8-5 c さいきんのギルド運営
何かを悩んでいたアリスだったが、ブレグの件についてすぐに一手打ってきた
アリスの行ったのは二つ。
一つ目はこの間言っていたカード。
アリスは結局あの作成を依頼した。
販売するのではない。
いや、ゆくゆくは販売もするつもりのようだが、とりあえず今の段階では何組から作って、組合事務所に誰でも自由に使えるように置くつもりのようだ。
アリスはこの仕事も強人組でやりたがったが、そもそも文字をきちんとかける人間がいなかったので結局タツの工房へと依頼が回った。
二つ目。
アリスはカルパニアを呼んだ。
希望する組合員に文字と計算の教育を受けさせるため、先生として呼んだのだ。
強人組にはアリスとケンくらいしか文字をきちんと教えられるほどの人間はいない。簡単な計算ができる人間は数人いるが、彼らは街との商売の窓口として働いてるために教鞭をとることはできない。アリスとケンも仕事の窓口と手配で忙しい。アリスは相手が文字を読めないような依頼者だったとしても証文をきちんと書くので、ケンとアリスしかこの仕事をこなすことができないのだ。
しかも、スラムの芋畑の植え付けの準備が始まり、ここんとこのアリスは目の回る忙しさになっていた。
アリスは強人組の事務仕事よりも、もっと別にやりたいことがあるようだったが、この仕事を引き継げる相手が居ない。そして、この忙しさではその人間を育てようにも育てられない。という状況だった。
スラムでアリスが文字や計算を教えた少年たちはみんな、アリスがカリア石を融資しまくったせいで事業を始めてしまった。彼らは自分たちの商売でめちゃくちゃ忙しい。なので、お願いできない。
そこで、カルパニアを呼んだ。
アリスはまず、アピスにお願いに行った。だが、さすがに今は学校の先生。しかも、学校を立て直した公爵令嬢だ。アピスは校長よりも責任も権力もある新人教師となっていたためアリスのお願いを引き受けることができなかった。
ちょうどその場にたまたま居たのがカルパニアだった。
カルパニアはジュリアス目当てで、なんかしらの理由をつけてこの街に残っていたのだが、そろそろその理由がつきかけてきているところだった。実家に帰らずジュリアスの近くに居たいカルパニアと、スラムの人間に抵抗なく教鞭をとることのできる先生が欲しかったアリスの思惑が合致した。
カルパニアは王女の頼みをこなしているわけだから、この仕事をしている間はここに居れるわけだ。もしかしたら、アリスに絡んでおけばジュリアスにも会えるかもしれないと思っているかもしれない。
カルパニアの授業はアリスの塔の一階で行われることになった。スラムのテリトリーと貴族のテリトリーの境目にあるのでおあつらえ向きの場所だ。ジュリアスの兵士が護衛にもついてくれる。
カルパニアがアリスの塔に入った時には、文字を教わるために集まった強人組の面々が並んで床に座っていた。
「こんにちは、皆さん。」強人組の面々の目の前でカルパニアが優雅に挨拶した。
アリスの指示でちんぴらな格好は無しになったとは言え、スキンヘッドや入れ墨なんかの威圧的なファッションをしている人間はまだ何人も居る。
にもかからわらずカルパニアはきっちりと挨拶をこなした。ジュリアスでさえなければどもらずに話すことはできるようだ。ただ、顔色はさすがに濃い青色だ。
「「「よろしくおなしゃす!!アネさん!」」」強人組の面々は大きく返事をして、座ったまま深く頭を下げた。
カルパニアの顔色がみるみる元に戻り、通り越して少し赤くなった。
あ。もしかして、カルパニアってこういうノリ好きなタイプか?
「みんな、頑張って私についてきなさい!」ちっちゃいカルパニアは目の前に座っているおっきい強面の男たちを見下ろして得意げに笑った。
カルパニアは厳つい男たちが自分に傅いている姿にご満悦の様子で授業を開始した。
カルパニアの教え方は少々乱暴で、厳しく、アリスと同じような意味で教えるのが上手とは言い難かった。
が、そんな小さなカルパニアがいきがっている様子を、強人組の男衆は小さな娘か妹を見るようにほほえましく受け入れた。むしろカルパニアに怒られたり褒められたりするたびに男衆は悦んだ。何かしら彼らの中の新しい性癖の扉が開かれたんじゃないかとちょっと心配だ。
だが、強人組の面々はなんだかんだでカルパニアの授業を極めて真面目に受講した。そもそも自由参加なので興味のない奴は来ていないわけで、一生懸命学ぶのは当然なのだ。
そんなわけで授業そのものはつつがなく終わった。
強人組の男衆もカルパニアも互いに満足そうに授業を満喫した。
もちろん生徒たちの中には紅一点、ブレグも混ざっていた。
彼女もひたむきにカルパニアの授業を受けた。
ところが、授業初日にして、早くも彼女はみんなから遅れ始めていたのだった。




