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9-6 a さいきんの農業改革

 さて、アキアのこの生活。

 アリスが元気な状態で迎える初めてのお城生活だったりする。


 グラディスたちが旅立った後も、数日の間はアリスは忙しくしていた。だが、様々な手配が終わってしまうと、それらの結果や回答を待つ間、アリスには自由な時間が増えてきた。

 アリスを暇にしておいて、この落ち着きのない娘が大人しくしているはずがない。

 アリスはまずは城の中を探検し始めた。

 これについては、グラディスの後を継いだお目付け役のシェリアも問題視はせず、特に気にもとめていなかった。

 ところで、アキアの城にはウェンディという少女が居た。

 彼女はアキア公の孫で、まだ6歳だ。

 朗らかで元気な女の子だ。

 ウィンゼルを追いかけたウェンディはアリスと知り合った。

 やんちゃな二人はすぐに仲良くなって一緒に遊ぶようになった。

 そのうち二人は城の中で遊びはじめ、やがて当然のようにかくれんぼが始まった。

 もちろん、予想通りの事件が発生した。

 アリスがガチで隠れてしまったのだ。

 ウェンディが泣きながら王女が見つからないと皆に話し、たちまち城の中は大騒ぎになった。

 メイドたちが、貴族たちが、右往左往しながら城中を探し回った。

 さて、メイドたちが働く台所のすぐ隣の一角に、パーティションで区切られただけの倉庫があった。倉庫は整頓されており、奥には窓があるために明るく、人間が隠れられるようなスペースはとても無いように見えた。

 この倉庫の入って右側の天井付近に棚があった。棚といっても扉などは無く、せりだした板が二段、壁に据え付けられているだけのものだった。その上にはあまり使う事のない瓶詰めやら道具やらが並んでいた。メイドが背伸びしてようやく手が届く位置にある。

 アリスはメイドたちが昼休憩時間で居なかったのを良いことに、その棚から瓶詰めを半分ほど取り出すと、開いた40㎝ほどの狭いスペースに上半身だけを寝そべらせた。そして、自分の姿が見えなくなるように瓶詰を手前側に並べた。

 棚の長さがアリスの身長に全く足りないため、上半身だけが棚の上で、足は棚からブラ下がっているのだが、アリスはこれを隣にあった窓のカーテンの影に上手いこと隠した。

 注意して部屋の天井の角を見上げればアリスの尻がまる見えなのだが、メイドたちは棚を認識すれ事はあれどそこにアリスを探そうとはしない。

 カーテンも床まで伸びているタイプではないので通常なら全身は隠せない。空中に浮いてでも居ない限り、カーテンの下に足が見えるはずなので、わざわざカーテンを引いて裏まで探そうなどとは誰も思わない。もし誰かがカーテンをめくっていたら、棚からぶら下がっているアリスの足が発見されていたことだろう。

 そもそも、厨房付近は昼休憩の後はずっとメイドが働いていたので、アリスがずっと気づかれないでここに隠れているなどと考える人間が居ない。

 落ち着きのないアリスがずっと隠れてられるのかと言う問題についても抜かりがない。アリスはあらかじめ本を持っていき、瓶詰に囲まれた狭い棚のなかで器用に本を読んだり、何かを計算したりしていた。

 結局辺りが暗くなり、本を読めなくなったアリスが棚から降りてくるまで城は右へ左への大騒ぎだった。

 騒ぎのことなどつゆ知らず、あっけらかんと皆の前に現れたアリスは「台所のテーブルに棚にあったはずの瓶詰が出されてたことに気づけば簡単に推理できたのに、まだまだのようね。」とウェンディに勝ち誇った。

 6歳児とのかくれんぼにどれほどのものを要求してんだか。

 その後、アリスとウェンディは二人そろってシェリアに正座させられて、こっぴどく怒られた。

 次の日にはダクス城内でのかくれんぼ禁止という条例がアキア公の権限で発布された。




 それから数日が過ぎ、城の中を徘徊しきったアリスはやはりダクス城を抜け出すようになった。

 最初、アリスは堂々と門から出かけようとして門番兵に止められた。アリスは兵士にあることない事言って、そのまま出て行こうとしたが無理だった。

 シェリアが前もってアリスを勝手に城の外に出さないように厳命を出していたからだ。

 何だったら、グラディスが出かけて行った次の日には城の見回りの兵の増員はなされていた。

 さすがに強行突破はしなかったのでほっとしていたが、結局、アリスはアキア城からの脱走を果たした。

 そもそも、アキアの城には構造上の欠陥があった。

 その1、城壁が低い(約5m)。

 アリスが城壁の上から両手でぶら下がれば足から地面が3mくらいなので、アリスは城壁の上にさえたどり着けば簡単に城の外に降りれるのだ。

 反論は受け付けない。アリスがそういう風にできている。

 その2、城壁のすぐ内側に背の高い木が立っている。

 もう、その木を使って城壁に登ってくれと言わんばかりに。

 さらに言うと、城内の建屋の屋根からその木まで数メートルしか離れていない。アリスはわざわざ木登りなどという見つかるリスクを冒す必要すらない。その屋根から飛び移れば良いのだから。

 これも反論は受け付けない。アリスは足元から上下左右前後3mの空間になら移動可能だ。

 その3、アリスの部屋から簡単にその屋根に出れる。

 アリスの部屋は防犯の観点から棟の一番上の部屋に置かれている。木に続く屋根は建物からせり出している2階建ての部分の屋根なので、アリスの部屋より低い位置にあった。しかもアリスの部屋の窓からその屋根の上の辺りまで、壁に抑揚を付けるための装飾用のレンガがせり出して5cm幅の道となって続いているのだ。こんなん猫だって余裕で行ける。

 つまり、アリスの部屋の窓から、壁のでっぱりを伝い屋根に降り、屋根から木に飛び移り、それを少し登ってから今度は城壁に飛び移り、そこから飛び降りて街に出るという比較的簡単で安全な脱出ルートがこの城には用意されていたのだ。

 というわけで、アリスは部屋の扉をくぐることすら無く、城の外へと出ていくことができたのだった。

 街中を探検しまくったアリスは夕方、再びのアリス行方不明で大騒ぎになっている城に堂々と正門から帰ってきた。

 はたして、アリスはまたシェリアに激怒された。

 アリスはシェリアに怒られて「反省してます。」と答えたが、もう二度と脱走しないかという問いにも「反省してます。」と答えたので、自分はアリスがまた脱走するであろうことを確信した。

 シェリアは次の日にはさらに見張りの兵士を増やしアリスの脱走の阻止を目論んだ。

 この時、老獪なアキア公はアリス脱走阻止に関するすべての権限をシェリアに委譲し、公爵同等の権力を授けるという名分の丸投げを敢行した。さすがに長年公爵を務めてきた男。面倒ごとへのリスクヘッジが早い。




 もちろんアリスは次の日も脱走した。

 アリスは朝から居なくなって夕方に戻ると昼飯を食べないせいでバレることを学習したため、この日は午前中に訓練や勉強ごとを全部済ませて、昼から脱走した。

 その日アリスは城どころか街からも抜け出して、畑のあちこちにある作業小屋を訪ねて回った。

 そして、そのうちの一つでちょうど働いていた農民を見つけた。

 アリスがケーキを振る舞った農民たちの中に居た、年配のご夫婦だった。

 「こんにちはー。」

 「おや、こんにちは。こんなところにどうしたんだい、おじょうさ王女様っ!?」旦那が途中でアリスが誰か気がついて驚愕する。目玉が飛び出るってこういう事か。

 「ちょっと、ロープって借りれない?あと、お仕事見たい。」アリスはあっけらかんと言った。

 「ちょ、えっ!?」

 驚いている旦那のそばに奥さんが寄ってきた。

 「これはこれは王女様。こんなところに来ても面白いことなんてありませんよ。」奥さんのほうは肝が据わっているようだ。

 「面白くなくたっていいの。」アリスは言った。「ダメ?」

 「まあ、構いませんけれど。」奥さんが困った顔をしながらも答えた。

 「おい、お前、粗相があったらどうする。」

 「あんた、何言ってんのよ。まだ可愛らしい女の子じゃない。娘と同じよ。」

 多分だいぶ違うぞ。身分とかいう意味ではなく中身が。

 「とりあえず、見ていきますか?つまらなかったら帰ってしまっても良いですからね。」奥さんが丁寧語で答えた。王女にと言うより小さな女の子に話しかけるような感じだった。

 「ありがとう。」アリスは嬉しそうに笑った。

 アリスは夫婦の仕事を後ろから眺めて、いろいろと質問をした。やってみたいと言って手伝いまで始めた。

 最後のほうは夫婦二人ともアリスと敬語で話すことは無くなっていた。

 「明日も来るね。」アリスは三時間ほど畑仕事を手伝ってから帰ることを告げた。同時に明日の脱走も宣言もした。

 「ああ、待っているよ。」ご夫婦は街へ帰っていくアリスに嬉しそうに手を振った。

 アリスは夫婦から借りたロープで城壁の上まで登り、兵士に見つからないように注意深く庭に降り立って、散歩している風を装って城の中に戻って行った。

 シェリアは日中アリスをまったく見かけないので不思議には思っていたが、誰に訊いても城門を通るアリスを見ていなかったので安心しきっていた。


 アリスの脱走は、城壁をロープで登っている怪しい女がいると街の人から通報されるまでほぼ一か月、露見することなく続いた。

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