8-4 a さいきんのギルド運営
「まずは、方向性をハッキリさせましょう。」アリスが言った。
「方向性?」
「まず、目的!」アリスは言った。「ここで、『なんでも屋を立ち上げて、世界一を目指す』、OK?」
ごろつきたちが?マークを浮かべながらアリスを見つめた。
「あ゛?なんで、疑問顔なのよ?」アリスが聴衆の反応の悪さに不服そうな声を上げた。「あんたらがここに集まってやりたいことって何なの?はいスカンク!」
「え!?俺!?」スカンクが突然の指名に狼狽えて左右を見た。そして、仕方なく答えた。「その、アリス様の・・・ボスの意見に賛成で・・・。」
「私の意見なんか聞いてない!!」アリスがビシッと言う。その言い回し、なんか変じゃない?。
「・・・その、まあ、暮らしていければいいです。」スカンクは見た目の派手さとは裏腹にものすごく小さな目標を語った。
上昇志向無いじゃん。
志、一人目にして一緒じゃなかった。
「・・・・。次!あんた!名前とここでやりたいことを言いなさい。」
「パンクです。街に戻りたいです。」
「スティーブって言います。家内とよりを戻したい。」
「オギー。以前の暮らしと言わなくてもいいから好きな時にお肉が食べれてお酒が飲めるくらいにはなりたい。」
「自分の家が持ちたい。」
次々と名指しで意見を聞いていくアリス。
面接みたいだ。
彼らは自分たちの小さな望みばかりを告げて、前世で言うところの希望とかやりがいといった事は何ひとつ出てこなかった。その意見は安定した生活をしたいと言うのが大半を占めていた。
面接でこんなこと言おうもんなら100%落ちる。
アリスはこのまま30人近い彼らの志望動機をぜんぶ聞いて回るつもりのようだ。
「・・・その、みんなといれば少しは気がまぎれるから・・・・」ナーバスそうな男が言った。さっき降伏して殴打を逃れた二人のうちの一人だ。
「それで満たされてんならいいけど、ここでやりたいことは?」
「・・・解りません。」ナーバスそうな男は怯えたように小さく言った。
「あっそ。」アリスは興味を失ったように言い、彼との会話は終わってしまった。
怖いぞ。
なまじ美人だから真面目な顔でそういう対応すると印象悪くなるよ?
これひょっとして圧迫面接とかいうやつなんじゃなかろうか?
アリスによる面接は、その後もまともな暮らしがしたいといった感じの答えばかり続いた。
アリスは全員に訊いて回り、最後にケンにも同じことを尋ねた。
「俺は俺やこいつらやスラムのみんなが街の人と対等に渡り合えるようにしたい。アリスにそうしてもらったからじゃなく、自分たちが街の人と同格である暮らしがしたいんだ。」
最後に来て、合格者っぽい回答がようやく現れた。
「OK。」アリスは言った。「じゃあ、とりあえず、全員の目的は『ここにいる全員が街の人からも馬鹿にされないような安定した職に就くこと』でどう?」
ごろつきたちはアリスの言葉を聞いていまいちピンと来ていない様子だ。
「スカンクとガッドとオギーは安定した暮らしが得られること、ミンティーは街の工房に戻っていろんな人を見返したい、ウォルシュは・・・」アリスが次々とごろつきの名前と彼らの言ったことを復唱していく。
全員の名前と話憶えたんか!?
「・・・そして、ラグは街の家族の所に戻りたい。あんたらは、今言った目的でもそんなに問題ないわね?仮に就いたのがスラムの職だったとしても、いずれスラムが街と同格になるからそこは我慢しなさい。」
ここまでに名前を呼ばれたごろつきたちは特に反論は無い感じで頷いた。
「できれば、家内と復縁するところまで・・・。」スティーブがすがるような声を上げた。
「うっさい。そこまで面倒見れるか!」アリスはスティーブの願いを即却下した。「まずはきちんとした職についてそっから先は自分でなんとかしな!」口悪りぃな、もう!
気を取りなおしてアリスはさっき冷たく「あっそ」とあしらったごろつきに声をかけた。
「ポーキーはちょっとこの目標だと目的とずれちゃうけど、この目標のために頑張ってちょうだい。最悪あんたが仕事に就かなくても、みんなのサポートをすることがここにいる意味になるわ。そうしている間にやりたいことができたら、その時また希望を聞くわ。」
態度最悪だったけど、ちゃんと話は聞いてたのな。
めちゃくちゃナーバスになっていたポーキーが少しほっとした様子で頷いた。
「カンパとキーノはお金持ちになりたい。」アリスは言った。「あなた達も少し希望とずれてるかもしれない。まずは、ここで仕事を立ち上げてもいいし、お金儲けの土台作りをしてもいい。一回仕事について元手を集めることをしてもいい。でも、ここにいるなら、まずは一つ目のステップとして仕事に就くことを目的にして。正直に言うと、今のこの集団はあなたたちの希望を叶えるには向いていない。」
二人のごろつきが頷いた。
「ケンはそのままだから問題ないわね。」
「もちろんだ。」
「じゃあ、もう一回言うわね。私たちの目的は『ここにいる全員が街の人からも馬鹿にされないような安定した職に就くこと』。はい復唱!!」小学校かなにかかな?
「「「「ここにいる全員が街の人からも馬鹿にされないような安定した職に就くこと。」」」」ごろつきが互いを見ながらぼそぼそと復唱を始めた。
「よろしい。行動方針は悪いけど私が決めるわよ。あんたらじゃ、街の悪い奴に食い物にされて終わりだから。」アリスが言った。
アリスが食い物にしそうで心配なんだけどなあ。
「反論は却下する!」
はい。
「まず、今までのガラの悪い方向は禁止。」アリスは言った。「それはそれで面白そうな作戦なんだけど、私が困んのよ。」
そもそもその方法は選択肢にすら入れないでいただきたい。
「それに、あんたら弱いから、軍とはやり合えないでしょ?」
アリスの考えた『ガラ悪い』ってどのレベルの話なんだ!?
「と、言うわけで近々の方針!」アリスが大声で言った。「今できる仕事でお金を取る!以上!!」
話の展開的に、細かくいろいろ指示するのかと思いきや、アリスは大雑把な目標を掲げた。
「まずは街がどうこうとかどうでもよろしい!自分で仕事をしてお金を取りなさい。タダ働き絶対ダメ。何の仕事をするかは作戦を考えなきゃだけど・・・。」アリスはそう言ってから、何かにはたと気づいた様子で訊ねた。。「ん?てか、タツやセンが求人してたでしょ?みんな何で応募しなかったの?スラムって今人手足りてないわよ?」
「・・・スラムの人たちと一緒に仕事なんてはずかしくて・・・。」ドレッドに入れ墨のごろつきが答えた。そのなりで何言ってんだか。
案の定、気に障った様子のアリスがイラっとして声のボリュームを上げた。
「スラムに来ておいて何言ってんの?甘えんな!えり好みしてんじゃねぇ。そんなんじゃ仕事なんぞ降ってこんわ!」今日ほんと口悪いな。
「いや、そうは言っても、スラムの人たちとは初対面ですし・・・。」
「私とあんただってそうじゃない。あんたら自分たちの事棚に上げてなに私のスラムのこと見下してんの?だいたい、あんたらよりタツやセンのほうが金持ってるわよ?」
しゅんとするごろつきたち。
見かねて、ケンがフォローに入った。
「タツと旧知の奴らと、身元も知れないこいつらじゃ、雇ってもらえる可能性が絶対違う。こいつらにしたってタツのことは知らねえ。どんな仕事をさせられるか、その仕事ができるかだって分かんねんだ。そこら辺の不安も解ってやってくれ。」ケンは言った。「それに、そもそも、こいつらにまでタツの情報が回ってこない場合だってある。」
こういう時、アリスに対して別目線で文句言ってくれる人がちゃんと居るってのは良いね。
特に庶民目線で意見できる人間がアリスの周りには足りない。
「知らん!この状況で甘えんな!まずはやれ!」アリスがケンのフォローをはじき返した。「大体ケンもそんなこと言うんだったら、タツとの間を取り持ってあげたらよかったじゃない!」
正論で殴るのやめい。
さすがにケンがしゅんとなって黙る。
ケンに関して言えば散々してチャレンジ全部だめだっただから、ちょっとはやさしくしてあげて?
と、いきなりアリスがケンを指さして良いことを思いついたかのように叫んだ。
「それだ!!」




