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10-5 b さいきんの王国革命戦記

 結局、ラグリンドに援軍が要請されたが、ラグリンド兵がラヴノス領に到着した時にも、ワルキア領に到着した時にも千人単位で居た暴徒たちは誰一人いなくなっていた。

 それは子爵領を回っていたワルキアの兵士たちにしても同じだった。彼らは蜂起している農民などには一度として遭遇できなかった。

 農民たちはまず各地の子爵領で蜂起した。そして、兵士たちが集合し攻めてきそうになる前に解散したのだった。

 ミスタークイーンたちが配備した斥候と伝令が農民たちの集合と解散を上手く操った。

 そして、伯爵領の兵士たちが各子爵領を巡回している間に農民たちは伯爵領に再集結した。

 兵士たちは、どこの子爵領でも暴徒と出会う事は出来ず、散々歩かされた後、ブラッタで一晩明かし、翌日にワルキアに帰ったところでワルキア伯にこっぴどく怒られたのだった。

 そして、同じようなことが各地において行われた。

 結局、伯爵領7か所、子・男爵領27箇所で蜂起は起こった。

 侯爵領ではさすがに問題は起こらなかった。侯爵に対して蜂起がおこっていたとなれば、それは王都や公領の根幹都市が囲まれているという事になるので、王本人の進退すらも考えなくてはならない笑えない事態だ。

 蜂起が発生したのはいずれも王都の周りだ。大半がエラスティア領の貴族だった。


 貴族たちが王の信頼を裏切ったように言ったが、もしかしたら、王はこれほどの多くの伯爵領や子爵領で蜂起が起こりうることを分かっていたのかもしれない。

 なぜなら、今回デモを起こされた貴族のたちはほぼすべてが反アリス派の貴族たちだったのだから。

 反アリス派とは幼いアミールを担ぎ上げて甘い汁を吸おうなどと考えるような輩な訳だからロクなのが居なかったという事だろう。いや、それ以前に、王位継承ばかり気にしていて、領民たちにまったく目が向いてなかったという事なのかもしれない。

 ジュリアスとミンドート公はわざわざ独自に増税を封じる策を講じた。ロッシフォールとモブートは国政会議の時点で強い反論をした。4公たちはこうなる気配を察知していたのだろう。

 一方で、領主たちが兵を動員してまで蜂起を抑え込むというやりかたに思い至らなかったアリス一人だけが、こんな事態にはならないと信じていたのかもしれない。


 さて、伯爵たち7人は1000人規模の蜂起を起こされたわけで、さすがに隠しようも無く、次の日にはこの事は王の知ることとなった。

 王は当事者から状況を聴いたうえで、34人ともを全員厳粛に処理すると通達した。

 34人からいっぺんに言い訳を聞くと訳が分からなくなるので、彼らは伯爵とそれに属する子爵でグループに分けられて、王に対する申し開きの最後のチャンスを与えられることとなった。

 一組目。

 ワルキア卿はとその旗下の子爵たちが王の前に跪いていた。

 4公は居ない。

 代わりにケネスと大勢の近衛騎士たちが王に付き添っていた。というわけで、ケネスからライブ中。

 いつもは6人くらいしか居ない近衛騎士たちが全員集められたのか、計36名が王の後ろとワラキア卿たちの両側で威圧するように待機していた。

 エウリュスは王の後ろ側の割とセンター寄りのポジションを務めていた。なんだかんだで偉いんだな、あいつ。

 ケネスは王の左後ろに控えていた。

 今回の件については王が対処しなくてはならない。

 爵位とは代々の王が任命してきたもの。剥奪や罷免も王にしか行えない。返納の受理もそうだ。

 アリスは王女なので、権利がないと言えない訳でもないが、現王がいる以上、与奪権はネルヴァリウス王に集約されている。だから、カラパス卿がアリスに対して爵位を返納した際もアリスはアキアでは略式的な受理に留めた。アリスが王に承認を取るかアリスが王となるまで、アリスの預かりという形を取ったのだ。

 目の前に跪いている貴族たちに王は冷たく言った。

 「で?予の信頼を裏切ったそなたらは、最期に何か申し開きをすることがあるか?」

 死にかけのヨボヨボでも、顔が神経質で陰鬱だから、説教モードの雰囲気だと声に怒気が無かろうともすごく恐い。

 「農民の蜂起などという、大それた事ではなかったのです。」ワルキア伯が今更ながらに言い訳を始めた。「衝突も一切ございませんでした。」

 「ラグリンドに援軍まで頼んで何を言っておるのか?」

 「それは、この子爵どもが蜂起を許し、抑え込むことが出来なかったせいにございます。」ワルキア伯は言った。「彼らが私の兵士を持って行ってしまったせいで、、1000人規模のちょっとした領民の集会を注意することもままならなくなってしまったのです。」

 あ、部下を切り捨てる系だ。

 「我々は念のためにワルキア伯にご報告をしたまでです。」ブラッタ子爵が言った。「援軍はワルキア様のご善意から行われたこと。」

 「実際、ワルキア様の援軍が到着する前に農民たちを解散させることには成功しております。」ゴーア子爵もここぞとばかりに追随する。「我々は特に援軍の必要なく領地を正常の状態に戻すことに成功しております。」

 させるというか、蜂起してたみんな援軍と入れ替わりにワルキアに行っちゃったからね。

 「なっ?」ワルキア伯は部下の裏切りに慌てて「私は仕方なく兵を出したのにございます。兵がいればワルキアでの蜂起などありえません。実際、兵の居る間は蜂起を許さなかった。もしや、お前たち、ワルキアでの蜂起を促すためにワザと援軍を要請したな!?蜂起されたなどとウソをついて私を陥れようとしているのだ!!」

 もう、自分で蜂起って言っちゃってるの気づいてないんだろうなぁ。

 「な、何を世迷言を。」子爵たちが声を上げた。

 「そうだ!!」ワルキア伯は続ける。「金に厳しいからってどこかの誰かに買収されたな。裏切り者め!陛下!この者たちは実際に蜂起など起こっていないのに私に援軍を要請し、私を陥れようとしているのです!もしかしたら農民をワルキアに送ったのもこやつ等かもしれない。全てはこやつ等の企みに違いありません。」

 「なんと!陛下!これはワルキア卿の妄言でございます。」ブラッタ子爵が言った。

 「実際に蜂起は起きています!」ゴーア子爵たちも続く。

 「現に今も農民たちが私たちの館を取り囲んでおります!」

 子爵たちがみんなで頷いた。

 「ダメではないか。」呆れたように貴族たちの言い争そいを眺めていた王が思わずツッコんだ。

 語るに落ちすぎだろ。

 「もうよい。次が控えておる。」王は呆れたように言った。「お前たちには領地を納める資格がないことは今の言い争いを見ていてよう判った。そなたらにも家族は居よう。資産までは没収せぬ。即刻次の住処を手配しろ。これ以上の慈悲は無い。」


 貴族たちの申し開きは次々と勧められた。しかし、結局誰一人として王を満足させることのできる言い訳を出来た者は居なかった。

 王は、ここまで面談をした33人全ての貴族たちの爵位を没収した。

 最後はベルマリア公領のラヴノスだった。

 彼はベルマリアで唯一、農民に蜂起を許した貴族だった。

 増税をしていたのは間違いないが、エラスティアの貴族たちに比べると微々たるものだった。通常の調整レベルの増税だったようだ。ジュリアスが独自に発布した増税対策にも違反していない程度の増税だった。

 それこそエラスティアやモブートにはラヴノス領以上の増税をしておきながら蜂起の為されなかった領地が幾つもあった。

 そもそも、彼は損失は出しているが、そのほとんどをエンヴァイにおっかぶせることに成功している。なので輸入小麦の収入が今後断たれたという問題は在れど、現在進行形では金に困っていない。

 彼の元々の執政が悪すぎて民衆たちの恨みを買ったという訳でも無かった。彼は良い領主というわけではなかったが、領民に取ってはごくごく一般的な領主だったようだ。

 では、何故蜂起されたか。

 原因はエンヴァイだった。

 レジスタンスの今回のたくらみを利用して、エンヴァイがラヴノスに復讐を仕掛けたのだ。

 ラヴノス領だけ、他の蜂起とは大きく様相が違った。

 エンヴァイの集めた農民たち500人は周りとの連携は一切なく、兵士の居るラヴノスの街を『武器を持って』取り囲んだのだ。

 ミスタークイーンたちの企てた蜂起には戦いの香りが一切しなかった。常に農民たちの数が圧倒的に多く、兵士が到着する前に彼らは逃走した。一部の農民に至っては次の蜂起のために伯爵クラスの街へと移動している最中に援軍の騎士団や兵士たちとすれ違い際に挨拶を交わしているくらいだった。そこに戦いの影は無かった。

 しかし、エンヴァイの蜂起は武力がそこに有りきだった。

 ラヴノス側の兵士たち250名ほども、いつでも攻撃を仕掛ける準備をしていた。いざとなった場合に備え、ラヴノスを吐かせるか気絶させる準備はできていたが、いざ、開戦となる前に、ラグリンドからの援軍が向かっているという報告があり、農民たちは逃げるように解散した。

 ベルマリアは極端な増税を行った貴族がラヴノスを含めても一人も居なかった。そのため、レジスタンスの蜂起の対象からは外れていた。そのため、ベルマリアの伯爵であるラグリンド伯はラヴノス領に簡単に援軍を送ることができたのだ。

 もう少し、援軍が遅かったら始まっていただろう。

 さて、そのラヴノスはただ一人王の前に立たされた。

 「ベルマリア領で反乱を起こされたのはそなたの所だけのようだ。」王は言った。「何か言い残すことはあるか?」

 「今回の農民共の反乱はアリス王女殿下の企てに依るものです。」ラヴノスは王に言った。

 やっぱそうくるか・・・。

 建前上はその通りなんだけど、君んとこは違うんだ。君んとこだけ違うんだよ・・・。

 なんか歯がゆくて、むずかゆい。

 「はて、また、酔狂なことを言う。」

 「どうせ、終わりでしょうから、最後まで言わせてください。」ラヴノスは言った。

 「良かろう。」

 「農民や市民たちを扇動した者たちが居たことについてはご存じかと。」

 「ふむ、怪しい者共が農民たち率いていたらしいというのは聞いておる。」王は答えた。「彼らはそもそも増税が故に農民や商人たちの間から発生した集団であろう。」

 「農民や一介の商人にこのように人を集め、組織することなど出来ません。」ラヴノスは言った。「彼らを指揮していたのはアリス王女殿下です。王女殿下は増税がなされるより前にこの作戦を考えていたと思われます。だから、陛下の改革案にケチをつけ、農民が蜂起したら貴族は廃領などという愚劣な案を提案したのです。」

 「それを口にしたのは予であるが?」

 「陛下が言わなくば王女殿下が自ら提案したのでございましょう。」

 「ばかばかしい。そもそも、どうやって王女たるアリスが農民や商人共とつるむことができるというか。」

 そうそう。良かった。王もバカじゃない。

 今回は本当にアリスの知らないとこで全部起こってるからね?

 「ヌマーデンにございます。」

 ヌマーデン?

 「ヌマーデンじゃと?」

 「ヌマーデンでの反乱にて、アリス殿下はお一人で城壁の外に出られ、農民たちの説得に当たったと聞いております。」

 「なっ!?」王の顔面が真っ白になった。「なんじゃと!?一人城壁の外に出て暴徒どもと話をしただと??」

 なんけ王めっちゃ驚いてるけど、知らなかったのか?

 さては、ケネスと4公、隠してやがったな。

 あっ!ケネスがこっそり逃げ出し始めやがった。

 慌てて、エウリュスに移動する。

 ラヴノスはヌマーデンでの経緯を見てきたように王に説明した。

 「というわけで、王女殿下が2時間ほど農民たちを説得し、それによって一人の犠牲も出さずにあの場を収めたと聞いています。

 「ケネス!!!」王が振り向けどケネスの姿はそこに無い。

 「今しがた、お手洗いに出て行ってしまわれました・・・。」すぐ後ろの近衛騎士が王に伝えた。

 「おのれ・・・。」振り向いた王の顔は即座に激怒と解かるくらい怒りに満ち満ちていた。「後で見つけたら予の部屋に連れてまいれ。生死は問わぬ。」

 「陛下。」ラヴノスは王のケネスへの怒りはお構いなしに言った。「今回の王女殿下の企てはこのヌマーデンにて為されたものと思われます。」

 そ、そう繋げるのか・・・。

 「農民たちも馬鹿ではないぞ。たった数時間の話し合いで、命を賭ける反乱に加担する農民たちがあれほど集められようものか。」王は冷静だ。妄語には乗らない。

 「しかし、アリス殿下の美貌とカリスマがあれば成しえましょう。」

 「そ、そうかな?」と、王。

 ふざけんな!親バカ!!

 「事実、ヌマーデンでの反乱のあとから、農民と商人たちが野外で何やら集会を開くようになりました。」

 そういえば、ミスタークイーンたちが野外で講演し始めたのってこのころからだったっけ。嫌な感じで適合しやがった。

 「王女殿下がヌマーデンで農民たちに指示し、その農民たちが、王女の名の元に、賛同する仲間を増やしていったのだと思います。」

 ああん、アリスが居なくてもトラブルが勝手に形を成していく。

 いや、ほんと、ヌマーデンでアリスがしゃしゃり出るよりずっと前からミスタークイーンたちが勝手にやってたんだって。

 「陛下も先ほどおっしゃられました。農民たちも馬鹿ではございません。王女が協力するくらいのことが無ければ、たとえ対増税という旗印があったとて、命を懸ける反乱に加担する農民たちがこれほどまでに集まりましょうか?」

 「・・・。」自分の言葉尻を捕らえられて、王が黙りこむ。

 おのれ。

 根も葉もない論理がめちゃくちゃ真に満ちた形で、王に吸収されていく。

 なまじミスタークィーンたちがアリスの名を語ってるもんだから、調べられたら証拠も出てきちゃうんだよ、これ。

 嫌な感じで、偶然が重なり合っていく・・・。

 あれ?

 これってもしかして偶然じゃなくて、本当にアリスがヌマーデンで出てっちゃったからなのでは?

 アリスがヌマーデンで一人で出てく→ヌマーデン卿をぶっ飛ばす→ミスタークィーンたちの言ってたことは本当だった!→ミスタークィーンの所に人が一気に集まりだす→対処できなくなって野外遊説に変更→アリスの国政会議の噂をミスタークイーンたちが聞きつける→蜂起

 アリスにその意図がなかっただけで、ラヴノスの言ってる事ってだいたい合ってるんじゃないか?

 というわけで、最後の最後にアリスが巻き込まれて、34人の貴族たちの処断は終わった。

 ラヴノスは粘ったものの、結局、彼も含め34人全員の爵位が剥奪された。

 一気に34人も辞めさせちゃって国は大丈夫なのかね?

 エラスティア公爵ロッシフォールも5人の伯爵と24人の子爵の反乱の責を問われて更迭された。放置しっぱなしだったのだから仕方のない話だ。

 モブート公とジュリアスは厳重注意で済まされた。さすがに公爵が3人いっぺんに抜けるのはシャレにならないようだ。

 ついでに、ケネスも更迭された。

 ロッシフォールもケネスも爵位の剥奪はないが、しばらく閉門蟄居させられるようだ。

 復帰次期は王の気分次第らしい。

 ケネスが居ないと王が何やってるか見えんので困る。

 ともかく、ロッシフォールが居なくなって、反アリス派も片っ端から居なくなって、いきなりすごく安泰になった。あとはトマヤだけかな?

 と、良い点もあったがそれだけって訳にはいかない。

 後日。

 ついに、アリスが呼び出された。

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