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8-13 b さいきんのギルド運営

 「何を言っておいでですか?」ジュリアスは言った。「ジルドレイなら、逮捕された当日の午前中に目撃されていますよ?ね?バゾリ伯爵。」

 「は?」ブラドが間抜けな声を上げた。

 「ええ。朝に、ジュリアス殿下から連絡を受けまして、ジルドレイのアジトに彼を捕まえに向かいました。王女殿下のおっしゃっていたのと人相がそっくりでした。我々に気づいて逃げ出したので間違いないと思います。」バゾリが答えた。「その後の追跡でジルドレイを捕まえることができたのだと理解しておりましたが・・・。」

 「な、なぜそのような大事なことを報告せぬ!!」ブラド候は目を白黒させてバゾリに文句を言った。

 「も、申し訳ありません。」バゾリが今さら事の重大さに気づいて慌てて謝罪する。「犯罪のリスト作りに追われていとまがなかったのです。」

 ちなみに、バゾリは本当の事を言っているが、ジュリアスは本当のことを言ってない。

 アリスがジルドレイを捕まえた次の日、アリスは『ほぼ』一日城に居たと言った。だが、『ほぼ』以外の時間、アリスはアープがペケペケに売ったというジルドレイのアジトに居た。そして、バゾリとジュリアスがやってくるのをジルドレイのお面をかぶって待っていたのだ。ジルドレイがこの日まで自由だったとバゾリに勘違いさせるために。

 ジュリアスは王女にそんな役回りをやらせるつもりはなかったのだが、デスマスクをかぶりたがる人がほかに居なかったのと、バゾリの兵士たちから逃げ切らないといけないという二点からアリス以上の適任が見つからなかったのだ。隠すのに困るほどのオッパイも無いし。

 これでアリスが逃げ切れないで捕まってたら、とても面白いことになっていたに違いない。

 「すまぬ、ジュリアスよ。」王が割り込んで来た。「さすがに口を挟ませてくれ。アリスがジルドレイを捕まえたのか?違うのか?」

 「さて、ブラド侯爵はどう思われますか?」ジュリアスは王の質問に答えずにブラドに流した。

 「ジュリアス殿下が聞かれているのです。」ブラドの額から汗が噴き出してきた。

 「まず、ブラドが答えよ。」王が宣告した。

 「・・・・・・承知。」

 ブラドは絞り出すように答えると、しばらく考え始めた。次のセリフですべてが終わりかねない。

 「ジュリアス殿下が何を考えているのか解りませんが、私の知っている情報では、ジルドレイが逮捕されたのは殿下がご報告されている日の前日の夜で、逮捕を行ったのは王女殿下と王女殿下のお付きの兵士だったと聞いております。」

 「ブラド候のおっしゃっている事は間違いです。逮捕は私の報告した日で間違いございません。」ジュリアスが堂々と宣言した。

 「貴様、陛下の前で堂々と嘘を述べるか!」ブラドが怒気をはらんだ声で叫んだ。「陛下!ジュリアス殿下は前日に逮捕したジルドレイを次の日に現場に連れて行き、再び彼を連れて詰め所に戻って来ております。王女にアリバイのある日にジルドレイを逮捕したかのように偽装するためです。王女殿下とジュリアス殿下で私をはめようとしているのです。」

 おっと、そこまで知っていたか。

 その通り、ジュリアスはジルドレイを護送して現場に連れて行った。

 密偵でも放っていたのかな?トレメールを殺した奴がつけていたのかもしれない。

 「バゾリ伯、そなたもジュリアス殿下と共に居たと聞いているぞ。」ブラドはここにきて自信満々な口調でバゾリに言った。

 「はい。」バゾリは戸惑いながら答えた。「ただ・・・、ジュリアス殿下はジルドレイは連れておりませんでした。」

 「は??」ブラドが顎をあんぐりと開けてバゾリをまじまじと見つめた。

 「い、いえ。本当にジルドレイはおりませんでしたが・・・。」バゾリは困ったように繰り返した。

 「ばかな!貴様も私を陥れるか!!」ブラドが叫んだ。「ジルドレイはお前と共に倉庫へ入っていったと聞いているぞ!」

 「しかし、ジュリアス殿下が連れていたのはジルドレイではなく、王女殿下がジルドレイと会ったと言う店の門番にございました。ジルドレイの尻尾をつかむための証人にございます。」

 「あっ!」ブラドがしまったというような声を上げた。

 「バゾリ伯爵。申し訳ない。ブラド候のおっしゃる通り、一緒に行った彼がジルドレイなのです。実は彼は変装の達人でして、我々や王女殿下の見た長髪の商人の姿は彼の変装だったのです。」ジュリアスが今さら告白した。

 「なんですと!?」バゾリが今さらながらに驚きの声を上げた。

 ジュリアスはジルドレイの逮捕をバゾリに報告したときも、ジルドレイにわざわざ変装させてた。その後も外部の人間に見せる際には必ずデスマスクを付けさせるようにしていた。つまり、ジルドレイの素顔を知っている人間はジュリアス旗下の数人の兵士とアリスたちを除けば犯人グループしかいないのだ。

 「陛下。陛下の質問に答えるならば、ジルドレイを捕まえたのはアリス公にございます。王女殿下がジルドレイを見つけてきてくださいました。しかし、いかに王女殿下といえど逮捕権は持ち合わせておりませんので『逮捕』はできません。」

 なんぞ、アルトを思い出す性格の悪さだ。

 「こ、この小童・・・・。」ブラドがジュリアスの屁理屈に怒りで真っ赤になった。

 「アリス公が彼を連れてきたときは夜も遅かったので、次の日にでも逮捕しようと思って拘留のみ致しました。ところが次の日、バゾリ伯も目撃したように、ジルドレイらしき人物が別に現れてしまいまして・・・。そのため、いったん逮捕を保留いたしました。しかし、檻に居る男がジルドレイであることを認めているものですから、念のために彼を連れて現場を改めました。その結果、彼の言う事におかしなところはなかったので逮捕いたしました。」ジュリアスはしらじらしく続けた。「出来れば、逮捕の日に目撃したジルドレイが一体なんだったのか知りたかったので、ブラド候には情報をいろいろ提供してほしかったのですが・・・。」

 「なるほど。」王は言った。「法に詳しいのは良いが、法に細かいのはいかん。周りがついてこなくなるぞ。」

 「申し訳ございません。猛省いたします。」王の的外れな忠告にジュリアスが深く頭を下げた。

 「・・・・・・。」ブラドはジュリアスが自分を陥れに来ていることを確信したため、ずっとジュリアスを睨みつけている。

 さあ、ここから本題だ。

 「ところで、ブラド候。」ジュリアスがブラドに向き直った。「バゾリ伯もご存じなかったジルドレイの素顔をどうしてご存じなのか?」

 「先ほど言った目撃者から聞いたのだ。」ブラドはすぐに答えた。「彼がジルドレイの素顔について教えてくれたのだ!」

 「その目撃者は暗闇でジルドレイの素顔を良く見えたものですね。」ジュリアスはブラドを追求する。「しかも、王女が連行して来た時にはジルドレイはフードを被っていましたよ。」

 「先ほども言ったであろう、城門の所で見たのだ。城門の所では明るかったのだろうし、そこではフードなぞ取るだろう。」ブラドは若干追い詰められた様子で言った。そして、思いついたように声を上げた。「そうだ!城門の兵士にフードをとって顔を見せたはずだ。その時に私の目撃者は顔を見たのだ!!」


 そうだな、フードは取ったな。


 「ブラド候。まさにあなたのおっしゃる通りです。」ジュリアスはため息をついて言った。「殿下は外壁の門番のところでフードを取って顔を見せております。実は門番にも確認済みです。」

 「ほら見ろ!」ブラドが勝ち誇ったような喜びの声を上げた。

 「しかし、ブラド卿。その時、ジルドレイは変装していたのですよ?」ジュリアスはとどめとばかりに静かに告げた。「門番の二人ともが証言しています。私の所に来た時も変装したままでした。ですので、あなたの言う目撃者はそこでジルドレイの素顔を見れたはずがない。門番もジルドレイの素顔は知りませんでした。」

 「は?変装?」ブラドが素っ頓狂な声を上げた。「なんで?」

 アリスがジャーンってやりたかったからだな。

 「逆に何故あなたは、変装していない姿のジルドレイが捕まったと思ったのですか?」ジュリアスが尋ねた。「何故あなたは変装していない状態のジルドレイをアリス公なら捕まえられたと思ったのですか?」

 「それは・・・。」

 「バゾリ伯爵、貴殿は変装していないジルドレイを捕まえることができましたか?」

 「恥ずかしながら、同じ馬車に乗っていたというのに気づきませんでした。」バゾリは少しだけむっとした感じで言った。

 「失礼、私も同様です。一度彼を取り調べまでしていながら捕まえられなかった。」ジュリアスはそう言うと再びブラドに質問をした。「ふつうなら、王女殿下が捕まえたのは変装している姿のジルドレイだと思います。だって、誰一人ジルドレイの素顔を知らなかったのですから。では、ブラド候。あなたがアリス公が変装していないジルドレイを捕まえたと思ったのはなぜですか?」

 「それは・・・目撃者が・・・目撃者に聞いたのだ。」

 「それは、目撃者から聞いて知っていたから?」ジュリアスがブラドを問い詰めにかかる。「では何故、その目撃者は王女が変装していないジルドレイを捕まえたと思ったのでしょうか?」

 「・・・・・・。」追い込まれたブラド候は声も出ない。

 「そして、もし、あなたの目撃者が本当に変装していないジルドレイを見たと言うのならば、何故、その方は王女が連れていたのがジルドレイだと判ったのでしょうか?」

 ブラドが真っ青になる。

 「最後の疑問の理由は簡単に想像がつきます。あなたの言う目撃者がジルドレイの素顔を見たことがあるからです。」

 「・・・・・。」

 「ではどこで?」

 ジュリアスは言葉を区切ってブラド候を観察した。

 真っ青なブラド候は顔中汗だらけだ。

 「アリス公がジルドレイを捕まえた時ジルドレイは変装していなかった。ジルドレイの素顔が見えた時、それは明るい倉庫の中でジルドレイが捕まった時です。そしてトレメール男爵が殺された時です。その時、その倉庫でそのことを見ていたのはアリスとその護衛、そしてジルドレイ本人の3人だけでした。」ジュリアスはそこで少し言葉を止めた。

 そして、とどめの一言を紡いだ。

 「いいえ。もう一人その場から逃げ去った者が居ます。」ジュリアスは言った。「それはトレメール男爵を殺害した暗殺犯です。」

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