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9-12 a さいきんの農業改革と戦争もの

 アリスとヘラクレスは、砦からの道を合流地点へと急いだ。

 部隊は、あらかじめ決められていた笛の約束通り、先行して退却していた。

 アリスたちを追いかけてくるものは無く、合流地点まで無事に到着したアリスたちは、ようやくエウリュスたちに追いついた。

 「殿下!!よがったぁ~。」アリスにまかれたエウリュスが遅れて帰ってきたアリスを見て、情けなく泣きながら抱きつことしてきた。

 戦闘でテンションの上がっていたアリスはエウリュスに容赦ないカウンターのひざを入れて意識ごと黙らせてから、兵士たちの安否を確認しはじめた。

 アリスとヘラクレスの合流で全員が揃った兵士たち一団の表情は朗らかだった。

 ちなみに、例の頭部はヘラクレスが砦から出るなりそこらへんにポイ捨てしてきた。

 ここまでの道すがらでアリスに何であんなん持ってきたの?と訊かれ、ヘラクレスは「あそこまで一人で突っ込んでおいて首も持たずに逃げてったら変でしょ。」と答えていた。意外と細かいことを気にする。そういう事言い始めるとアリスの存在なんて『変』も甚だしいんだが。ま、味方にとっても想定外なのだからどうしようもない。

 アリスは足元に倒れているエウリュス以外全員が無事であることを確認し終えると、ヘラクレスに次の動きをどうすべきかを訊ねた。

 「で、次はどうするの?」

 「ん-そうですね。大きめの逃走集団ができてしまったのが良くないです。あの集団の動きを把握しておかないといけない。」作戦を訊ねられたヘラクレスが答えた。「ところで王女?後ろの犬さんたちは?」

 アリスがヘラクレスの指さすほうを振り返ると、狼たちがアリスの後ろにお座りして、パタパタと尻尾を振っていた。

 おまっ!何で来てるん?

 あの後もうちょっとだけ暴れたら、飯分捕って帰れっつったやん。

 「わう!!」狼がアリスに言った。

 「ほんと!?ありがとう!!」アリスが答えた。

 その受け答え、ほんとに合ってるの?

 アリスがしゃがみこんで狼に抱き着くようになでなでとする。

 狼は嬉しそうに目を細めて、もっとなでろと顎を上げた。

 一応、コロニー内での感染経路ってノミなんだよなぁ・・・。アリスになんかの病気を媒介しないように気を付けておこう。【管理】で狼に住みついてるノミたちをじっとさせる。

 アリスは狼たちを次々とモフモフしていった。アリスも狼もとても嬉しそうだ。

 イヌ科は人に慣れるとは言うが、インプリンティングが効きすぎたのだろうか?王都のディンゴとか【管理】も使わず、手づから長い事インプリンティングしてたから、凄いことになってるかもしれん。

 ん?ディンゴって犬なのかな?

 アリスが今回の戦闘の功労者たちを一通り全員撫で終えると、彼らは満足して嬉しそうに帰って行った。

 アリスは帰っていく狼たちに礼を言いながら大きく手を振ると、改めてヘラクレスに訊ねた。

 「これからどうするの?」

 「基本は私たちが登ってきたルートを封鎖します。」ヘラクレスは何事もなかったかのように話を進め始めたアリスに少し苦笑いしながら言った。「半分は、この辺りで待機ですかね。逃亡してきた野盗たちを討ちましょう。ただ、職業兵が集まってできあがった集団については問題です。最後に見た時で50人くらい居ましたから、今はもっと集まっていると思ったほうが良いでしょう。」

 正解。

 彼らは今80人くらいの集団になって、砦の北側に陣取って砦の様子を覗っている。そろそろ、今回の襲撃が何かおかしいことに気づき始めている。

 「彼らが、逃走、あるいは進軍して包囲網のどこかに向かってしまうとまずいですね。」ヘラクレスが言った。

 今のところ、彼らは包囲網のほうへと向かう気配はない。彼らはリーダー不在で右往左往している。

 「あのままやっつけちゃったほうが良かったんじゃない?」アリスが尋ねた。

 「んー、ちょっと考えましたけど。」

 考えたんかい!

 「王女やられちゃうとそれだけで敗北でしょ?さすがに撤退が正解でしょ。」ヘラクレスは大事など何も無かったかのような口調で言った。「てか、御大将自ら先陣まで来ないで下さいよ。自分の生死が勝敗のリスクと共にあることをきちんとわきまえるようにしてください。戦地での司令官の命令を聞くのは絶対です。エウリュスさんと一緒に退却するように言ったでしょ?」

 「言ってないわよ?」

 「言いましたって。」

 「ほんとに言ってないわよ?」

 「絶対言いましたって!」

 「あんた、エウリュスには私を連れて退却するように言ったけど、私にはなんも言わなかったもの。」アリスは言った。

 「ああ、ぶっ飛ばしたい。」ヘラクレスが思わず天を仰いだ。

 分かる!!

 「過ぎた事はともかく、現在の最大の懸念はまとまって逃げた一団ですね。斥候を放って動きを追いましょう。その斥候ですが・・・」とヘラクレスが言い出したところでアリスが挙手した。

 「あたし行こっか?」

 「あんた話聞いてたか?それともバカなのか?いや、バカだろ!バカに違いない!」さすがに額に青筋の浮かんだヘラクレスが吠えた。

 ヘラクレスをここまでイライラさせるって凄いな。アリスこれここに極まれりだ。

 結局、敵の大集団の見張りにはヘラクレスが伝令二人を率いて自ら赴くこととなった。

 残りの精鋭たちは二手に分かれた、一方はアリスが指揮を執り、この辺りを逃げている盗賊たちを捕らえ、もう半分はエウリュスが指揮を取って馬の所に急ぎ戻り、守りの薄いダクスとネイベルの中間らへんにある村や資材置き場を見回る事となった。

 包囲網の方の様子は解らないが、おそらく、砦から逃げ出した盗賊たちとの戦いが始まっていることだろう。




 さて、戦争は山場を越えた。

 だが、もう一つ自分にはやらなくてはならないことがあるようだった。

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