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8-9 a さいきんのギルド運営

 ジルドレイの工房の中はムンとした香りが立ち込めていた。

 夏で熱いにも関わらず窓も開けず、油を煮たり、ロウを溶かしたり、湯を沸かしたりしているからだ。

 工房は街の外れの大きな倉庫に急ごしらえで作られた一室のようだった。

 中では強人組の面々が一生懸命に働いている。

 倉庫の隅、強人組が働いている現場から離れた場所で、見張りと思われる屈強そうな男二人が机を囲んでいた。彼らは酒の入ったグラスを傾けながら仕事場の様子を観察するでもなくしゃべっていた。

 「今日でようやく終わりか。」男の一人が言った。

 「楽な仕事っちゃ楽な仕事だが、暇でしょうがねえ。今も二人とも居る意味ないじゃねえか。」

 「まあ、全額後払いじゃ、従うよりしょうがない。だからあいつらもサボんねえで一生懸命働いてんだろうって。」

 「ぶっちゃけ、下の連中がこんだけ真面目だったら、ここで見てなくてもいいんじゃね?」そう言ってから見張りはニヤリと笑った「なあ、下の連中に仲間入りしたブレグとかいう杖ついてる女、結構いい女だぜ。顔に傷があるってフードで顔隠してるけど、こないだ見たらよ、顔の傷さえ我慢すりゃ全然抱けるわ。スラム落ちなんだろ?連れ出して犯っちまっても良くね?」

 「馬鹿野郎。給料目前で問題起こすんじゃねえよ。俺たちだってこの組織はまだ長くねえ、いつエリートからあっちに落とされるか分かったもんじゃねえ。あんなドブさらいみたいな仕事やらされるのいやだろ。」

 「ちっ。まじめだなぁおめえ。こういうとこでこっそりするから興奮すんのによ。」

 「仕事きっちりこなしてからにしろや。」

 下世話な話をしている二人は、当の女が仕事を抜け出し、まさか二人のそばの荷物の陰に隠れて自分たちの話を盗み聞いているなどとは思いもよらない。

 「あと、どんくらいだ?」

 「あと3時間で今日はおしまいだな。」男の一人が窓の外の日の高さを見ながら言った。

 という事は何かが起こるとしたらこの3時間の間になる。

 「にしても、ジルドレイの旦那も“強人組“とは変な名前を付けたもんだよな。」一方の男が話題を変えた。「もうちょっとセンスのある名前にすりゃ良いってのに。毎回強人組って名乗るのが恥ずかしいぜ。」

 ?? こいつ言ってるんだ?

 「なんなんだよな。急に変な名前つけて。別にジルドレイファミリーとかでもいいってのに。」

 もしかしてこいつら、強人組のふりをしたニセモノじゃなくて、本当に自分たちが強人組だと思っているのか。

 「ヤバい仕事もしてんのに自分の名前つけるバカはいねえだろ。それならまだ強人組とかのほうが良いって。」

 確かにそっち筋の名前としてはしっくりくる感がある。

 「確かにそうだな。」

 「そういや、ヤバい仕事って言えば、昨日の連続放火の話聞いたか?」

 「ああ、知ってる。兵士たちもパレードのすぐ後だってのに休めなくて可哀そうだよな。」

 昨晩、ヘラクレスが言った通り街の各所で火の手が上がった。

 どれも大きな火災にはならなかったが、一晩で十か所以上発生したボヤに街は朝から連続放火魔が現れたとの噂で賑わっていた。

 「うちの組織は絡んでねえよな? 俺たち組織の全容知らねえじゃん。どっか俺たちが知らねえ部署がやってたりしてねえよな。」

 絡むも何も、今君らの作ってるロウソクが原因でっせ?

 こいつら自分たちのやってる事なにも知らんのか?捨て駒だろうか。

 「大丈夫だろ?さすがに金も絡みそうにない訳分かんねえ犯罪なんてしないだろ?どっかのXXの仕業じゃね?」

 「だと良いんだけどよ。なんかやな予感がすんだよな。」

 「『俺の勘は良く当たるんだ』ってか?」

 「ギャンブルで全財産スッてこんなとこ居る奴にそんなこと言うか?」

 「ぎゃはは、違げえねぇや。」


 二人はしばらく昨日の火事について話していた。だが、朝からこの工房に詰めているせいで大した情報は持っていないようだった。

 これなら自分のほうがいろいろ知っている。

 【感染】済みの兵士とともに現場に居たわけだから。

 ヘラクレスは王城に駐屯している兵士たちを自分の権限で集められるだけ集めた。そして、2~3人で一つの班を作り、水の入った桶と防火布というものを各班に持たせて街の警護に当たらせた。防火布というのは水で濡らして燃えている火にかぶせて消すための布だ。

 ほどなくして、アリスから情報を受けたジュリアスの兵士たちが合流した。

 その瞬間、街のあちこちで火事を告げる悲鳴が上がった。

 ヘラクレスが縦横無尽に指揮し、どの出火も燃え広がることなく消された。

 ただ基本的に、みんながロウソクを点ける時間はだいたい一緒だ。ロウソクが燃え尽きて大きな炎を発するまでの時間も同じくらいなわけで、消していく先から別の火が街のいたるところで上がった。

 途中からは騒ぎを駆けつけたバゾリたちの擁する治安部隊も加わり、大きな火になることも死人が出ることも無くすべての火事は消し止められた。

 この点に関してはヘラクレスの貢献は大きかった。

 以前、学校燃やそうとしてた人間とはとても思えん。

 火事の話題について話し飽きた男たちは話す話題が無くなったのか、しばらくの沈黙したまま酒を飲んでいた。

 そして彼らが再び口を開く前に、倉庫の扉が乱暴に開かれた。

 「そこを動くな!!」恫喝するような大声が倉庫内に鳴り響いた。

 30人近い兵士たちが扉から乱入してきた。彼らはすでに抜刀している。

 彼らの鎧についている家紋は見たことがあった。

 バゾリ伯の家紋だ。

 二人の男たちは慌てて立ち上がった。

 それに呼応するように兵士たちの中から一人少しだけ偉そうな奴が出てきて大声で叫んだ。


 「その場で動くな!お前たち全員逮捕する。」

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