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9-11 c さいきんの農業改革と戦争もの

 「絶妙のタイミングです。仕掛けましょう。」ヘラクレスが言った。

 後ろでみんなが息を飲んだのが分かった。

 幸い、門番も一人減った。

 今は絶好のチャンスではある。

 目の前の柵さえ無力化してしまえば夜襲自体は最高の形で始められる。

 「私がやるわ。」アリスが飛び出した。

 「ちょっ!」ヘラクレスが止めようとするも、アリスは茂みからウサギのように飛び出て行ってしまった。

 砦の柵を越えないうちには騒ぎは起こせない。

 もはやヘラクレスは見ているしかなかった。

 アリスの飛び出しは、門に残った見張りの視線も巡回の兵士のタイミングも完全に計っていた。見張り塔の兵士についてはまったく気にしていなかったので、そこは運任せだったのだろう。

 アリスは丸太で作られた自分の背丈よりも高い柵をちょんちょんとアクロバティックに乗り超えて砦の中に侵入した。

 2mくらいの壁ではアリスは止められない。

 この世界で一番忍者に近い存在、それがアリスだ。きっと。

 幸い、見張り塔の人間もアリスには気づかなかったようだ。なんの声も上がらなかった。

 アリスは、柵の向こうに降り立つと、そのままダッシュで門の見張りの背後に駆け寄った。

 さすがに気づいて振り返ろうとする見張りが後ろを振り向ききる前にアリスは見張りの後頭部を殴打し、見張りは声を上げることを許されなかった。

 「あ、別に、叫ばれても良いんだった。」

 アリスは柵の扉を開け放った。そして、隠れているみんなに手を振った。

 ヘラクレスたちは周りに野盗が居ないのを確認して、門の所に駆け寄った。

 「アリス王女相手だと、兵法の基本が成り立たないかもしれませんね・・・。」ヘラクレスが呆れたように言ってから抜剣した。

 ヘラクレスは後ろを振り返り、緊張で兵士たちに向かって叫んだ。

 「行くぞ!!」

 「おー。」アリスだけ拳を上げた。

 ヘラクレスが大声を上げながら砦の中へと駆け出し、続いてみんなもやけくそのように叫びながら続いた。アリスも楽しそうにヒャッハーと叫びながら続いた。

 そんなんだから戦闘狂なんて呼ばれるんだ。

 「敵だ、敵が大軍で攻めてきたぞ。」野盗側のお気楽な見回りたちが声を上げてくれなかったのでヘラクレス自ら叫ぶ。

 夜襲組の兵士たちも続けて叫んだ。「夜襲だ!!」「城の兵士が攻めてきた。」

 ここら辺は打ち合わせ通りだ。

 「敵だ!!敵が攻めてきたぞ!」少し離れた見張り塔からついに大声が上がった。「数は・・・」

 彼はこちらの少ない人数を知らせる間もなく、搭から落ちた。

 彼の口を塞いだのはエウリュスの矢だった。

 得意とは言っていたが、本番一発はすごいな。なんだかんだで近衛騎士だ。

 

 戦争が開始された。

 いや。

 戦争と呼べるものではなかった。

 テントから顔を出した野盗の首が刈り取られるかのように落ちた。

 夜襲隊は近場のテントを切り裂いて中に入り、起きぬけの野盗を蹂躙していく。

 敵は完全に慌てふためいていた。

 武器すら手にせずテントからかけ出てくるものもいれば、武器を持っていても何もすることができず、逃げようとするところを後ろから切り捨てられる者も居た。そもそも、起き上がることも出来ずにとどめを刺される者も多かった。

 夜襲組の兵士たちはテントから出てきた敵や、テントを切り開いて中で震えていや野盗たちを次々と切り伏せていく。

 アリスは右拳を左手で包み込んで作った素手ハンマーで、テントから出てくる敵をモグラたたきの要領で気絶させていた。

 みんな容赦なく敵を沈めていく。

 と、すぐにヘラクレスが笛を一回吹いた。

 作戦で決められた二人の兵士が門の所に戻り、居座った。

 今回の戦闘ではこの笛の合図で、夜襲組は攻撃から撤退へと切り替わる。

 笛一回が退路確保、二回目が退却の準備をして5分後に退却。三回目の笛は即時撤退だ。

 笛は二つ。ヘラクレスとエウリュスが持っている。

 思わぬ早い段階で笛を吹いたヘラクレスにアリスが近寄ってきた。

 「早くない?まだ、順調よ。」アリスはヘラクレスに文句を言った。

 「王女。最悪のケースが混ざってました。」ヘラクレスが言った。「一部職業軍人が混じっています。この状態から立て直される前に、後退の準備をすべきです。」

 ヘラクレスはそう言うと辺りを見渡して、エウリュスの元へと駆け寄った。

 「エウリュスさん、敵が組織化を企てています。私は相手の集合地点に殴り込みをかけ、相手を混乱させてから退却をします。」ヘラクレスはエウリュスに告げた。「しばらく暴れた後に、王女と軍を連れて退却を頼みます。もし状況が悪いと思ったらエウリュスさんの判断で退却をしてください。」

 エウリュスもこんな時に揉めたりするほど馬鹿ではない。ヘラクレスの要請に素直に頷いた。

 「援軍が来るぞ!そのまま野盗どもを掃討しろ!」ヘラクレスが叫びながら砦の奥へと駆けだした。そして二回目の笛を吹いた。

 ヘラクレスの叫びはもちろんウソだ。

 この手の命令はウソだとすり合わせてあるので、兵士たちは口裏を合わせて大声で叫んだ

 「残党狩りだ!」

 「援軍が来る前に手柄を立てろ。」

 効果はてきめんだった。

 まさか夜襲を仕掛けられるとは思っても居なかった野盗たちはアリスたちの数も確かめず右へ左へと逃げ回るだけだった。


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