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9-8 c さいきんの農業改革

 ついに、小麦の作付けが始まった。

 辞めた農民達が一部臨時に雇われ、どんどんとダクスの周りに小麦の種子が植えられていった。

 タツたちは次々と地方へ散って行き、各地でため池の工事も開始された。

 アキア全土のため池の製作指揮には最初にため池を試作した時に集まった人々も参加できるようになった。文字を書く段になるとまだスペルに間違いは多いものの、彼らは皆文字が読め、簡単な計算ができるようになっていた。

 ミスタークィーンの知り合いの商人が作ったメジャーや物差しが追加で入荷された。

 アキアの余っている人手で計量カップやバケツなどが作成され、アキアのため池作りのためだけでなく国内各地に出荷され始めた。バケツや工具、工房の材料が必要となり林業と鉄鋼業が盛り返してきた。

 スラファとキャロルはダクスに残り、アキア各所から集まってくる農民たちに教鞭を取る準備を始めた。もちろん千人単位の人間に教えるのは二人だけではできない。アキアの地で文字が書け算数ができるものは優先して教師になる資格を与えられた。

 元農民の学徒の受け入れは数百人単位で準繰りに行われる予定だが、その間、学徒たちはアキアの地に留まることになる。これによってアキアの宿泊業や閑散としていた商店街に活気が戻って来た。といっても彼らの街での活動費を払っているのはアリスなのだが。

 学徒たちは想像以上に順調に集まった。

 農業を廃した家庭はようやく1年暮らしていけるかいけないかの手切れ金を貰っているだけだったので、一人分の食事が出るだけでも有難いのだ。

 アリスは自らの改革によって彼らに対して痛みを伴わせた。その責任を何とかして取らなくてはならない。

 そのための教育なのだ。

 アリスは今まで、農民しかいなかった小さな集落の中に、教師と商人と大工を作ることで農民を辞めた人たちが仕事にあぶれないようにするつもりなのだ。

 ここにおいて、アリスは母が残した遺産のすべてをつぎ込んだ。スラムの立て直しに際して儲けたお金もすべてつぎ込んだ。ペストリー卿から借りたお金もほぼ残っていない。

 アリス個人としても、もはや引き下がるわけにはいかない改革となっていた。




 秋風がいつの間にか冷たくなり、季節がすでに冬のアーチをくぐっていることを知った。

 小麦は順調に植えつけが進んでいる。アキア各地から学徒たちの一陣がダクスに到着し授業が始まった。

 そして、アキアの改革以外にも大きな進展があった。


 【冬眠】の効果が切れたのじゃい!!。


 ヒャッハー!

 パンデミックじゃぁあ!

 ついに!ついに!

 みなさん、星井一彦のターンですよ。

 ようやく【冬眠】のせいで効果の確認が出来なかった自動化スキル【管理】の効果を試すことができる。

 【管理】でのオート作戦がどこまで有用なのか、どれほど自分の【感染】活動を押し広げてくれるのか。

 【管理】の可能性にワクワクが止まらない。

 王都のほうが感染源が多いので、そっちを箱庭として試してみよう。

 アリスはアキアにいるので、本当はこっちで【感染】を広めたいのだけれども、今、アキアではアリスとシェリアたちくらいにしか感染できていない。動物軍もネオアトランティスとウィンゼル卿だけだ。アキアには感染源が少ないんじゃあああ!

 いかん、久々にいろいろできるとあってちょっとテンションが高くなってしまう。

 ともかく、アキアでは【管理】任せにせず、意識的に【感染】頑張らないといけないだろう。

 【冬眠】中にもレベルが上がっていた。ちなみに今のレベルは25。【冬眠】中に3つ上がった。感染可能な個体数は16M。つまり1600万だ。あと3つレベルがあがると日本の総人口を感染させるキャパを持つことになる。ネズミ算怖え。

 【冬眠】中にスキルをとることができなかったこともあって、スキルポイントは4点余っている。

 さて、何を取るか考えよう。

 スキルリストを開く。

 ん?

 【冬眠】が【冬眠1】に変わっとる?隣に薄くスキルが追加されている。

 【冬眠2】・・・だと・・・?

 【冬眠】の2ってどういうことだ?【冬眠】期間が長くなるんだったり。だったら嫌だなぁ。

 取得可能なスキルは説明が見れるので選択してポップアップを表示する。

 『自らを活動休止状態にすることで他からの攻撃を受けないようにできる。好きな時に目覚めることができる。』

 今さらかいっ!!

 これって【冬眠】から覚めたのがフラグだろ。嫌がらせかな?

 まあいいや。

 効率的にスキルをとるためには【感染】のための作戦を練らなくてはならない。

 感染経路について細菌観点で少し考えてみよう。

 実は自分たちは乾燥すると死ぬ。

 手の油でも何でも良いから自分たちの周りが濡れていないと長生きできないのだ。

 ところが濡れてる状態だと空気中に飛ばない。絶対飛ばない。何でか知らないが絶対飛ばない。飛べねぇんだ・・・。

 乾いてるきな粉は吹けば舞い散るけど、濡らすと飛ばないみたいな感じだ。

 思考が豆に引っ張られてるなぁ。

 なので、【感染】のためには飛沫として唾液に入って体から飛び出さねばならない。これも、飛んでるうちに乾燥して、いずれ死に至る。

 多分、【空気感染】を取るにはこの乾燥による死を克服しないとダメなんだと思う。

 以前【環境適性】を取った時に、なんとなく、【飛沫感染】の効率が上がった気がした。恐らく、乾燥した状態での寿命が伸びたせいだ。一つの作戦として、ここを上げていけば【空気感染】に至る可能性がある。

 これはアキアにおいてかなり効率的だ。

 アキアは乾燥しているので飛沫が遠くへ浮遊しやすいのだが、蒸発も早いのであっという間に干からびて死ぬのだ。

 それに【環境適正】を上げておければ、【空気感染】に繫がらなかったとしても【飛沫感染】の効率が向上すると考えられる。

 【空気感染】を取らないと【パンデミック】はやはり取れないのだろうか?でも、前世では【空気感染】と関係なくパンデミックって起きてたし。というか【空気感染】でパンデミックってそもそもなんかあったっけ?

 そもそも細菌をやり始めて思ったのが、【空気感染】なんてありうるのか?ってことだ。【空気感染】なんて前世でもこの世界でもないんじゃないかとすら思える。そのくらい、自分は乾燥に弱い。

 細胞単体が風で舞い散るほど乾燥しようものなら普通死んでるので、結局、自分たちは飛沫にのって飛ぶしかない。単に【飛沫感染】が遠くまで届くのが【空気感染】なのだろうか?前世の学会でもそんな感じの認識だったように思える。

 でも、【空気感染】ってスキルがわざわざあるんだよなぁ。

 ところで、何故【空気感染】の話をしているかというと、アキアでは【飛沫感染】が効果的でないからだ。

 むかつく貴族が居ないのでアリスが吠えないのがいかん。飛沫が飛ばないのだ。

 ここでは、アリスに敵対する連中が少ないのでアリスがそもそも声を荒げてしゃべらない。

 アリスが怒ってるにしろ、笑っているにしろ、大声で喋る時ほど大きな飛沫が飛びやすい。これがここでは起こらない。シェリアたち相手には起こるんだけれど、彼女たちにはすでに感染済みだ。

 エウリュスには時々吠えるが、別にエウリュスに感染したくないしなあ。

 と言いつつ、【冬眠】の復活第一号感染者がやっぱりエウリュスっていうね。

 まあ、いっか。こいついちいち騒がしいし。優秀な感染源として頑張ってもらおう。

 【感染】の進め方についてに話を戻そう。

 物理的に【操作】できる動物たちへの【感染】も狙っていきたい。

 アリスがアキアにいる以上、アキアに防御機構を構築する必要がある。

 なんだけど、今、冬で寒いんだよね。

 自分自身に対して細菌として寒さが問題あるって訳ではない。

 蚊が居ないのだ。

 これから本格的に寒くなってくると、【感染】対照の動物たち自身活動も鈍くなってしまう。

 と、言う訳でいろいろ考えた結果。今回はネオアトランティスに頑張ってもらうことにした。

 ウィンゼルは室内オコジョで外に出ないんだもん。

 ネオアトランティスはアキアでは放し飼いだ。そもそも、ネオアトランティスはカゴなんて勝手に出入りできることがバレたので、あっても無くても同じだという事で、アリスもわざわざ新しいカゴを用意する努力をしなかった。

 というわけで、ネオアトランティスはちょいちょい屋外に出かけてくれる。

 基本的にはアリスの傍にべったりだが、時々、トイレに出かける。

 ダクスに来てすぐのころはネオアトランティスは停まっている場所で好き勝手に用を足していたが、グラディスにお願いされて自ら外に出てトイレをするようになった。ほんとこの鳥は頭が良い。エルミーネの時もこっちの【操作】関係なく彼の意志でしゃべってたんじゃなかろうかと思う。

 そして、ネオアトランティスの糞からの食物連鎖狙いだ。

 土の中や落ち葉の下を徘徊する虫たちは、まだ活動が盛んだった。彼らがネオアトランティスの糞を食べる。そして、冬ごもり目前の小動物や鳥たちがこの虫を狙って食べるのだ。ちなみに後半はただの願望だ。やるだけなら損は無いしね。

 ネオアトランティスは一番最初に【感染】したとあって、小さい個体でありながらも、感染細胞の数が多い。たくさんの感染源を糞中に潜ませることができるのだ。

 さて、そのために何のスキルを取るかも考えておかねばならない。

 正直【感染】関連のスキルについては現在の気候のせいで効率が悪い可能性が高い。だったら、【感染】できた動物たちをしっかり【操作】できるほうが良いのではないだろうか?

 【操作】をがっつり上げて、【管理】スキルで動物軍を動かすのじゃ!

 あと【環境適正】を上げよう。ネオアトランティスの糞中での寿命が伸びれば【感染】のチャンスも増えるはずだ。。

 というわけで今回のスキルは【環境適正】&【操作】&【操作】。1ポイント余り。

 最終スキルはこんな感じ。

 【操作7】【環境適正2】【血液感染3】【飛沫感染4】【経口感染3】【管理】【耐久】【嘔吐】【身体保護】【パラメーター操作2】

 【分析】【白血球特攻】【選択攻撃】【免疫B(多数)】

 よし!アキアを【感染】者で埋め尽くしてくれるわ!



 【感染】の仕込みを始めるのと時を同じくして、ダクス周辺での小麦の植え付けが終わった。

 また脱走してきたアリスは、街を囲む城壁の上から満足そうに一面の畑を眺めてつぶやいた。

 「一回帰るか。」

 え?

 今からアキアで【感染】頑張ろうとか思ってたとこなんですが。

22/1/29 後半との整合性を保つため一部スキルについての一彦の考察を改稿しました。ストーリー上の問題はありません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 7-10Cで取得した【身体保護】がスキル一覧に掲載されていないっぽいです。
[気になる点] すみません少し気になるところがありまして質問します > 辞めた農民達が一部臨時に雇われ、どんどんとダクスの周りに小麦の苗が植えられていった。 この世界での文明レベル恐らく中近世だと思い…
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