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EX オリヴァによる革命の区分

 歴史学の教鞭もとってきたオリヴァは革命について大きく分けて二通りがあると解釈していた。


 一つは、市民たちによる革命。もう一つは権力者による革命だ。


 市民が権力者を担ぎ上げて革命を起こしたり、権力者が市民を焚きつけて革命を起こさせたりする場合もあるが、こういった場合でもオリヴァは革命の本質で二通りのどちらかに簡単に仕分けることができると考えている。

 すなわち、革命成功後市民たちやその代表が政を行うか、革命を仕掛けた権力者が政を行うかの違いで考えればよい。

 いわゆる前者は市民革命や解放と呼ばれ、後者はクーデターと呼ばれることが多い。

 失敗した場合はどちらも反乱と呼ばれる。

 ファブリカの建国は市民革命に近いものだった。王となったのはそれまでの権力者ではなかった。

 オリヴァは今回、これから、ファブリカで起こる革命をどのように区分けするかで戸惑っていた。

 今回行われるのは、市民革命ではなく、クーデターや簒奪に近いものだ。何故なら、革命成功後に執政を行うのは王女アリスだからだ。そこに、商人・市民側から政治への参入を主張するつもりも無い。

 歴史上の革命と異なる点はそこではない。

 オリヴァの知る限り、クーデターには首謀者が居る。権力者であったり、市民たちであったりする。いずれにしろクーデターを起こし実権を握ろうという者だ。

 だが、今回の革命によって権力を握るアリス自身は、自分がその首謀者であることを知らない。それどころか、革命が起こる事すら知らない。

 もちろん、首謀者であることを知らないまま担ぎ上げられる例はたまにある。しかしそれは幼い子をだしにその親が権力を握ろうとしたときにのみに起こる事例だ。

 今回の場合はそれが当てはまらない。

 何故なら、今回革命される相手がその親なのだから。

 アリスはこのような革命は絶対に望まないだろう。

 しかし、アリスを中心に革命は回り、アリスは自らの親である愚王を処断した英雄とならなくてはならない。それが、今回の革命だ。


 「私はこの革命に加担してよいのだろうか。」


 オリヴァにとってアリスは最高の教え子にして、最も手がかかった娘だった。

 オリヴァは思う。

 多分、アリスは王には向いていない。

 あの子は人を率いるには弱い。

 やさしすぎる心の持ち主なのだ。

 人一倍意志が強くて頑固なだけなのだ。

 おそらく、どれほど苦痛を強いられようともあの子は根を上げることはすまい。

 あの子自身もそれが分っているから、意識的に全てを割り切って片をつけようとしている。

 しかし、彼女の心は悩み続けるのだ。

 

 そのことを相談した時、ミスタークィーンは言った。

 「アリス王女を担ぐと決めた時点で自分達には責任がある。それは国に対してだけではない、王女本人にとってもだ。」

 ミスタークィーンはアリスの事を気に入っている。彼の娘が亡くなったのがちょうど今のアリスくらいの歳だった。

 ミスタークィーンにとっても彼女はただの王女以上の存在であることをオリヴァは知っている。

 オリヴァにしてもそうだ。

 ずっと教師という職業に全てをささげてきたオリヴァには子供は居なかった。

 教え子たちはたくさんいた。が、アリスには特別な、生徒と先生という垣根を越えた思いがあった。

 アリスと同じくらい手のかかる教え子が居なかったわけではない。しかし、アリスのように生徒と先生という垣根をノータイムで乗り越えてくる生徒は居なかった。他の生徒とは、生徒と先生、あるいは貴族と市民、雇用側と非雇用側という垣根がうっすらと存在していた。

 すでに子供を成せる年齢ではないオリヴァはアリスを少しだけ娘のように思っていた。

 もちろん、アリスは本当の子供ではない。

 生まれてなに一つ分からないところからアリスの面倒を見ていたわけではない。

 ほんの数年懇意に過ごしただけだ。

 だから、親が子供に何をすべきかという事についてはまったく理解が及ばない。

 親が娘を悲しませてまでも娘に何かを与えたいと思うのは、ただの親のエゴではないのだろうか。私はこの革命を止める立場に立たなくてはならないではないだろうか。

 解らない。

 オリヴァにはその答えは出せなかった。

 オリヴァは王女をミスタークィーンたちに推薦した本人だ。この革命に責任がある。

 アリスはこの革命を望まないだろう。

 しかし、国としても、次に国王となるアリスにしてもこの革命が大きな利点があるのは間違いないのだ。

 ミスタークィーンも悩んでいる。

 だが、彼はこの国の政の腐敗を止めるために商人組合を立ち上げた徒だ。彼はそれを成すためにアリスに近づいた。その順番を彼は間違えない。彼にはアリス以外にも大きな責任があるのだ。

 彼はこの革命を進めるだろう。

 たとえ、それがアリスと彼自身を苦しめることになってもだ。


 オリヴァはじっと自分の手を見つめた。


 私のこの手はアリスをどうしたいのだろう。



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