2-4 a さいきんの冒険もの
さて、城に戻ってきたアリスへの説教のターンだ。
・・・なのだが、立場上、そして性格上、アリスを絞り上げる事の出来る人間がいない。
唯一、それができるのは国王くらいだが、アリスに甘そうだしなぁ、あの国王。
今回、その役割はロッシフォールが担ったらしい。
もちろん、以前中庭で会った時よろしく、ロッシフォールの話なんてアリスはまともに聞かないだろう。
ロッシフォールもそのことが分かっているのだろうか。すでにこれ以上ないほどげんなりした顔をしている。
「ただいま戻りました。」アリスはロッシフォールが入ってくると優雅に挨拶してニッコリ笑った。先手を打ってロッシフォールの神経を逆なでにかかっているようだ。
さすがに一瞬イラっとした様子を見せたロッシフォールだったが、アリスの「怒るなら怒れよ、全部聞き流してやるからよ」的な態度を目にして大きくため息をついた。
「それで。どうしてこのようなことになったのですかな?」ロッシフォールは相手にするだけばかばかしいと思ったのかこの場を事務的に済ますつもりのようだ。
アリスは部屋を脱走してから、グラディスの部屋に行って逃げ回っているうちに城の外に出て、街のスラムに気づいたら居たと、正直にいきさつを説明した。
「なので、しょうがなかったのですわ。」
しょうがなかったかなぁ?
「で、昨晩はどのようにお過ごしで?」
「街の・・・うーんと、知り合い?の家に泊まったわ。」
「知りあい??知り合いとは?」
「ちょうど通りがかった川の近くで知り合ったのよ。・・・根掘り葉掘り聞くわね?」
「当たり前です。王に報告しなくてはならないので。」
唯一アリスに上から物を言える存在を口に出されてアリスがドキッとする。アリスは不安そうにロッシフォールを上目づかいで見上げながら尋ねた。「お父様なんておっしゃってた?」
「はぁぁぁ。」ロッシフォールがため息と分類して良いか悩むくらいの大きなため息をついて遠くを見た。
王の威厳をかってアリスを叱るとかやってきそうなタイプだと思ったが、期待とは違った反応だ。
「殿下が城を脱走するほど元気になられて、それはそれは喜んでおられましたよ・・・。」
ロッシフォールが両手で頭を抱えた。
それでしょっぱなからげんなりしてたのか。あの王、娘に対してはろくでもないな。ロッシフォールの心中さっして余りある。
「んふ。元気になったでしょ。」アリスは最大の懸念が払しょくされ、嬉しそうに言った。
「どうしたら良いものですかね?」ロッシフォールが嘆いて、再び大きなため息をついた。
「グラディスに会わせてよ。」アリスは何ひとつ反省する様子もなく提案した。「もともとグラディスに会いに行っただけで、城の外なんて行くつもりなんてなかったんだから。」
「殿下はあのメイドに会うことができたらおとなしくするのですか?」
「もちろんよ。ていうか、どんな手段を使ってでも会うけど。」
「・・・・・・・・分りました。」ロッシフォールはしばらく考えた後、素直にアリスの脅しに素直に屈した。
「ちゃんと、毎日好きな時に会わせてよ?」
「毎日って。あのメイドはこの間の件がまとまったら追放ですよ?」
「別に会いに行っても良いなら、追放しても構わないわよ?」
おいおいおい、追放先まで会いに行く気か!?
ロッシフォールも言葉を失っている様子だ。
「よく考えたら、なんで私が会いに行かなくちゃいけないの?」と、アリスがロッシフォールのことは無視して自問し始めた。「グラディスが会いにくればいいじゃない。というより、私、王女なんだから本来グラディスが来るべきよ。そうでしょ、ロッシフォール?」
「別に私自身は殿下がどこほっつき歩こうがかまわないのですよ?」アリスの当てつけのような論理展開を無視して、ロッシフォールは再度小さくため息をついてから個人の感想を述べた。「ただ、もし、殿下に何かあった場合、それが国益になろうとも、王やアミール殿下が悲しむのですよ。」
「じゃあ、グラディス返してよ。」
「いくらなんでも、我儘すぎではないですか?」ロッシフォールが片方の眉をあげた。
「グラディスを勝手に追放にするのは横暴じゃないの?」アリスが咬みつく。
睨みあう二人。
「グラディスを戻さないとこんなんじゃすまないんだからね。」物騒なことを言うアリス。
ロッシフォールがアリスを睨む眼にさらに力が入った。
しばらくの沈黙。
ロッシフォールはアリスを睨みつけながらいろいろ考えたのだろう。目を閉じると、またもや一つため息をついた。
「分りましたよ。何とかしましょう。たかだかメイド一人です。」ロッシフォールがついに折れた。「少しの間、辛抱なさい。」
「ほんと!?絶対だからね!」アリスはロッシフォールのため息のように絞り出された約束に目を輝かせた。
そして一言付け加えた。
「ロッシ大好きよ!」
アリスのそのセリフを聞いて、さっきからため息ばかりのロッシフォールはなおさら大きなため息をついたのだった。




