10-6 a さいきんの王国革命戦記
10日後。
ワラキア周辺。
ワラキアの畑を踏み荒らすことなど気にもせず、大勢の兵士たちが集まっていた。
ワルキアやヌマーデンたちがかき集めた軍は3000人近くに膨れ上がっていた。
王に首にされた貴族たちの他にも今回の小麦の件や王に不満のある貴族たちが加わっていた。
とりあえずこいつらの事を反王家軍と呼ぶことにする。
「少ない。」ワルキアが言った。
「モブート系の貴族たちがあまり同調をしてくれなかったのです。」モブート領の元子爵の一人が言った。
「それとジュリアスが我々の行動に感づき、ベルマリア領内で大々的に兵を集め始めたようです。」ブラッタが付け加えた。「そのため、一部の貴族が招集に応じなかったのだと思われます。」
「騎士たちの間にも何かしらの理由をつけて招集に応じなかったのも多い。」ヌマーデンが言った。「あいつらはまだ貴族だからな。そこにしがみつきたいのだろう。」
「ぽっとでの男爵位など、褒美のために作られた仮初めの爵位だとも解らぬか。だから地位の低い連中はあてにならん。」ワルキアが苛立たし気に鼻を鳴らした。
「皆様、ご報告が。」伝令が報告に入ってきた。ワルキアの軍師をしていた男だ。「ベルマリア軍がエラスとの間に陣を取っています。ミンドートの兵も動き出しました。」
「バカな!?もう!?」ワルキアが目を白黒させて叫んだ。
「早いにもほどがある!」反王家の貴族たちから驚きの声が上がった。「ミンドートもだって!?」
「我々と同時期には兵を集め始めていたものと思われます。」
「情報が漏れるのは仕方がないとは言え、それにしても早すぎるだろう!」ワルキアが言った。「そもそも、ベルマリアにしろミンドートにしろ王都から何日かかると思っているのだ!」
ベルマリアにも王都からベルマリア各地に伸びる形で小麦の運搬網は構築されていた。
そのシステムはアキアから王都への運搬網と同じだ。
つまり、要所要所に馬車の駅があって、馬が待機している。システムとして運用されていないだけで、ベルマリアでもやろうと思えば尻痛激速馬車システムが活用できるのだ。
今回、このシステムが活用され、反王家の貴族たちが元領地で軍を編成し始めるころにはベルマリア中がこの事態を知る事となっていた。
ミンドート領も似たような感じだ。
モブートの貴族たちが彼らに呼応しなかったのも、モブートからの命が先に飛んでいたからだ。
反王家軍の貴族たちが泡を食ったように騒ぎ出す。
「くそう、早すぎる!このままだと北西からミンドート、北東からベルマリア、そして王都。3正面になりかねない。」
「ワルキアにしろヌマーデンにしろ場所が最悪だ。こちらが先行していると思って、兵の移動と全ての方向を見渡せる場所を選んだのが仇となっている。」
「エラスからの連絡はまだ無いのか?」反王家の貴族たちは戸惑を隠せない。
ちなみにエラスからの連絡も何も、彼らの放った伝令3人は途中でゲロ吐きまくっていてエラスまで着いてすらいない。
ラッキーなことに3人の伝令全員が【感染】者だった。
代わる代わる【嘔吐】させてたもんでおかげで、しばらくの間、彼らに付きっきりでしんどかった。宿主が【嘔吐】するとそれが伝わってこっちも気持ち悪いので、それも辛かったし。
かといって彼らを気絶できるほどの【感染】数はいなかった。それにうっかり落馬で死んじゃっても可哀そうだし。
馬に【感染】が済んでからは、【操作】で足止めしたり、馬に【嘔吐】させてしばらく馬が走りたくなくなるようにさせることができるようになった。そのおかげで、ようやく伝令に付きっきりで気持ち悪い思いをしないでもすむようになった。
そして、自分が足止めしている間にジュリアスとミンドート公が上手くやってくれていたようだ。
モブート側への伝令には一人も【感染】者が居なかったので、モブートの貴族たちが様子見に回ってくれたのは助かった。
「もう、いっそ王都に進軍するのはどうでしょう?」ラヴノスがとんでもないことを提案した。
「王都だと?簡単に落とせるものか。」トマヤが反対した。
「内側でバゾリ卿が呼応してくれれば何とでもなるのではないでしょうか?」ラヴノスは言った。「内部に呼応者が居るのであれば攻城など容易いのではないかと?それに王都を占領してしまえば、逆に簡単には落とされません。」
「たしかに、このままベルマリア軍と王都軍の両方を相手に野戦をするよりはよっぽど可能性があります。」ワルキアの軍師が言った。
「王都を落とせば呼応する貴族たちも増えよう。」ワルキアも同意する。
「もしくは、元々の予定通りエラス本体に合流するかだ。」と、一つ慎重なのはトマヤ。「エラスとの間に現れたというベルマリアの軍はどのくらいいるのだろうか?エラスでの準備が進んでいるのなら、連携して挟撃もできる。」
まずいな。ベルマリア各地から次々増援が合流しているが、今はまだ1000そこそこしか居ない。
エラス側から進軍してこられたら挟撃だし、そもそもこの反王家軍よりも数が少ない。
かといって、王都も実は兵は少ない。ジュリアスが王都の兵士をかき集めているが全部で3000といった所らしい。うち1/3くらいがバゾリ下の兵士たちだ。
ミンドート公領からこちらに向かっている援軍は6000ほどで、こちらは反王家軍よりも多い。ミンドート公は王都に留まっていながら恐ろしい速さで、軍を編成し進軍を開始させた。が、軍は早馬システムには乗れない。ミンドートからの援軍と、エラスからの援軍とどっちが早いかと言った所だろうか。
エラスにも【感染】者が居ない訳ではないのだが、主要人物を見張れるやつがいない。
ロッシフォールとアミールがすでにエラスに到着しているのかも解らなければ、エラスが反王家軍の事を認知しているのかすらも解らない。
敵がどう動いているか掴めないというのは不安だ。
最近、王都では【感染】者から好きなだけ情報収集が出来きていたので、知らないことがあるというこの状況に少しイライラする。
状況を知るために彼らの伝令をエラスに到着させてしまったほうが良かったのだろうか。
ラヴノスがいきなり王都に進軍とか言い出した時には驚いたが、反王家軍には王都に進んでくれたほうが良いのかもしれん。バゾリにはちょっかいが出せるからそのタイミングで気持ち悪くなってもらえば良い。
「ベルマリアからの援軍がそれだけとは限らん。さらなる援軍が来ていると考えるべきでしょう。」ワルキアの軍師が言った。
「進むなら王都か。」ワルキアが言った。「情報がハッキリしている。」
よし。
「ジュリアス公の動き方がリスクではあるが、エラスの本体やベルマリアの動向が分らない以上、まずはバゾリ候と合流するのがよさそうだ。」ワルキアが状況をまとめて提案した。
貴族たちは少しざわついたが、王都を攻める案に異を唱える者は出てこなかった。
「ベルマリア軍には斥候を飛ばせ。」ワルキアが軍師に命じた。「エラス側への連絡も強化しろ。」
タイミングをみてバゾリを【嘔吐】させねば。
当のバゾリは何をしているのだろうか?
バゾリに視点を移動してみる。
あるれ?
なんで、バゾリ、王都の外に居るん?




