が叫んだ。「突撃!!」

 蛇のように一列になって出てきた騎兵部隊は今度は散開して横に長く広がった。王国軍の歩兵たちを後ろから攻撃する気なのだ。

 同時にバゾリから号令が飛んだ。

 「全軍進軍速度を上げよ!!」

 おそらく、バゾリも突撃部隊の隊長も、王国軍に聞かせるために声を張り上げているのだろう。

 王国軍が前後両方からの攻撃宣告に狼狽え始めた。

 「後ろ!騎馬隊からの攻撃を防御しろ!」王国の軍師が大慌てで声を張り上げて自軍の混乱を収めた。

 歩兵たちが振り返り、正面の大軍に背中を向けた。

 「中央停止!!弓隊!構え!」王国軍を自分たちのほうに注意を向けさせられなかったとみて、再びバゾリの怒号が飛んだ

 「頭を守れ!」軍師が再び叫ぶ。

 兵士たちは慌てて大きな盾を頭上に構えて横の兵士と密着する

 申し訳ほどの矢がコンコンと兵士たちの盾に降り注いだ。バゾリ軍に矢はほとんど残っていなかったらしい。

 しかし、効果は大きかった。

 王国軍の歩兵は盾を持ち上げてしまったせいで隙間ない防御陣形が崩れている。

 「進軍開始!!」バゾリが声を上げえた。

 反王家軍の歩兵たちは隊列を乱すことなく歩み始める。

 一方で、後方では敵の騎兵たちが足並みの揃い切っていない王国軍に向かって加速を始めた。

 「蹂躙せよ!」敵突撃部隊の隊長が雄たけびを上げた。「この突撃が新時代への幕開けとなるのだ!!」

 隊長を戦闘に突撃隊の馬たちが徐々にその足を速めていく。


 「ドッカーン!!」

 「ポフォ。」


 突如横から飛び出してきた丸太に撥ねられて、突撃隊の隊長がすっとんきょうんな声を上げて派手に馬上からふっとんでいった。

 彼は珍妙な悲鳴を上げて地面に墜落し、泡を吹いて動かなくなった。

 完全なる不意打ちだった。

 まさに突撃を始めようとした突撃隊の側面から、26騎の騎兵が全力で駆け抜けてきたのだ。

 アリスたちだった。

 アリスは長い髪を後ろで縛り、簡単な革製の鎧を身につけていた。

 そして、どこから拾ってきたのか、全員、槍を構えるかのように丸太を持っていた。

 15人ほどが奇襲に成功して、17人の反王家軍の騎士が地面に叩きつけられた。

 数が合わないのはアリスが一人で3人落としてるからだ。

 てか、アリス、ミスタークィーンたちの事はほっといて、こっちに直接来てたのか!

 突如目の前を横切られたせいで、反王家軍の隊列が乱れ、足が止まった。

 騎兵隊は突然のまさに横槍に、いや、横丸太に完全に狼狽している。しかも、隊長が撥ねられた。

 アリスは相手の動揺を逃さない。急角度で馬を先回させると今度は反王家軍の騎馬隊の後ろ側を衝くように突撃を開始した。

 反王家軍の騎士たちは立て直しが間に合わない。すぐにはアリスたちの攻撃に対して正面を向けなかった。そして、正面を向けないと彼らの巨大な槍は役に立たないのだ。

 アリスたちは急旋回して馬の方向を変えようとしている騎馬隊に丸太を構えて突撃した。

 丸太が武器の美少女。

 うん、無いな。

 「ドッカーン!!」

 アリスの掛け声が響いた。

 アリスたちは馬の方向を変えきれず、右往左往している騎士隊に突っ込んだ。今回は23/26が命中。

 騎士たちを貫いたアリスたちは、速度を緩めることなく、もう一度サイドにまわり込み再度突撃を敢行する。

 「ドッカーン!!」

 今回は角度が浅かったのと、敵騎兵たちが立て直してきたのもあって。6/26。

 アリスよ、お願いだから、いちいち丸太で相手突くたびに「ドッカーン!」て掛け声上げるの止めて?

 食らった相手、地面に叩きつけられてんのよ?

 その「ドッカーン!!」のせいで、なんかちょっとおもしろくなっちゃってるんだけど。

 それはともかく、アリスの奇襲のおかげで反王家軍の突撃隊がいきなり半壊した。

 「敵本隊に正対しろっ!!」王国軍の軍師が後方の状況を見て歩兵たちに大声で命じた。「騎馬隊は押さえた!生きれるぞ!」

 その台詞はまだ早い気がするけど、士気を上げるには申し分なし。

 王国軍の歩兵たちは咆哮を上げ、まだ50騎残っている敵騎兵に背中を向けた。

 アリスが素早く旋回して残った騎馬隊に向かう。

 「剣に代えろ!」敵の突撃部隊の一人が叫んだ。

 どうも、馬+槍の組み合わせは正面にしか対応できないと見た。

 槍と違って剣は小回りが利く。

 剣の場合、正面以外の角度からでも対応ができるが、長い槍を進行方向以外に向けてもうまく使えないのだろう。

 反王家軍の騎兵たちが槍を投げ捨てて抜剣し、馬をアリスたちのほうへと向けた。

 「アープと警備部隊は私のサポート。」アリスが叫んだ。「他は馬をジュリアスたちに届けて!」

 スカンクたち非戦闘員の乗った騎馬がアリスから離れて王国軍に向かっていく。

 残ったアープたちは丸太を投げ捨てて剣を抜いた。アリスは一人だけ丸太だ。

 「みんな回避を優先。私に巻き込まれないで!」アリスはそう叫ぶと、丸太を構え、アープたちに号令をかけた。「突撃!!」

 アープたちがアリスを守るように特攻し、そのすぐ後ろを丸太を構えたアリスが続いた。

 アリスは丸太を槍のように構えた。

 騎士同士の槍での練習試合を見たことのある自分からちょっと言わせてもらうと、基本、騎士の槍を構えての特攻というのは命中しない。

 馬の進行方向まっすぐにしか攻撃が行かないのだ。そりゃあ読みやすい。

 相手が動けない時ならともかく、そうでない場合、狙われたほうは進行方向から避ければ簡単に回避ができる。

 だから、馬上試合のようにお互いに槍で正面からぶつかり合うときくらいしか成立しない。試合でも5合くらいお互いすれ違ってようやく決着がつくのだ。

 戦場で有効な事などほとんどないのではないだろうか。

 だから、初日、騎兵たちは王国軍も反王家軍も剣を持った。二日目も中央から突貫してきた反王家軍の100騎を除けば皆初期装備は剣だ。

 あの、長くて太い槍が有効なのはいかなる時か?

 それは奇襲で相手を落とす時と、防御陣を敷いている歩兵の大きな盾を狙う時の二つの場合だ。それなら当たる。そして当たればデカい。

 初日のジュリアスの特攻、今朝のバソリの奇策による歩兵への強襲、そして、今回の丸太を持ったアリスの来襲。

 いずれも、予測不能だったり回避が困難な状況においてだけ有用なのだ。

 反王家軍の騎馬隊はアリスに正対し、槍ではなく剣を抜いた。

 彼らはアリスの突きをかわして、返す刀でアリスを狙うつもりなのだ。直進しかできない重い槍をかわすのなど容易いのだろう。

 でも、アリスが持っているのは槍じゃなくて、丸太だ。

 丸太は形状としては、槍よりも鈍器に近かった。普通の人が振り回せるもんなのかどうかは知らん。

 しかし、アリスはそれを振り回せた。

 張飛かな?

 アリスは、相手の騎馬隊に突っ込むなり丸太をぶん回して、アリスの突きを避けてカウンターをかまそうとしていた騎兵たちを丸太で薙ぎ払った。

 一振りで3人ぶっ飛んでった。

 やっぱ張飛かな?

 丸太振り回せる系女子。

 アリス、最近鍛えてるからなぁ。

 そして、アリスたちは馬の速度は落とさずに相手の騎馬隊の中を賭け抜けて行った。

 アープたちも全員無事だ。というか、彼らは相手の馬群の中を駆け抜けただけで、攻撃もしていなければ、相手の攻撃が届く範囲を通りもしなかった。

 アリスは、反王家軍の騎兵たちから距離を取ると、隙をうかがうかのようにゆっくりと相手の周りを回りはじめた。

 敵騎兵たちがアリス側に全員馬首を巡らせた。ようやく、彼らの陣形は整った。

 さすがのアリスも今度は仕掛けない。牽制するように弧を描いてゆっくりと回る。

 敵騎兵の数は今だ圧倒的に多いものの、いきなり半壊させられたせいでアリスたちに背を向けられない。50の騎兵に対してたった10騎が相手だと言うのにだ。だって、今しがた、そのたった10騎の突撃で3人落とされている。

 ここに来て、突撃してきた敵部隊はアリスによって完全に無力化した。

 バゾリの騎兵100騎を割いての奇襲はアリスのせいで空振りに終わったのだ。


 アリスの奇想天外な所作に見惚れている場合ではない。

 自分もできることをするべきだ。

 今、自分にできることをしなくては。

 反王家軍の背後に配置されていた騎兵は突撃部隊に変貌し、王国軍の裏でアリスと対峙している

 今なら、野犬軍は動き放題だ。

 選択肢は3択。

 1,両翼の包囲を手伝う。2,両翼の援護にやってくる敵歩兵の歩みを遅らせる。3,圧倒的に数で劣っているアリスを助けに行く。

 「中央を固めよ!!騎兵は来ない!!」バゾリが叫んだ。

 バゾリは、王国軍の前衛がバゾリたちのほうを向いて盾を密集させたのを見て、突撃隊に何かが起こったと判断したのだろう。

 「後列歩兵一隊二隊は左右に展開し、両翼を制圧せよ!」

 バゾリは昨日同様に、正面で凌ぎ、両翼を制圧して王国軍を囲みにかかる作戦に変更したようだ、

 自分も動く。

 自分の選んだのは敵の歩兵の歩みを遅らせる事だ。

 野犬たちで後方から両翼に展開しようとしている歩兵たちを押しとどめるのだ。

 敵の両翼は、ジュリアスの作戦通り騎兵とパイクを持った歩兵部隊が包囲する。

 そして、敵の中央については、側面を野犬軍で押さえることによって、正面の歩兵部隊と合わせてコの字型の包囲を形成するのだ。

 包囲が強いというのであれば、多分これが戦術的に正解なはずだ。

 もし、両翼で王国軍が勝てば、そのまま背後に回って完ぺきな包囲が完成する。

 なので、自分の選択は2だ。

 それに、両翼の包囲を邪魔させないことも大事だ。バゾリの左右に展開しようとしている歩兵がとんでもなく多いことをジュリアスは知らない。自分はこの歩兵の展開を少しでも遅らせる必要もあると考えた。

 【操作】で敵両翼の後方に潜ませてあった50ずつの野犬軍を動かし、敵歩兵を挟みこむように展開させる。

 頼むワンワンズ。相手の歩兵を封じ込めてくれ。

 今日は倒さなくていい。バゾリが部隊の後ろに配置した歩兵たちを足止めしてくれるだけでいいんだ。死なないで、ひたすら耐えて、相手の足を止めることだけに集中してくれ。

 突然現れた野犬の集団に敵歩兵の隊列が乱れた。

 頼むぞ!ここがふんばりどころだ!

 「わお~ん。」返事をするかのようにディンゴが大声で鳴いた。

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