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10-7 b さいきんの王国革命戦記

 ワルキアにもヌマーデンにも、当然のことだが領民がたくさん住んでいる。

 そしてその領民の中にはこの騒動の発端となった蜂起を起こした農民たちもいた。

 彼ら農民たちの蜂起は大成功だった。

 一人の死者も逮捕者も出すことなく、領主だけが更迭された。

 この報はすぐさま領民たちにもたらされ、歓喜をもって迎えられた。

 ところが、領主たちは戻ってきた。

 そして兵士を集めると、最期に街中の人間から略奪のごとく軍資金を巻き上げて去って行った。

 ことワルキアに至っては、罷免されたはずの領主が居座っただけでなく、各地から貴族と軍隊が集まってきた。そして、領民たちにさらなる増税が課された。

 多くの兵士たちが街の外に集まった。

 兵士たちの中にはワルキアにやって来て狼藉を働く者も居た。

 兵士の数はワルキアの領民の数よりもずっと多かった。蜂起などしようものならあっという間に潰される。

 ワルキアもヌマーデンも、そして、領主たちの去り際に武力で脅されて財産を強奪された人々も、みんな怒りを抑え込んで耐え忍んでいた。

 やがて居座っていた軍勢が動き出し、ワルキアの領民たちはようやく解放された。

 そこに出現したのがミスタークィーンたちだった。

 ミスタークィーンは言った。

 「我々に知恵を授け、悪しき領主を戦わずして退ける勝利をもたらしたのは誰だ!」

 ミスタークィーンは兵の居なくなったワラキアにやってくると堂々と演説を開始した。

 「そう!アリス王女殿下だ!しかし、王女殿下は、今、狂王の手によって王都に監禁されてしまった。」

 周りで話を聞いていた村人たちから怒りの声が漏れた。

 ミスタークィーンたちの流布とヌマーデンでの出来事のおかげで、この辺りの農民たちの間でアリスの人気はかなり高まっていた。

 「さらには悪意の塊である貴殿らの元領主は、すでに我々と変わらぬ立場だというのに盗賊のごとき振る舞いで我々から全てを強奪して行った!」ミスタークィーンはこぶしを振り上げた。「我々はもうこのような仕打ちはうんざりだ!」

 聴衆から怒声にも同意にも似た声が上がった。

 「我々は貴族たちから一度は勝利をもぎ取った。それも戦わずしてだ。」

 ミスタークィーンは聴衆たちに叫んだ。

 「今度は戦って勝利を勝ち取ろう。我々の手で王女殿下を救うのだ!現体制を討ち滅ぼし、王女の名の元に、悪しき執政者たちに正義の鉄槌を!!」ミスタークィーンは再びこぶしを上げて叫んだ。「囚われし我々の希望の女王を救うのだ!貴族たちに目にものを見せてやろう!」

 ワルキアだけではなくヌマーデンでもオリヴァともう一人が演説を行い、ワルキアとヌマーデンで合わせて600人の義勇兵が集まった。

 ミスタークィーンたちが元々抱えていた兵士50名と併せて650人は、徐々にその数を増やしながら王都に向けて街道を南下した。彼らが大勢で行進するだけで、演説などせずとも絶え間なく人が集まってきた。

 そして、反王家軍が村を襲ったという知らせが広まった後、その数は2800人にまで一気に膨れ上がった。

 彼らは革命軍と自らを呼称した。


 さて、根耳に水だったのは反王家軍だ。

 革命軍2800はたったの2日で、王都の北、西に街道を逸れた反王家軍と王都と正三角形を描く位置に台風のごとく発生した。

 明らかに敵対する勢力が突然3000近くもすぐそばに湧いたのだ。

 しかも、時を同じくして、ジュリアス率いる王国軍が王都のほぼ全兵士を引き連れて出陣した。

 それは反王家軍の移動という必然が引き起こした偶然のタイミングだったが、反王家軍はジュリアスたちと農民たちが示し合わせていたと認識した。

 「くそう!はめられた!」ワルキアは言った。「ジュリアスめ我々が動くのを待って挟撃するつもりだったに違いない。」

 「つくづく愚民共は我々の足を引っ張り続けおる。」ブラッタが吐き捨てるように言った。

 「我々が街道を逸れていたのがせめてもの救いか、街道沿いだったら完全に挟撃だった。」ワイシも言う。

 「農民ごときが何人居ようとなんの足しになりましょう!」と、ゴーア。「まとめて叩き潰してくれましょうぞ!」

 「細かいことにはかまうな。それより、王都からジュリアスが出てきたのは僥倖だ。」バゾリが言った。「農民共と合流される前に潰せば良い。そうすれば農民なぞいくら居ようと烏合の衆だ。」

 「数はこちらが倍だ!」ヌマーデンも声高に言った。「ジュリアスを討とう!ここをもって我らの勝利への導と見たり!」

 「王国軍を潰して王都に攻め入る!」バゾリが大声で宣言した。

 そして、反王家軍は王都へと進路を変更し、その進みを速めた

 

 一方のジュリアスにとっても革命軍の出現は計算外だった。

 ジュリアスの視点からは彼らが味方なのか、それとも敵なのか判断がつかなかった。

 ジュリアス軍と革命軍の両方を見ている自分にしても、ミスタークィーンたちがジュリアスたち王国軍をどのような相手と見ているか判断できなかった。革命軍は少なくとも王に対しては敵だ。目的だけなら反王家軍のほうが近い。

 ジュリアスは革命軍が反王家軍の敵であるとの判断を下した。特に理由は無い。そう仮定して動くと決めたのだ。

 ジュリアスは進軍する兵士に宣言した。

 「民衆が決起した。我々は王都と国民を守る兵士・騎士として彼らに一番槍を任せるわけにはいかない!民衆に後れを取るな!彼らを矢面に立たせてはならぬ。これは我々の仕事だ!」ジュリアスは軍を鼓舞するように大声を上げた。「我が軍はこれより、反乱軍に攻撃を仕掛ける!!」

 王国軍も反王家軍に向かってその歩みを速めた。



 そして、王都の西に一日ほどの地点で、ついに両軍は相まみえた。


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