2-4 b さいきんの冒険もの
さて、ひと冒険終えたアリスは、部屋に帰ってくるなり呼び鈴でマハルを呼んだ。
「マハル。王女は楽しかった?」アリスはおずおずと部屋に入ってきたマハルに声をかけた。
マハルは昨日までの自分アピールの態度はどこへやら、何もアリスに返す言葉が見つけられず、おびえたようにアリスを見た。
マハルの態度の変化もしょうがない。彼女が今まで抱いていた貴族への既成概念が、貴族のトップたる王女には何一つ合致しなかったのだろう。目の前に居るマハルの取り入りたかった王族は、マハルの考えていたものとはおよそ別の生き物だったのだ。
アリスはそんなマハルの様子など気に留める様子はない。アリスはマハルにニッコリ笑いかけて言った。
「また、お願いね。」
やめい。
アリスの言葉を聞いた、マハルが明らかにびくっとする。
「お腹すいたわ。」アリスが部屋に来てから一言も発さないマハルに言った。
「お、お昼ごはんのお時間が、もう少しでございますので、その、少々お待ちいただけないでしょうか。」ようやくマハルがおずおずと口を開いた。
「マハル。お腹がすいたの。」もちろんそんな言葉には耳を貸さないアリス、有無を言わさぬ語気で要求を繰り返した。
一見いつもと変わらないアリスだが、その実、朝から何も食べていない。自分が相当【感染】活動をしたこともあり、結構なお疲れなのがステータスからも判る。
マハルは「か、かしこまりました。急いで用意いたします。」と答え頭を下げると、慌てて部屋を出て言った。
マハルが遅い朝ごはん兼早めの昼食を持ってくるまでの間に、アリスがベッドに寝っ転がって本を読み始めてしまったので、自分もその時間を使って感染者のリストチェックに入る。
今朝、スラムでアリスが確保された際に結構な人数が集まっていたので、【飛沫感染】を試みた。
今回のアリスの脱走のような有事に備えて、誰かアリスを守ってくれそうな人に感染しておきたい。今回こそクロとネズ子でなんとかなったが、正直うまくいったのはラッキーだっただけだと思っている。
というわけで、【飛沫感染】の結果、兵士3スラム民2に感染。
人が集まっているところでの【飛沫感染】はやはり効果が高い。【飛沫感染】は数うちゃ当たるなので、同じ場所に長く居るか、対象の多いところでは【飛沫感染】の効果が高い。そのおかげで感染チャンスはかなりたくさんあった。知ったら外歩くのが怖くなるくらい、人間は細菌にさらされているのかもしれない。
ただ、今回は感染者へ乗り移れた細菌数が少な過ぎたようで、白血球のお出迎えに負けてしまうことが多かった。
自分の場合は【解析】で【抗体】を得られるので一度勝ちさえすれば感染終了だ。しかし、他の細菌の場合、たとえ感染してもそのまま体内で生き続けるのが難しいのだろう。代謝で減ったり白血球にやられたりで放っておけばどんどん数が減っていってしまうからだ。このあたりのルールは前世の細菌の感染の仕様と似ている。
それを考えると、一度勝ってしまえば白血球の影響を受けなくなる自分の存在ってかなり恐ろしい。絶対にやることはないが、もし、このまま存在を気づかれないまま感染を広げたのちに、スキルポイントを貯めて一気に変異して強烈な【症状】を得たら、あっという間にこの世界の人類は全滅だ。というか、人間・哺乳類・爬虫類・昆虫、どの生き物にも感染できるようなので生態系そのものを駆逐できてしまいそうだ。少なくとも陸上動物に関しては一掃できそうな気がする。
しかし、今回、【感染】してみてから気づく。人間って本当に思い通りに動かない。・・・せいぜい利用できて情報網だ。
結局、人間への【感染】では、外界に何かを行使する手段は全く手厚くならなかった。
【操作】しやすい動物たちにたくさん【感染】するか、それとも【操作】で人間が操れるまでスキルレベルを上げるかしないとダメなようだ。
とは言っても、人を操作できる細菌とか恐ろしいにもほどがあるので、元人間の自分としてはその方向で進んだものか悩む。それに、今は動物の【操作】もままならないので、人間を操るとなると結構なレベルにならないとダメかもしれない。
ともかく、現在の感染者はこれで12人(匹)だ。
今後、兵士から二次感染を狙って軍部にも情報網を作ろう。
あと、マハルやオリヴァにも【感染】したい。
ただ、昨日、【飛沫感染】しまくったので、自分たちの数がかなり減ってしまっている。コツコツ貯めてもうすぐ10万に届こうかとしていたアリスの中の自分の個数が今は2万位しかない。アリスのステータスも芳しくないため、しばらくは増殖も控えないといけない。
城内エンデミックはもうしばらく先になりそうだ。




