10-7 a さいきんの王国革命戦記
予想していた通り、ジュリアスは村の焼き討ちの知らせに激怒した。
最初の村が落とされてから2日。
焼き討ちの報告を得た3公たちは即座にいつもの部屋に集まった。
ジュリアスだけじゃなく、ミンドート公もモブート公も怒りで冷静さを失っていた。ミンドート公にしろモブート公にしろもっと打算的だと思っていたが、彼らは案外正義に熱い漢たちだった。
「今さっき連絡が入りました。さらにエラスティア傘下の村が一つ落とされ、もう一つの村が反王家軍へと下ったようです。」モブート公は言った。
反王家軍は最初の村を討ち滅ぼした後も、進みを緩めることは無かった。
反王家軍に下った村、いや、下ることができた村は、兵士ではない領民たちも兵士として反王家軍に捧げることで許された。一方で、滅ぼされた村は反王家軍が満足する数の兵士を献上できなかった。
野犬や近くの動物たちを使って邪魔をしたり、バゾリやラヴノスを気持ち悪くさせたりしたが、何の妨害にもならなかった。久しぶりに自分の無力さを痛感した。
「気でも触れたのか?同じエラスティアの同朋だぞ?」ミンドート公が眉をしかめた。「もはや公領ごとに割れる割れないの話ではなくなったようだな。」
「彼らは貴族では無かった。いや、人にすら値しない。」ジュリアスは彼には珍しい荒々しい口調で反王家軍を罵った。これほど熱くなったジュリアスを見たのはアリスに決闘を挑んた時以来かもしれない。「陛下の判断は正しかったのかもしれません。彼らはこの国に在ってはならない人間だった。」
「もはや彼らに正義はありません。」モブートの口調も興奮気味だ。意外だ。「だが、正義がこちらにあれど、反乱軍が進行すれば領民を守るために領主たちは降伏せざる得ないかもしれない。」
「我々が領民を守らねばならない。」ミンドート公は比較的落ち着いている。「我々だけがこの辺りで唯一反乱軍に対抗できるだけの戦力を保有している。」
「ミンドート公は王都の守りを。ここが落とされては元も子もない。」ジュリアスは言った。「私が出ます。1000の兵をお貸しください。」
「構わん。全部持っていけ。」ミンドート公は太っ腹な事を言った。「我々より領民が大事だ。私は王都の民が虐殺されぬよう、いざという時の準備を進めさせる。」
王都の城壁は貴族街しか囲っていない。領民たちは壁の外だ。いざというときは領民を避難させないといけない。
「エラスとの間に配置したベルマリアの兵もこちらに向かわせます。王都を攻めさせるなど絶対にさせません。」多分、ジュリアスは今、気持ちだけで言っている。
「おう。全軍をお前に預ける。」ミンドート公が言った。ミンドート公も気持ちだけで答えている。「我一人でも民の面倒くらい見れる。安心して成敗して来い。」
「私は自領を回りましょう。」モブートが言った。「モブート領の伯爵たちはバカではない。私直々に説得して回ればきっとついてくれる。連携すればそれなりの人数にはなるはずです。それを王都に向かわせます。ベルマリア公は全力で反乱軍の相手をしてください。」
「モブート公、そなたの首自体が反王家軍への手土産なるやもしれぬぞ?」ミンドート公が物騒なことを言った。
「今、この時に臣下を信じられずして何がモブート領の公爵か!」モブートが声を荒げた。「心配無用。モブート側からも必ずや援軍を回します。」
「分かった。頼むぞ。」ミンドート公が言った。「しかし、すぐに全ての村を守れるわけではない。伝令を飛ばして奴らの進軍経路にかかりそうな村から優先的に王都へ避難させろ。」
「すでに、王都に避難民が集まってきているようです。」モブートが言った。「侵攻を受けた3つの村の領主たちが、最期に各地に伝令を飛ばしていたようです。」
「ありがたいことだ。避難民たちは私と王都に居る諸侯で何とかする。」
ミスタークィーンたちが言うように『貴族=悪』って訳じゃない。3公の話し合いを見ている限り、貴族たちの多くは、命を賭して領民を守ろうとするように思える。悪い貴族はたくさんいるけれど、それ以上に心から良い貴族たちもいっぱいいるのだ。
ただ、良い事をするのは難しくて、それどころか当たり前を続けるだけでも大変なのに、悪い事をするのは簡単なのだ。
だから、良い人たちが事を成すのは大変なのだ。
だって、多分、この善良な3人の公爵は反王家軍に勝てない。
兵力は3500vs2000だ。
しかも、ここから王都の守りが引かれる。
彼らは具体的な作戦を話し合わなかった。
ベルマリアの兵が援軍に来るとしてそれは何時なのか。モブート公は何時までに何人集めてどこからジュリアスを援護するのか。ジュリアスは反王家軍に対してどのくらいの時間をかけてどこで対峙するのか。ミンドート公が街の人間たちを城壁内に避難させるのはどのタイミングか。
アリスだったら絶対にそこまで話し合う。
必ず勝つために。
だけど、3公たちはそんな事はいっさい話し合わなかった。
意味がないからだろう。
策を弄すれば勝てる可能性もゼロではないのかもしれないが、機を見る時間が王国軍には与えられていなかった。
ジュリアスは早急に反王家軍にぶつかり、ベルマリアかモブートの兵が来るまでがむしゃらに彼らの足を止めないといけないのだ。
一切の策も連携もないまま、ジュリアスは王都の2000のうち1700を引き連れて北門から出陣した。時を同じくしてモブートも数名のお供と共に南門から旅立っていった。
ところが、ここでジュリアスたちにとって嬉しい誤算が発生した。
それが、予想していなかった一つの事態。
革命軍2800の登場だ。




