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10-4 c さいきんの王国革命戦記

 国政会議で王の話を聞いた貴族たちの反応はそれぞれだった。

 王もアリスもこの国の貴族たちを買い被っていた。

 何人もの貴族が王の信頼を裏切る形で動いた。

 彼らは自らの損失を取り返すべく領民に重税を課したのだ。

 そして、反乱など起こさぬように武力で領民を厳しく取り締まった。

 王が禁じたのは増税ではない。領民に反乱をおこされることだ。

 つまり、反乱さえ起きなければ爵位を没収されることも無い。

 彼らは領民に増税を課し、兵で押さえつけた。

 仮に反乱が起こったところで、制圧してなかったことしてしまえば良いと考えているようだった。

 貴族たちにとって、領民は簡単に押さえられることのできる、脆弱な存在だった。


 

 

 ワルキアという街の郊外。

 ボロボロの家屋の中で、痩せほそった農民が頭を下げていた。

 「お願いです。これ以上持っていかれてしまっては食べるものが何も無くなってしまいます。」

 ここは彼の家だ。

 ノワルがスラムだったころのタツの家よりは少しまとも、といったくらいの家だ。

 茅葺きの屋根からは所々空の青が垣間見えた。

 あばら屋の床は板が張られておらず、土間になっていた。

 その土に農民は頭を擦りつけるように土下座をしていた。

 彼の後ろでは、同じく痩せた奥さんと子供だろうか?が小さく縮こまって震えていた。

 彼はワルキアの近くに住む農民だ。ワルキアの農民たちも重税に苦しめられている。

 ヌマーデンのようにアリスの名を語って勝手に暴動を起こす農民が居るんじゃないかと覗きまわっていたら、時代劇のワンシーンのような場面に出くわした。それがこれだ。

 彼は元々からして貧しい農民だったが、ここに来て通貨での追加納税を言い渡された。だが、払うものが無く、税金の取り立てに来た二人の兵士に土下座をしているのだ。

 「そう言われても、出すもん出してもらわねぇとこっちが困んだよ。」兵士の一人が言った。「お前らワルキア様の領地に住まわせて貰ってるって自覚ある?」

 「人間なら恩義とかはさ、きちんと返そうぜ。な?」もう一人の兵士が土下座をしている男の横にしゃがみこんで言った。

 「どうせお前ら、もうだめじゃん?ヒエなんてもう誰も食わねえしさ。」

 「だったら、もう今全部出しちゃってもおなじだろ?」兵士はそう言って農民の部屋を物色するように見回した。「お、あそこかな?」

 兵士はそう言って炊事場に敷いてあったボロボロの敷物を引っぺがした。

 「お、あったり~。」

 敷物の下には木でできた落とし戸があった。

 「良く見つけたな。」

 「だって、こいつらなかなか死なねえじゃん?」兵士が悪びれもせずに言った。「絶対食料隠してるって思ったんだよね~。」

 兵士は扉を押し開けて、大きなズタ袋を引っ張り出した。

 「お願いです!それを持っていかれたら本当に死んでしまいます。」

 「別にいいんじゃない?死んじゃえば。」兵士が言った。「君らの作物なんて二束三文にもなってないし。」

 「お願いします。お願いします。」農民が必死に懇願する。

 「何が出るかな~。」兵士は農民のことなど全く無視して袋を開けた。

 「ぎゃあ!!」

 「虫っ!!」

 袋の中を覗き込んだ兵士たちが尻もちをついた。

 袋の中にはこの家のノミやらダニやらムカデやらゴキブリやらクモやらが集まっていた。

 みんなご苦労さん。

 もうちょっとしたら散っていいからね。

 って、ああっ!ここで卵生んじゃダメっ!

 「こんなん食ってんのかよ・・・」兵士がドン引きで呟いた。

 「なんだよ、ぬか喜びさせやがって。」兵士の一人がそう言いながら室内のものを物色し始めた。

 「鍋くらいか?いちお金属だし、ちょっとは足しにゃあなるだろ。」兵士がかまどの所に置いてあった小さな鍋をポケットに入れた。

 「全然足んねえよ。農具はそもそもワルキア様のもんだから手が出せねえし。」

 兵士は部屋の中を荒さがしするようにうろつきまわるが、そもそもの物が無い。

 兵士が部屋の隅で子供を抱きしめて震えていた奥さんの顎をつかんで自分に向けた。

 「家内には、家内には乱暴しないでください!」農民が慌てて立ち上がった。

 「しねえよ。鶏ガラじゃねえか!」兵士が吐き捨てるように言って奥さんの顎から手を放した。「こんなんじゃ客もとらせられねえ。」

 奥さんと子供が声を殺すようにして泣き始めた。

 「こいつらまとめて王都に売れねえかな。」

 「こんな奴らを?売りつけるあてでもあるのかよ。」

 「いやな、なんか王都の暗黒街に人間を買い取ってくれる組織があるらしいんだ。」

 何!?

 王都に暗黒街なんてあるの?

 「たしか、極東強人組とかいう組織だ。」

 ノワルだった。

 アリスのネーミングセンス何とかならんかな。

 間違いなくアリスのつけた名前のせいでそう言った組織だと勘違いされとる。

 「一応、ボスに提案してみっか。」

 「そうだな。」兵士が相槌を打った。「にしても、今日はどうする?鍋一つじゃ怒られるぞ?」

 「あの虫入りのヒエでも持っていくか・・・。」もう一人がため息をついた。「ふるいで虫をどかせばなんとかなっだろ。」

 まじかよ・・・。

 あれでも持ってくの?

 「お願いです。ご慈悲を。」農民が再び地面に頭を付けた。

 ちょっとごめんね。

 「あの食料が無くなったら、子供までおヴぉうぇええ。」

 農民が突如【嘔吐】した。

 「とっちゃん!」奥さんが慌てて顔を上げた。そしてその瞬間【嘔吐】した。

 「おいおいいおいおい。」兵士が慌てて跳びさする。

 「マジか?あんなん食ってっからじゃねの?」兵士が言った。「病気になってんじゃねえの・・・。」

 「おい、おまえ鍋捨てろ。そんなもん持ってってみんなでゲロ吐いたら溜まんねえ。」

 「ったく使えねえ。」兵士はそう言ってポケットの鍋を地面に捨てた。

 「行くぞ。こいつ等ダメだ。」

 「あ~あ。お前らのせいで、ノルマいかねえよ!使えねぇなぁ!」

 兵士たちは吐き捨てるように言うと家を出て行った。

 床に散らばった水っぽい吐しゃ物には、消化しきれなかった草や木の根、虫の足が混ざっていた。

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