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8-14 a さいきんのギルド運営

 この3か月の間でアリスは強人組を立ち上げ、仕事をなくし行き場を失ってしまった人々を街に沢山送り返した。

 スラム自体も街と同格になりつつあった。

 ブラド候の妨害もジュリアスの協力のもといなすことができた。

 そして、本日、二回目の送別会が行われた。

 この送別会はアリスたちが最初に掲げた目標を達成し、強人組が新たなステージに立ったお祝いでもあった。

 例によってカルパニアが大暴れしている一方で、アリスは少し元気がない様子だった。

 アリスは皆が酔っ払ってきたころを見計らって、人の輪から離れると、例によって静かに飲んでいたヘラクレスとケンとポーキーの所に合流した。

 「お邪魔するわね。」アリスが言った。

 「どうしたんだ?今日は少し大人しいじゃないか。」ケンが尋ねた。

 「うーん。ちょっと、悩みごと。」アリスは答えた。

 こりゃまた、珍しいな。

 「そりゃまた、珍しい。」そういうの口に出しちゃうのがヘラクレスのヘラクレスなところだよな。

 「そうね。」アリスは素直に肯定した。本人がそう自覚してるんじゃしゃあない。「自分の事じゃないのよ。」

 「相談なら乗るぞ。」ケンが漢らしいことを口にした。

 「いや、あんたの事なのよ。」

 「は?」ケンは思わず声を上げた。

 「あんた、これからどうしたい?」アリスはケンに訊ねた。「このままじゃあんただけ巣立っていけない。いつまでもここで働く事になっちゃう。」

 「なんだ。そんなことか。」何を言われるかと不安顔だったケンの表情が緩む。「別にこのままで構わない。」

 「でも、こないだスラムから旅立ちたいって言ってたじゃない。ショウみたいになりたいって。」アリスは言った。「私はこれからいつまでもここを手伝えるか分からない。かといってあなたにここを委ねたら、あなたをここに縛りつける事になっちゃう。」

 「たしかに街で暮らしたい思ってたこともあったけど、この仕事が性に合ってるみたいなんだ。だから、そのあたりは構わないよ。」ケンは特に考えることもなくすんなりと自分の気持ちを言葉として紡いだ。

 「でも、強人組は仕事じゃないのよ?」

 「?というと?」

 「強人組は、あくまで寄り合い。本来、儲けを出してはいけない事業なの。手数料は取っているけれど、それは、組合の人間が羽ばたいていきやすくするために付けているものなのよ。だから、あなたが頑張って働いても儲けにつなげてはいけない。そういう事業。そんなのあなた我慢できる?」

 「なんだかんだで給料は貰ってるぞ?」ケンは不思議そうな声を上げた。

 「そりゃ、働いてるから無給ってことは無いわよ。あなたがどんなに一生懸命働いて頑張ってもお給料はあんまり増えないってこと。お金持ちには絶対に成れないわ。」

 「なんだ、そんなことか。別にそんなのどうでもいいさ。みんなが巣立っていくのを見るのが楽しいから。」

 「でも、この寄り合いの目的は、みんなが職にあり着くこと。それこそ、あなたが頑張って、みんな巣立って行ったらこの事業は終わってしまうのよ。」

 「それこそ最高の結末じゃないか。」ケンは言った。「後の事はその時考えるさ。」

 「あなた、本当にそれでいいの?」アリスは不思議そうに訪ねた。「労働をしているのよ?それが成果につながらないのよ?あんたなら、街に出ても立派にやっていけると思うわ。」

 「アリス、君は何でスラムを助けてくれたんだ?」ケンは笑いながらアリスに問いかけた。「スラムを助けることでお金を儲けたかったわけじゃないだろう?」

 相当儲けてるんだよなぁ。

 「君は何で強人組を立ち上げたんだ?これだって金儲けのためじゃないだろ。強人組でみんなを仕事に就けてお金を儲けたわけじゃないだろう?」

 これも、実は儲けてるんだよなぁ。

 アリスがケンと同じ額の給料をきちんと受け取ってるのはケンも知ってるが、アリスが組合資金で物を買ったりするときの委託先がアリスの投資先のお店ばかりで、その結果アリスの投資回収と再投資が上手く回ってるってとこまではさすがに解らんよなぁ。前世だと談合だとかインサイダーだとかそんな感じで捕まるやり口だと思うんだ。

 「それと同じさ。」ケンは言った。

 だいぶ違いますけどね。

 「俺はこの仕事で皆が巣立っていくのを助けることができるのがうれしいんだ。お金だけが報酬ってわけじゃない。」ケンはほほ笑んだ。心からの笑顔だった。「それに、アリスがやっていることの手伝いをできるのがとてもうれしい。もし、みんなが巣立っていくことができて、強人組を完遂することができたら、それは俺にとって本当に誇らしいことだと思うよ。」

 ばつが悪い!ケンがものすごくいいこと言ってるだけにばつが悪い!アリスが世知辛いせいでばつが悪い!!

 アリスは不思議そうにケンを見ながら首をかしげた。「あなた、本当にそれでいいの?」

 「そうだ。いい。」ケンは答えた。「アリスがだめだと言っても俺はこの仕事を続けたい。この仕事は街の仕事なんかよりもずっと素晴らしい。一つ目の目標を果たして、今が次の目標の再設定の時だというのなら、俺の次の目標はこの仕事を完遂することだ。」

 「そう。」アリスはニッコリ笑った。「私もこれはとても重要な事業なんだと思う。あなたにいっぱい頼るわね。」

 「おう!任せろ!」ケンは笑顔で胸をどんと叩いた。

 「ところで、目標はちゃんと数値化しないとだめよ。達成できるか分からない目標は立てちゃダメ。そいうのは目的で目標とは・・・(云々)」と、アリスがケンに説教を始めた。

 せっかくケンが良い話をしたってんだから、そのままケンのターンで終わらせてあげようよ。




 何かと妙なところにストイックなアリスはさておき、

 すべてが上手く回っているかのような強人組だったが、そうではなかった。

 たった一人。

 いまだブレグ一人が取り残されていた。

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