10-5 c さいきんの王国革命戦記
「アリス公よ。」王は言った。「申し開きはあるか。」
「私はやってません!!」
くそう、やってないのは知ってるけれど、アリスがそう言うとなんてやってそうなんだ!
いつも4人の公爵たちが会議を行っている例の部屋で、ロッシフォールを除く3公と王がアリスを詰問していた。
概ね詰問しているのは王だ。
「ならば、農民たちがウソをついているという事だな?」王が大袈裟に立ち上がった。「ならば、その嘘つき共に目にものを見せてやろうぞ!」
「いや、ちょっ、」盛り上がってきた王にアリスが慌てる。
このままだと農民たちに迷惑が行きかねない。
「では、心当たりがあるのか!?」
アリスが正直に答えた場合、ミスタークイーンやオリヴァたちはどのような咎を受けるのだろうか。
アリスはやさしい子だ。絶対に正直には答えないだろう。
「・・・申し訳ありません。彼らに何かしらを期待をさせるような物言いをした可能性があります。」
良かったぁ~。
ミスタークイーンたちを売り飛ばさなかった~。
「不用意であったな。」王は言った。「何を成すことができようとも、国民の反乱を誘発するようなことがあるのはならん。」
「・・・申し訳ありません。」
アリスは愁傷にしているがめっちゃイライラしてる。この後、ミスタークイーンがえらい目に合わされそうだ。
「ロッシフォールにも罰を与えた。」王は言った。「お前にも罰を与えねばならない。」
「・・・・・・。」
「自分の発言の管理も出来ない者に政治に加わってもらうわけにはいかぬ、」
それ言ったら、今回の騒ぎは「蜂起&廃領」って言い出したアンタの責任でもあるだろうに。
「お前の全ての責務を解く。」
「ノワル地区はどうなりますの!」アリスが叫んだ。
返答に気をつけよ、王。
内容によってはアリスは武によって道を切り開こうぞ。
「引き続きカルパニア=スプリグスに任せる。」
100点。
「でしたら、よろしいですわ。」
ほら。やっぱ、よろしくなかったらなんかするつもりだった。
「アリス公の公務への参加の禁止する。また、次期王位継承に関して、アミール共々白紙に戻す!」
えっ!?
「なっ!?」
「陛下!?」
マジかよ!王位剥奪?
3公も思いのほか厳しい処断に驚きの表情で口をあんぐりと開け、言葉を失っている。。
アリスは難しい顔をしているっポイ。眉のあたりにしわが乗っているのを感じる
折角、ここまでアリスをのし上げてきたというのに、また白紙に戻ってしまった。
速攻アミールが次期国王!ってならなかったのは良かったけれど、アミールにしてみれば完全なとばっちりだ。
やっぱロッシフォールが後継人をしてたからだろうか?
このタイミングで後継者問題を白紙にして、あんた死んだらどうすんねん。
・・・・・・あれ?
これ、ほんとにヤバいんじゃねえのか?
3公の驚愕の本当の意味が今さらわかって焦る。
「陛下!それでは万が一の場合にこの国の大変な事態を誰が率いていくというのですか!!」ジュリアスが珍しく声を荒げた。
「じゃ、とりあえず、お主が後継者候補1位な。」
「え゛っ!?」ジュリアスが絶句する。
「陛下?お気でも触れられたか!?」ミンドート公も参戦してきた。「アリス殿下とアミール殿下は本当によろしいのですか?」
と、思わず尋ねてから、ミンドート公はアリスがこの場に居ることに思い至ってハッとした顔をした。
「構わぬ。予の後継者はジュリアスとする。」アリスではなく王が口を開いた。「その次の候補はアピスな。」
「な゛っ!?」今度は娘の名を上げられたミンドート公が絶句した。
「陛下。私についての処分が決まったのでございましたら、ここにてお暇させていただきます。」アリスは自分の代わりの王位候補の話が始まったので、この場には居るべきではないとの判断をしたようで退出を提案した。
「うむ、細かい今後の処遇については追って沙汰する。当面謹慎しておくように。」
アリスは黙って頭を下げた。
「元気でな。」王は今までの話はなんだったのか、愛娘に向けた心からの台詞を洩らした。
「陛下もお元気で。」アリスは少し事務的に答えると城を後にした。
王都のどこかの一室に、領地の剥奪を食らった貴族たちが集まっていた。
まじか。
どこかじゃなかった。
知ってるとこだった。
貴族たちの集まっていたのは、オリヴァとミスタークィーンたちが最初に密談してた酒場の地下室だった。
酒場の主人も、まさか自分の酒場でこの国を揺るがす大事件の話し合いが度々されているなどとは思っているまい。
それも、敵味方共に同じ部屋を使って話し合いをしていたとは。
「アリス殿下が黒幕だっただと!?」貴族たちの一人が、ここが公共の場だということも忘れ声を上げた。
「はめられたのだ!」ヌマーデンが言った。「あの小娘はいけしゃあしゃあと正義をがなり立てて暴力を振るったが、そもそもあの暴動を指揮していたのはあいつだったのだ。」
「だから、あれほどあの王女には気をつけろと言ったではないか。」と言ったのはトマヤだ。今回の会合にはトマヤも参加していた。
「トマヤ伯よ。そなた王女にちょっかいを出していたな。」今回の件で罷免された伯爵の一人が言った。「そのせいではないのか。」
「当てこすりも大概せよ!」トマヤが元伯爵を怒鳴りつけた。「お前たちは貴族ではなくなったのだぞ?このままでは帰る領地も家もなくなるのだ。」
「くそ、王が!」ヌマーデンが吐き捨てるように言った。「誰のおかげでこの国が栄えていたと思っているのだ!」
「代々続いた伝統のある爵位の重みを王家が理解して居ないのだ。ネルヴァリウス王にしろ、あの王女にしろ!」別の一人が言った。
「こんな間違った政治が許されていいわけがない。」
「我々の権利を取り返さねばならない。」
「アミール殿下を担げ挙げて立ち上がるしかありませんね。」と、言い出したのはラヴノス。
こいつ、みんなが方向性も分からず盛り上がってるところに具体的な解決案を提示してくるから嫌い。
「爵位を剥奪された者以外にも、王に愛想をつかした貴族たちが味方になってくれそうだ。」トマヤが言った。「バゾリ候もこちらについてくれる。」
バゾリも!?
王都のトップだぞ?
バソリが反アリス側に付いたら、王都が反アリスになるってこと?
「ロッシフォール公はどうしている?」ワルキアが訊ねた。
「アミール殿下を連れて謹慎中だ。」答えたのはトマヤだ。「我々が立ち上がれば必ずやついてくれようぞ。」
「エラスティアに向かったのではなかったのか?」
「その通りだ。エラスティアで謹慎するという名目でアミール殿下を連れて、副都エラスに向かった。」トマヤが答えた。
「アミール殿下を連れて??」貴族の一人が訊ねた。違った。元貴族の一人が訊ねた。
「つまり、そういう事だ。」
どういうこと?
「橙薔薇が動くのか?」
ん??
橙薔薇って前にも聞いたような?これもロッシフォールの事だろうか?
あいつ紫じゃなかったっけ?
「『陛下』とつけねば怒られるぞ。」トマヤがたしなめるように言った。「橙薔薇陛下には私からお伝えする。このままではアミール殿下の王位はない。我々の味方となってくれるはずだ。」
『陛下』って王以外にも使える呼称なのか。
「アミール殿下を擁立するとなれば、兵士たちの士気も上がる。」
あああ!分かった!
革命軍がアリスを擁立したように、こいつ等、アミールを旗印にクーデターを起こすつもりだ
もしかしたら『橙薔薇陛下』って言うのも、箔をつけるためにロッシフォール辺りが名乗ってるかアミールに名乗らせてるかしてるのかもしれん。
「至急ロッシフォール公と合流したいところだな。」
「それにしても、ロッシフォール公がアミール殿下を連れ出すのをよく王は許したな?」
「もしかして知らんのではないか?」
「さすがにそれはないだろう・・・。」
ありうるぞ。あの王、自分の子供は清く正しく健やかに育っていると思ってるから、何一つ現実が見えてないし。
「ケネス卿も居ないと聞いている。」ワイシが言った。「報告が上がっていないのは、あり得ない話ではない。」
「近衛騎士隊が居るだろう。あの偏執者たちの集まりが王に報告してるのではないか?」
「我々が即時更迭されず、領地に戻って荷物の整理をする時間が与えられていること自体ぬるいのだ。」ワルキアは鼻を鳴らした。「かつての厳しい王はもう無い。仮にアミール殿下の事を知っていたとしてもそれに何の問題があるかまで頭が回らんのだろう。」
「もはやあいつは死んでいないだけの腑抜けた絞りカスよ。」ヌマーデンが言った。「我々がこの国を正さねばならぬ。」
「アミール殿下は我々の側にある。」トマヤが言った。「我々はこの国の安定のため本当の革命を起こさなくてはならない。」
自分たちの安定だろうに。
「平民の豚共の口だけの革命などとは違う『真の』革命を起こして、この世のノミ共を排除してくれるわ。」ヌマーデンが握りこぶしを固めた。
「兵を集めましょう。まずは我々の身の安全を固めねばならない。」
「バゾリ候には多くの兵を王都から連れ出していただき、こちら側に加わって貰わねばなりませんね。」
「エラスティア内部からアミール殿下を筆頭にした本体が到着し次第、王都を正面から落としましょう。」
「そうだな、エラスティア・モブートvsミンドート・ベルマリアという図式になりそうだ。」
「私も一応はベルマリアですよ。」ラヴノスが言った。
「そうでしたな。失礼。」
「しかし、問題はミンドートとベルマリアです。」ラヴノスが言った。「アキアはさすがに無視して良いでしょう。兵も少ないですし1か月以上かけなければこちらまで来れないでしょうし。」
「ミンドートも軍を集めてここまで到着するとなればかなりの時間がかかる。」トマヤが言った。「目下の問題はベルマリアと王都の軍隊だな。ちっ。どっちもジュリアスか。」
「バゾリ侯爵に王都に潜んで頂いて、内部から我々に呼応していただくのはどうでしょう?」ラヴノスが提案した。
させないよ?バゾリにも感染済みだ。
感染細胞数はそれほどでもないが【嘔吐】は効く。
「なるほど。それはいい案だ。」この場に居た貴族たちが次々と賛同を始めた。
「エラスに援軍を要請の伝令を出そう。」ワイシ卿が言った。「もしかしたらエラスの橙薔薇陛下が我々の意図と異なる動きをする可能性もないわけではない。」
「しかし、エラスは我々に応じてくれるだろうか?」ヌマーデンが少し弱音を吐いた。
「心配するな。橙薔薇陛下は絶対に動く。」トマヤが言った。「アミール殿下も必ずや我々の元においでになろう。」
「ならば、橙薔薇陛下の本体と合流してから一気に王都に攻め上がる。アミール殿下がおいでになれば、王都に攻め上がる理由にも、バゾリ卿が蜂起する理由にもなろう。」ワラキアが言った。「我々は、この辺りで兵を集めつつ、王都への進軍経路と要所の確保するのが良かろう。」
「ヌマーデンかワルキアに集まるのがよいでしょう。万一、兵を集めているのが知れて、王都の兵が我々を各個撃破に出てくるのが最もバカらしい。」貴族の一人が言った。
「あそこならエラスからの援軍とも合流しやすい。いざベルマリアの軍が集まりだしたら牽制することもできるし、ミンドート領も睨めます。いい案だと思います。」ラヴノスが賛同する。
「良さそうだな。各子爵たちへの作戦の伝達は各伯爵たちに任せる。」トマヤが言った。「王やジュリアスが動き出す前にどれだけこちらが準備を整えられるかがポイントだ。まずは我々の軍がある程度形になってから周辺の貴族たちに声をかけて味方を増やそう。」
「我々も長居せずに明日明後日にでも王都を出立し、各々の領地で兵隊の確保に取り掛かったほうがよさそうだな。」
「そうですな。我々よりも先に王都に兵が集まったり、ベルマリアの援軍が王都の兵と合流する事があったら大変だ。」
「では、我々は兵を集めることを優先しましょう、ワルキアに出立してからモブート領の貴族たちにも伝令を出すのがよさそうだな。」そう言ったのはモブート領の元伯爵だった。「モブート領でも輸入小麦で苦しんだ貴族たちは数多くいます。おそらく応じてくれる貴族は少なくないはずです。」
「そうですな。」と、ラヴノス。「ありがたいことに、今回の事に反感を持っている貴族が王都の周りには多い。」
というか、王都という交通の要所が輸入小麦の売買に有利だったんだよね。
「では、我々と我らが国の未来を祝して、今一度乾杯としゃれこみませんか?」
「そうだな。」ヌマーデンも同意してグラスを持った。「真面目に話し合っているだけだと、息がつまってしょうがない。」
「トマヤ伯。音頭をとって頂けますでしょうか?」ラヴノスがトマヤに向けて言った。
「では、僭越ながら。」トマヤがグラスを取った。「今日、今この場が新しきファブリカ国の第一歩であらんことを。アミール陛下に乾杯。」
「「「乾杯!」」」




