10-6 c さいきんの王国革命戦記
反王家軍陣営にバゾリが兵士を引き連れて到着した。
「バゾリ卿!?」反王家側の貴族たちがバゾリの到着に驚きながらも出迎えた。
「すまぬな。ジュリアスに感づかれた。」バゾリは荷物をブラッタに預けてぶっきらぼうに答えた。
「いえ、残念ではありますが、ご無事で合流していただいて有難く存じます。」ワイシが頭を下げた。「兵までも連れてきて頂いた。」
「すまぬ。運悪く途中で野犬の群れに襲われてしまい、数が減ってしまった。」バゾリは言った。「どさくさに紛れて逃げ出した兵士が多かったようだ。」
うむ。我がワンワン中隊の戦果はまずまずであった。
バゾリの連れて来た兵士たちは、アキアの野盗より多いくらいの数だったので、多分600~700人くらい。
王都を出立した時点では1000人近くいたので、3、400人を野犬部隊で減らしたことになる。
ちなみに、自分の殺人スコアはまだ3桁に到達していないので、バゾリの言う通り、兵士たちはこれ幸いと逃亡したのだ。
まあ、あまり犠牲を出さずに済んだのは幸いだった。
「これで、こちらは3500か・・・。」ワルキアが言った。「まだ、王都の兵には届きませんね。」
「いや、私が1000連れ出し、ロッシフォール公が1000連れ出している。」バゾリは言った。「ジュリアスは兵を募集しているが、今、王都には2000少々の兵しか居ないはずだ。」
「そうなのですか!?」ヌマーデンが驚きの声を上げた。「てっきり。5000人近くは王都周辺に陣取っているものかと。」
「数ではこちらが有利だ。」バゾリは言った。「問題は籠城された時、援軍の到着前に王都が落とせるかだな。内部から崩すことができなくなってすまぬな。」
「いえいえ、バソリ様が合流してくれて僥倖でございます。」トマヤは言った。「これなら王都を攻めることができます。」
「ジュリアスごときの若輩、しかも、兵も少ないとなれば我々の勝利は確実ですとも、ガッハッハ。」ゴーアが大声で笑った。
「急くな。王都には城壁もある。」バゾリが諫めるように言った。「城壁とは少ない人数で守るためにあるものだ。」
「攻城戦では、ベルマリアやミンドートの援軍が到着するまでに落とせるかどうかは怪しいところです。」ワルキアの軍師が言った。「おそらく王都の軍も籠城策を取るでしょう。」
「そうだな。」バゾリも同意する。
ミンドート公の言ってた通りの事をこっちも同じように考えるんだなぁ。
交互に両軍の差し手を見ているようで不謹慎ながらちょっと楽しい。
「モブート領の貴族を懐柔しましょう。」ラヴノスが提案した。こいつホント嫌い。
「しかし、奴らは日和見を決め込んでいるぞ。」と、ヌマーデン。
「ええ。だから、彼らに向けて進軍して、仲間になることを迫るのです。」ラヴノスは答えた。
「そんなことをしたらモブート領の貴族の反感を買うだけだ。」
「大義名分など後からでもつけられましょう」ラヴノスは言った。「今はここで勝つことが重要です。」
「勝つも何も、モブートの貴族共がこっちにつかなかったらどうする。」ワルキアも反論する。「我々が離れている間にミンドート軍がワルキアを押さえようものなら、エラス本体との合流はままならんぞ?」
「どのみち、ここで待っていたとしても、エラスとの途中にはベルマリアの軍が居ます。」ラヴノスは言った。「簡単には合流できないかと。」
「くそう。せめてエラスからの援軍の状況が解かればな。」
それ、自分も知りたい。
「我々はエラスから援軍が来るまで耐えなければなりません。」ラヴノスは言った「そのために、王都を落とすのです。」
「ならばモブート領にちょっかいなどかけず、直接王都を狙おうではないか。今、王都の軍を率いているのでは故ベルマリア公カセッティではない。若輩者のジュリアスだ。如何様にも料理できようぞ。」ヌマーデンが言った。
「直接王都を狙ったところで簡単には落ちぬ。」バゾリが反対した。
「しかし、我々はダイスを振らなければならない立場にいるのでございましょう。ならば我々はそれに懸けませぬか。所詮はジュリアス。ゴリ押せば行けます。」今度はゴーアが脳筋らしいセリフを吐いた。
「いいえ。」貴族たちの話し合いを遮って、ラヴノスが言った。「モブート領に進軍すれば、王都を無理やり強襲する必要はないのではないかと思います。」
「と言うと?」
「我々への協力を断った貴族を見せしめに滅ぼします。」
「そんなもん王都の連中が黙っていないだろう。あっ!!」ワルキアがそう言うと何かに気づいて声を上げた。
「そうです。」ラヴノスは言った。「ジュリアスは王城から出てこざるを得ない。」
「王都の兵は2000だ。会戦でならば勝てることは間違いない。」バゾリがラヴノスを後押しするように明言した。
「ジュリアスが出てこなければ、次のモブート領のどこかに向かいます。」ラヴノスは続けた。「こちらに協力すれば兵が増えて良し。協力しなければジュリアスを釣り出すための生贄になってもらいましょう。」
「それをミンドートやベルマリアの軍が駆けつけるまでに行うという事か。」ヌマーデンは確認するようにラヴノスに訊ねた。
「ミンドート軍が来るまでの時間というのであれば今の作戦は実行可能だ。」ラヴノスの代わりにバゾリが答えた。
「ぶはっはっはっは!」ワルキアが大声で笑った。「それだ!素晴らしい!素晴らしいアイデアだ!それならば十分行ける。」
「おろかなジュリアスは間違いなく釣られて出てきますぞ!」ブラッタも嬉しそうに叫んだ。
「万一王都の連中が我慢したとしても、モブート領にはそもそも王家に不快感を持つ貴族たちが多い。」今度はヌマーデンが言った。「我々の兵を増やすことも出来ましょう。」
「愚鈍な王たちに正義の鉄槌が下せますな!」ゴーアも追随する。
「善は急げと言います。」ワイシが言った。「すぐにモブート領に進軍をいたしましょう。」
「待て。いきなりモブート領の貴族に迫るのは賛成できん。」トマヤが反対の声を上げた。
「何故だ?ラヴノス卿の策は理にかなっているぞ。」バゾリが言った。
「いや、策自体には異存はございません。私の言いたいのはモブート領ではなく、まずは我々に付かなかったエラスティアの貴族たちから攻めようという事にございます。」
「同朋を攻めるのですか!?」一人のエラスティアの貴族が声を上げた。
「今更同朋も何も無かろう。」トマヤが言った。「それに、我らの軍にはモブート領の貴族たちも居る。彼らに示しがつかん。今、お前が驚いたように、彼らもモブートの貴族を攻めるとなれば衝撃を受けかねん。」
「・・・なるほど。」
「エラスが怒らないか?」バゾリがトマヤに訊ねた。
「紫薔薇公は怒り狂うでしょうな。」トマヤは言った。「しかし、エラスティアとなれば別でございます。そちらは橙薔薇陛下を通じて私が何とかいたします。勝てば文句は出ないとお約束いたします。」
橙薔薇陛下というのはロッシフォールでもアミールでもなさそうだ。
「エラスティアと言っても、この状況下にあって日和見して甘い汁を吸おうとしている連中だ。」ヌマーデンが言った。「滅するになんの気兼ねが必要か。」
「エラスティアの貴族たちの領地のほうがモブートの貴族たちの領地に比べて近い。」ラヴノスが言った。「むしろ効率的かと思います。ただ残っているのは子爵領ばかりなので兵を増やすのは難しそうですが。」
「かまわん。我々の意志を示すため、どこかは焼き討ちにせねばならんだろう?」トマヤが言った。「エラスティアの貴族はみんな懐柔し、モブートの貴族だけ打ち滅ぼしたでは示しがつかん。」
「そうですね。」ラヴノスも同意する。「それに、時間をかけて味方を増やすより、ジュリアスが釣り出されてくれるのが一番良い。」
ジュリアスを引き出すためにエラスティアの村を一つ潰すって言ってるのか。
エグイことを考える。
そこに暮らしている人間たちの事は何一つ考えていない。
ジュリアスは助けに出てきちゃうだろうな・・・。
これ、困った。
ラヴノスが提案した作戦は採用され、3500の反王家軍はついに南に向かって進軍を開始した。
おそらく、これが戦争の始まりなのだ。
少し現状を整理しておこう。
まずは地理。
北にワラキア、南に王都があって、その周りはエラスティア領とモブート領であることくらい分かってれば大丈夫だ。
ワラキアにトマヤ達率いる反王家軍、王都に公爵たちが率いる王国軍が居る。
反王家軍は3500、王国軍は2000ちょい。
王国軍は数で負けているが、王都という堅守を持っている。
反王家軍には遥か東、エラスティアから援軍が向かっていると思われる。何時つくか、数は多いのかなど正確な情報は判らない。
ベルマリア軍1500がワラキアから東に行った辺りに陣取って、反王家軍のエラスへの退路を塞いでいる。
ワラキアの北からミンドート軍が王国軍の援軍に向かっている。その数6000以上。だが、2週間では到着できない距離にいる。
ざっくり言ってしまえば、王国軍はミンドート軍が到着するまで持ちこたえたい。一方、反王家軍はミンドート軍が到着する前に王都を落としてエラスティアからの援軍を待ちたい。
この状況で、ワラキアの反王家軍が王都周辺の貴族たちに向かって進軍を開始したのが今の状況だ。
反王家軍は王都を直接攻めずに、王都の周りで暴れることで王都に籠っている兵を引きずり出す作戦だ。
というわけで、反王家軍は数日の南下を経て一つの領地に進軍した。
そこには、反王家軍に加わらなかったエラスティア子爵の収めている村があった。
反王家軍は、村が新たな王であるアミールを受け入れなかったという名目で、宣戦布告した。
もちろん領主はアミールについて何一つ口にしていない。
そもそも彼には選択権が無かった。たまたま、ワルキアからモブート領へ向かう途中の一番近い所に彼の領地があったというだけで見せしめにされることは決定していた。
残念ながら、街道から外れた所にあるその村には【感染】者が居なかった。
そして、反王家軍が村に到着する前、宣戦布告を告げに言った小隊がこの戦争の口火を切ってしまった。
自分はその場に介在することはおろか、覗き見ることすら叶わなかった。
戻ってきた小隊がバゾリたちに報告した内容によると、その村の領主はすぐに逃走を決断したらしい。
その村には兵士は最低限しか残っていなかった。街道から外れた小さな村を襲うやつなどいない。ならば国のためにと数少ない兵士を王都に派遣してしまっていたのだ。そんな訳で領主は逃げることを選んだ。
幸いだったのは、領主が自分一人で逃げることを選ばず、村人たちを少しでも逃がすことを選んだ事だった。
彼は村人に逃げるように命じたことがばれて小隊に殺されたが、彼のおかげで100人ほどの村人のうち数名の村人が逃げおおせることが出来た。
反王家軍は小隊がすでに制圧していた村で虐殺を行い、燃やした。村人たちの死体は弔われることも無かった。
兵士たちは略奪と凌辱の味をもって反王家軍に加担したことを是と受け入れた。
そして、兵士たちは次の村へと進軍を開始した。
この事はすぐさま王都や辺りの領主たちの知るところとなった。
そして、予想していた2つの出来事と、予想していなかった1つの出来事によって、事態はさらに混迷を極めていくことになる。




