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10-3 b さいきんの王国革命戦記

 城壁の上から落ちてきた穴あきクッションに座ったアリスの前に、農民たちの代表が車座に座っていた。

 さらに、それを取り囲むように農民たちが集まっている。

 「礼を言う。」農民の代表がアリスに頭を下げた。「本当に兵士たちが居た。」

 農民たちは数人に様子見に行かせ、彼らを挟みこむように配置されていた街の兵隊たちの存在を確認した。

 「あんた、何もんなんだ?」代表が訊ねた。

 「王女だっての。」全然信じてもらえなくて、徐々にご立腹のアリス。

 状況と態度が王女を全否定しとんねん。

 学校で王女バレした時も全然信じてもらえなかったもんなぁ。

 「いろいろ出来たのは『王女』なんだからの当然でしょ。」アリスが王女を強調した。「あんたたちの言いたいこともきちんとヌマーデンに伝えてあげるわ。」

 「話が通るのなら、あんたが何者でも良い。」代表は言った。

 「あんた奥さんに人の話聞かないとか言われない?」

 「この間離婚した。」

 「でしょうね。」アリスは不機嫌に言った。「この騒ぎは良いとして、他になんかやらかしてないわよね?人を殺したりとか。」

 「門番の兵士たちと少し押し問答になって怪我をさせた。」代表が言った。

 「そんくらいなら別にいいわ。」

 よくねぇよ。

 「暴力はダメよ。言いたいことを通すのに暴力を使ったら誰もついてこなくなっちゃうわ。自分の主張に正義があると思ってるんだったらなおさらよ。」アリスが諭すように言った。

 「本当にあんたなら、ヌマーデン伯に話をつけられるんだな?」代表が少し不安そうに確認した。

 「まかせて。王女だもの。殴ってでも言う事聞かすわ。」

 人の暴力を否定しておいて自分は全力でこぶし握るの止めろし。

 『お前が言うな。』という言葉すら、スピードで凌駕する手のひら返しに適切なツッコミの言葉が見当たらない。

 「でも、あんたたちの話にスジが通ってたらだからね。」

 「分かった。兵士を止められる立場の方だ。ご婦人を信じよう。」代表は言った。

 「何で、王女なのは信じてくれないの?」アリスは悲しそうに眉をひそめた。

 一般的な王女は相手を殴り倒して言う事を聞かせようなんて考えないからじゃないかな?

 農民たちはアリスに今回の事の説明を始めた。

 ざっくり彼らの言ったことをまとめると、「王女がアキアや王都の市民たちの暮らしを改善した。王都のスラムの連中ですら小麦や砂糖の入った菓子を食べていると聞く。しかしヌマーデンの農民の生活は良くならないどころか増税が課された。我々の暮らしが良くならないのは、この街の領主であるヌマーデン伯が王女の施策に協力しないせいである。」ってことらしい。

 「スラムがうらやましいってこと?」農民たちの話を聞いたアリスは素直な感想を口にした。もっと言い方なかったのかな?

 「アキアの農民やスラムの連中ばかり優遇されて不公平だと言いたい。」農民は答えた。

 ここの農民たちも改革前のアキアと同じように食べるものだけを与えられいて、それ以外は何も持っていない状態だった。

 だが、今、アキアの農民にはアリスに与えられた富を持っている。

 そして、農民たちよりも劣る存在であったスラムの人々にもアリスはたくさんの物を与えてしまった。

 不公平と思うのは無理はない。

 「正しい言葉を使いなさい。」アリスは言った。「使うなら不平等。そして、彼らが豊かになったのは彼らがちゃんと努力したから。公平よ。」

 「彼らは王女殿下に助けられたからそうできたのだ。」農民が言った。「次は我々が助けて貰っていいはずだ。」

 「そのとおりね、でも運は不平等。機会だって不平等。」アリスは言った。

 それを平気で言えちゃうのはアリスが不平等の頂点にいるからじゃないかな?

 「でも、ヌマーデンがめちゃくちゃ増税を課してるってのは理解したわ。」アリスは言った。そして、自分に言い聞かせるように呟いた。「地方税があまりに自由なのも考えものね・・・。」

 「それではヌマーデン伯に口利きしてくれるのか?」

 「いいわ、それであんたたちが思うほど暮らしが良くなるかは解らないけど、増税については何とかしてあげる。」アリスが言った。「王にも厳しく進言するわ。」

 王に進言するという言葉に農民たちが動揺する。

 「王にも顔が効くのか・・・。」

 「王女だって言ってんでしょ。」

 ここに来てようやく農民たちの間にアリスが本当に王女なんじゃないかとの疑惑が芽生え始めた。

 「もしかして、あんた、王の隠し子か何かか!」

 何でやねん。

 「アー、リー、スー!私はアリス!!」

 農民たちがざわめく

 「仮にあんたがアリス殿下だとして、何でこんな所にいるんだ?王女は城に居るもんだろ!」

 「仮・・・まあいいわ。」どうしても信じて貰えないアリスがさすがにちょっと言葉を失う。「ミンドート領に行ってたのよ。ミンドートの農民たちがあんたたちみたいに作物が売れなくて困ってるから、改革してんのよ。」

 「何で、俺たちじゃなくてミンドートなんだ!!」

 「ミンドート公に頼まれたのよ。」

 「あんたが王女殿下だっていうんだったら、なんで我々を助けに来ない!」聴衆から声が上がった。「我々はあんたが助けてくれるっていうから、今回の集まりに参加したんだぞ!!」

 「だってほんとに知らないんだもの。」アリスは負い目が無い時は平然とものを言う。「そもそも、私があんたたちのボスだなんて誰が吹き込んだのよ?」

 「ハリーとかいう商人だ。」


 ああ。やっぱりそうか。

 ミスタークイーンが講演をしてる時に使っている偽名。

 それがハリーだ。


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