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8-12 a さいきんのギルド運営

 さて、ジュリアスの訪問を受けたアリスだったが、ジュリアスが帰るとブレグに謝罪を入れ、すぐさまヘラクレスを連れて例の店に向かった。

 班長の兵士に会うためだ。

 馬車は使わない。アリスもいつもの格好ではなく、祭りに出かけた時の服装に変装してヘラクレスと歩いて店までやってきた。今回は髪は染めていない。

 アリスたちはジルドレイの店、いや、彼らがジルドレイの店だと思わされていた店までやってくると、裏手にまわり、物陰から身を乗り出して勝手口の様子を覗いていた。

 勝手口には以前ケンとやってきたときのように、兵士が一人、退屈そうに立っていた。

 「うーん。どう見てもジルドレイじゃないわよ。ジルドレイはもっと丸めの顔で目鼻立ちが立ってたわ。髪も長かったし。」アリスがヘラクレスに言った。「歳と背の高さは同じくらいかも。」

 「彼が班長さんではない可能性もありますし、話しかけてみましょうか。」ヘラクレスが答えた。

 「そうね、行くわよ。」

 アリスがすたすたと門番に向かって歩き出した。ヘラクレスが後ろからついている。

 兵士がアリスに気づいた。

 顔は痩せ顔で、鋭い感じだ。丸顔のジルドレイとは似ても似つかない。

 「こんにちわ。」アリスが言った。

 「こんにちは。私に何か?」門番の兵士がアリスに尋ねた。

 「あなた、ワタクシがこちらに伺ったことを憶えてらっしゃいますか?」アリスは丁寧に尋ねた。

 「・・・・・・いや?貴女のような綺麗なお嬢さんが訪ねていたら、絶対憶えていると思いますよ?」兵士は丁寧にそう答えると、続けて言った。「他の番兵にも聞いてみましょうか?」

 「結構ですわ。それより、あなた、ここの兵士たちの班長さん?」

 「そうですよ。」兵士はにこやかに答えた。どう見たって、ジルドレイとは顔が違う。「もう2年近くになりますね。」

 「そう、ありがとう。」アリスはそう答えると、ヘラクレスをちらりと見た。

 ヘラクレスは首を振って、特に質問することがないことを伝えた。

 「では、失礼しますわ。」アリスはスカートを少しつまんで膝を曲げた。

 兵士も丁寧に一礼を返した。

 アリスは彼が礼をするときに腰もとの曲刀をぶらつかないように手で支えたのをちらりと見た。

 二人はもう一度兵士に会釈をするとその場を去った。

 アリスとヘラクレスはしばらく歩くと、人通りのない路地に曲がって話し合いを始めた。

 「・・・彼がジルドレイ?」

 「違いますか?」ヘラクレスが訊ね返した。「私の考えがあってれば彼がジルドレイさんです。」

 いや、全然似てなかっ・・・

 「じゃあ、多分あいつがジルドレイだ。」アリスが言った。「わかりづらいけど剣ダコが独特。サインの時に見たわ。しゃべり方はともかく声は似てる。」

 「彼、珍しく曲刀ですものね。」

 うせやろ?

 たしかにあの兵士、変な曲刀使ってたけど。

 いや、見た目から違くね?

 「髪はカツラかしらね。」アリスが言った。「ジルドレイ、長髪で顔の形を隠すようにしてたわ。服装も兵士の鎧と商人の格好だとどっちも体格が分かりにくいし。」

 「なら、彼がジルドレイさんですね。彼、アリス様の事、王女だって気づいてた見たいですし。」ヘラクレスがさも当然のように言った。「店主じゃなくて自分を訪ねてきたってことが当たり前のようでした。」

 見た目違うのに本人認定ってすごくない?

 「彼が門番だったから私たちは全然関係ないお店の応接間に入れたってこと?」

 「そうです、彼が勝手に皆さんをここの商人の応接間に通した。」ヘラクレスは言った。「その後ジルドレイに変装してケンさんと会うんですよ。」

 「ほかの門番はどうするの?」 

 「門番相手だったら何とかなるんじゃないですかね。彼、班長ですし。門番は店の中の様子を確認には来ないでしょう。店の使用人さんとバッティングしないかは、リスキーな賭けですけど、2年働いて大丈夫って確信してたんじゃないですか。」ヘラクレスは答えた。「まあ、ばれたらばれたで、彼が仕事を失ってジルドレイって人間が消えるだけですしね。」

 「うーん。でも顔が違うのよ。」

 「んー。そこは、私達じゃ分からない何かだと思うんですよね。」ヘラクレスは言った。「変装の技術とか?」

 「とりあえず、本当に彼がジルドレイであることを確認したいところね。」

 ちゃんと確認してね。見た目違うもん。

 「にしても、ジルドレイにそんな剣ダコがあったんなら、普通の商人じゃないってもっと早くに気づいてくださいよ。」ヘラクレスが言った。「兵士でもないのに剣ダコのある人間なんてそう居ないですよ?商人や貴族みたいな上流階級だったらなおさらです。」

 「?」アリスが自分の左手の甲を見つめた。

 「拳ダコなんてもっと居ません。」ヘラクレスがピシャリと言った。

 「むう。」アリスは眉を八の字にして口を尖らせた。

 「で、どうします?」

 「もちろん尾行よ!尾行!」アリスは言った。「もうすぐ暗くなるし、彼が帰るのを追いましょう。」

 知ってたけど、また自分で行くのか。

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