8-4 c さいきんのギルド運営
ジルドレイへの協力関係解消の通達は、何一つもめることなく終わった。
アリスとケンは日暮れ前にはスラムへの帰路へとついていた。
帰りの馬車の中でアリスとケンはジルドレイについて話し合っていた。
「な。ジルドレイさん、いい人だっただろ?」
ケンはそう言ったが、自分は最後まで彼を信用できなかった。
「ジルドレイの事は気にしないで良いわよ。」アリスは言った。「あいつ、あんたたちの事なんとも思ってないもの。」
あー。なんか分かる。そんな感じだった。口では残念と言いながら、いなくなってもまあしゃあないくらいの態度に思えた。残念そうな顔一つもしなかったし。
「そんな事ないだろ。」ケンが反論する。「最後だって、わざわざねぎらいの言葉をかけてくれたじゃないか。」
「言葉なんてタダよ。彼、私が提案した時にケンたちを斡旋する際の価格や条件を聞かなかった。」アリスは言った。「この話に全く興味がないってことなの。」
「別に、興味がないくらい、しょうがないだろ?」
「そうでもないわよ?」アリスは言った。「あなた達が彼にしてきた仕事の分、彼は人手に困るはず。だから、私が提案したのが格安の話だとしたら利用したいはずなのよ。もちろん、普通の商人だったらスラムの人間ってだけで忌避してくるかもしれないけれど、あんたが言うには彼は違うんでしょ?」
「そりゃそうだけど、ちょうどジルドレイさんが人手を必要としていなかったってだけじゃないのか?人手の足りない時にはお願いしますって言ってたじゃないか。」ケンが反論する。
「ただの社交辞令よ。現時点で人手を必要としてなくったって、あんたちのやってきたような仕事が発生すれば誰かがやらなくちゃいけないのよ。それこそあなた達が訓練もなくできちゃうような仕事のために新しく固定の誰かを雇うの?とりあえずでも、あなた達のレンタル料は知りたいはずなのよ。前もってそのくらいのそろばんは弾かないと商人として変よ。」アリスはまるで自分も商人であるかのように語った。「彼は形だけでもいいから価格と条件を聞くべきだったわ。」
アリスって一回怪しみだすとすごい洞察力なのな。
「ちょっとした手伝いに金を払うのを渋ったのかもしれない。」ケンは世話になったジルドレイのことを悪く言われて眉をひそめた。
「あんたそれ、彼があんたらのしてきた仕事には金を払う価値はないって思ってる、って言ってるわよ?」
「・・・・。」
「可能性としては三つ。一つ、彼はあなたたちにお金を払う価値がないと思っていた。二つ、そもそもあんたたちは居ても居なくても彼にとって問題がなかった。三つ、いままであなたたちにさせてきた仕事が王女の私を介せないような悪い仕事だった。以上のどれかじゃないかしら。」アリスは言った。
「おまえ、結構冷たいよな。」完全に論破されたケンが口を尖らせて言った。
「そうかしら。」アリスはケンのそんな言葉など気にかける様子もなく冷たくそう言った。
さて、
アリスたちの立ち上げた職業斡旋所は、全員の協議のもと、ほぼ全会一致で『極東街強人派遣組合』と名付けられた。
通称『強人組』だ。
ここら辺のセンスが良く分からないのだが、見た目をきちんとしなさいとか言っておきながらこのネーミングは良いのだろうか?
ヘラクレスだけが少しだけ意見したが、めんどくさかったのか無理に反対に持ってこうとはしなかった。
アリスは強人組の当面の目標を『20人就職させる』に定め、最初の行動指針を以下の四つに定めた。
1)ケンが、スラムで人手を探している人間と交渉して求人を取り付ける。
本当はアリスがやったほうが良いのだが、スラムへの出資者でもあるアリスは公平性を保つべきだ、ということでケンに任されることになった。
2)街やスラムに格安の人手を派遣する。
雑用致します、修理承ります、という宣伝を王都とスラムに流した。
これも、ケンが音頭をとって宣伝していく。仕事が舞い込めば強人組の面々を派遣する。
3)強人組を窓口とした、街との商売。
「ジャガイモを販売して外貨と交換いたします」「街の物の取引を代行します」等の噂をスラムに流した。街の人に相手にしてもらえないスラムの人々が街の物を手に入れるところに一枚かむつもりなのだ。
ちなみにスラムの人が強人組に芋を換金しに来た場合、その芋はミスタークィーンへ流れることになっている。アリスはこの取引の開始に際して、ミスタークィーンに対する芋の売価を下げた。これによりミスタークィーンには大きな得があったので、彼はスラムの集団相手の取引を手放しで受け入れた。
芋の取引なんかでスラムの人間のもとに渡ったラムジは、この取引代行を介して街の商品へと姿を変える予定だ。もちろんその都度、強人組には小銭が入る。
この取引の窓口業務には、計算のできるオギーとトッカータが就くことになった。
4)アリスから公共工事を発注する。
アリスは言った。「あんたらスラム街の掃除してくんない?私、スラムの掃除しろって言われてんのよ。」
スラムの掃除ってそう言う意味で言われたんじゃないと思うんだけどなぁ。




