2-5 a さいきんの冒険もの
さて、あれから一週間が何事もなく過ぎた。
ロッシフォールからグラディスをアリスのもとに戻すという約束があったおかげか、ここ一週間、アリスは素直におとなしくしている。
「そんなん、別にいいじゃないっ!」アリスが吠えた。
おとなしくしている。うん。
「殿下。王女は位が高くて好き勝手出来るがだからこそ丁寧な物言いが必要なのです。時にはズルをしてでも、嘘をついてでも皆を納得させなくてはいけません。」
「なんでよ!正しいことが言えない世の中なんて間違ってるわ。バカじゃないの?あんた。」およそ何倍も離れている人間に対する言葉とは思えない態度でアリスが言った。
「正しいことを言われたからってその人が納得するとは限りません。殿下とは別の正義がその人にはあるのです。」と、オリヴァ
「そんなのくたばれよ!」
アリスは立ち上がって椅子の上に片足を乗せるとオリヴァに向けて××指を立てた。
おい!
そのポーズどこで覚えた!?
意味わかってんのか!? そして、このポーズこの世界にもあるんだ・・・。
「そんなのどこで覚えたんですか!」オリヴァが珍しく声を荒げた。
「スタンに教えてもらったのよ。『死ねよ、クソ野郎』って意味よ。」アリスがどや顔で言った。だいたい前世のと同じ意味だった。
ってか、意味解ってやってんのかよ!
そもそも、いつ教えてもらったんだ?自分がネズ子とクロで追っかけっこしてた時だろうか?
「死ね!クソ野郎って意味よ!!」アリスがもう一度繰り返すと再び××指をたてた。
今はオリヴァと礼儀作法兼道徳の授業中だ。
【飛沫感染】をしまくったせいで、いまだ細胞の数は2万2千と心もとない。が、増殖を抑えていたこともあり、かなり悪化していたアリスの体調のほうはこの一週間でほとんど回復した。
ご覧の通りの元気なご様子だ。
オリヴァはここ一週間、アリスの大好きな経済の授業は一度も行っていない。道徳、公式の場での立ち振る舞い、他人とのコミュニケーションなど、学問とは少し異なることを行っている。
公式の場での立ち振る舞いに関してこそアリスは完ぺきにこなしたものの、その他の授業はだいたいアリスは何かしら納得がいかずオリヴァに咬みついた。
だいたいの場合はオリヴァが上手くいなして、アリスは素直に納得したりはぐらかされたりするのだが、オリヴァから納得できる理由が聞けなかったときはアリスは絶対に引かなかった。王女として育てられたせいか、理由もないのに人に対して譲歩するという概念がこの子には薄い。アリスの中の正義を通したいと言えば聞こえがよいが、要するに我儘なのだ。そこらへんがアリスらしさだと言ってしまえばそうなのではあるが。
「二度とそのような格好をしてはいけません!」さすがにこのポーズはオリヴァも予想外だったようで、珍しく頭ごなしにしかりつけた。
「何でよ。便利じゃん!」アリスがもう一度××指を立てた。
こんな感じでアリスとオリヴァがじゃれ合っている間にオリヴァに【飛沫感染】が成功した。
白血球も問題なく倒し、オリヴァに駐在できることが確定したので、今日はこの後オリヴァの一日を観察することにした。




