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8-3 c さいきんのギルド運営

 「カツアゲはもしかしたらあったかもしれない。詐欺は無い。いるだけで困ると言われるのはさすがにどうしようもないぞ。」アリスの取り調べに対して、敗者であるケンは素直に答えた。

 「ほら!情報収集!!情報収集!!」アリスは嬉しそうにヘラクレスを振り返った。

 ヘラクレスが苦笑した。

 「?」ケンが不思議そうにアリスを見た。

 「こっちの話よ、気にしないで。」アリスが慌てて取り繕った。「で、あんた何でこんなことしてるの?」

 ケンは話しづらそうに眉をひそめた。周りで取り囲むように聞いていたケンの手下たちもうつむいた。

 ぽつりぽつりとケンがいきさつを話し始めた。

 「アリスが突然居なくなって見捨てられたかと思った。だから自分たちで何とかしなくちゃいけないと思ったんだ。これはそもそも俺たちの問題なんだから。」

 相変わらずケンはまじめだな。

 「アピス様から教科書の複製を頼まれて、その仕事の報酬をいただけたから、自分たちでもできることがあるって分かった。だから、スラムの仲間たちと、何かを始めようと思った。それこそドブさらいから本の複写までやるようななんでも屋をやろうとしてたんだ。そう思ってた矢先にスラムに立て看板が立った。おまえの立てたやつだ。だから、文字や計算が十分にできるセンやタツたちを渡した。俺んところで働くよりもずっといいはずだったしな。実際そうだったから後悔はない。」

 そういやタツが最初に搭に来た時にそんなこと言ってた気がする。

 「きちんと文字が読める奴が少なくなったのと、街の人間とまともに話をできるような人間が俺くらいしかいなくなってしまったので、スラムの外れに自分たちの力で畑を立ち上げて食い扶持だけでもどうにかしようようかと思った。そしたら狙ってた土地を芋畑として持ってかれた。」

 あれま。

 一個人と国関係者で土地を取り合うんじゃあケンに勝ち目はないわな。

 「そしてその芋畑がいい感じになってくると、みんなそっちに流れていった。」

 おうふ。

 「まあ、みんなが食っていけるようになったからそれはそれでいいんだ。」ケンは続けた。「今さら畑を貰いにも行きづらいので、俺は自分で何とかしようと思った。それに、お前の改革は俺の思ってたのじゃなかった。まだスラムの地位は低い。お前のやり方を悪く言うつもりはないが、スラムの中だけで幸せになるってのは違う気がするんだ。なんて言うか、ショウみたいな。ああいう風な立派になり方ができればそれが俺には一番良かった。だから、俺はショウみたいにカリア石で何かを作って一旗揚げようと思った。ところが山からカリア石が無くなってた。」

 お、おう・・・。

 なんだよ、そのつくづく上手くいかない流れは。

 どれもこれも全部アリスのせいじゃないか。

 「いろいろ何かを作って街に持って行って売ろうとしたりして頑張った。物は悪くても、たまには買い取ってもらえるものもあった。そして、そうこうしているうちに、俺の周りにこいつらが集まってきた。」

 ケンはそう言って周りを見渡した。周りのごろつきたちがケンを見つめる。

 「今いるこいつらはほとんどもともとのスラムの人間じゃないんだ。みんな最近やってきた。お前の国に入るのが間に合わなかった連中なんだ。そう言う奴らが俺んとこに集まってきた。だから、みんなが食っていけるようにいろいろと努力をした。小物なんかを作って売ってもいるけれど、結局は何でもやってるからなんでも屋だな。こいつらガラは悪くさせてるがそんなに悪い奴じゃない。ガラを悪くさせておけば少なくとも街の奴らに無視はされない。完全に無視されなければ仕事の入ってくる確率は0じゃなかった。こんな有様だけれど、そうやって何とか食いつないできたんだ。」

 ごろつきたちがケンを後押しするように大きく頷いた。

 「お前が昔言ってただろ。生かされんじゃねえ、生きるんだって。俺たちはそうやって集まったみんななんだ。何一つ思うようにいっちゃいないけどさ。まだ、折れちゃいない。」

 アリスはケンの話を聞いて嬉しそうに笑うとしゃがみこんで、胡坐に座ったままのケンの頭をくしゃくしゃっと嬉しそうに撫でた。

 ケンは口をとがらせてうつむいた。腫れ上がったまぶたの間に涙が溜まっているのが見えた。

 傷だらけの男のプライドこれ以上つついてやんなよ。

 さすがに見てて心苦しい。アリスがもうひと天然やらかしたら誰か他の所に視点を移そうかと思ったところだったが、幸いアリスはこの状況をまとめ上げに入った。

 「上昇志向上等。」アリスがにこやかに言った。「私、志が同じ人間とは馬が合うのよ。」

 それは普通そうなんじゃない?

 「この国で一番儲けるなんでも屋を目指すわよ。」アリスは周りを鼓舞するように声を上げた。「とりあえず、いろいろ作って売ってたんでしょ?どこに売ってたの?」

 「街の商人に一人だけ自分と取引をしてくれる人間を見つけた。」

 「やるじゃん!」アリスはとてもうれしそうだ。

 「で、彼に協力してもらって商品を卸している。逆にこちらとしてもいろいろと手助けをしている。」

 「手助け?」

 「用心棒的な奴だな。彼の商売に言いがかりをつけてくる人間を追い払ったり、遅れているなんかの署名を督促に行ったりとかだな。」

 なんか怪しくないか?

 「ほかにも、彼らの代わりに商品を届けてやったり、彼らが文句の言いにくい相手に代わりに文句を言いに行ったりとか。あと、金を払わない客から金を回収してきたりもするぞ。そういう時もこういう格好をしていると役に立つんだ。」

 あっ・・・。

 「あとは、匿名?とかいうやつの仕事をこなしてやったりするんだ。こいつの仕事は変なのばっかだけどな。」

 ・・・・・・。

 「いいじゃない!いいじゃない!」アリスは満面の笑みだ。

 いや、ちょっ!?

 「そうだろ?とてもやりがいある仕事だ。」ケンは胸を張った。

 一緒に話を聞いていたごろつきたちも王女に手放しで褒められてとても嬉しそうだ。

 誰一人!?

 ここはお花畑か?

 「アリス様、アリス様。」ヘラクレスがアリスの肩をつついた。

 「なによ?」

 「ちょっとこっちへ。」

 アリスがヘラクレスに連れられて、部屋の隅で商人の一連の行動について説明を受ける。

 良かったよ、ヘラクレスが常識人だったよ。

 アリスがケンたちの元に戻って来て言った。

 「だめじゃない!」

 「えぇっ!?」いきなりアリスの言ってることが反転したので狼狽するケンとごろつきたち。

 「あなたたち、悪い事の片棒担がされてるのよ!」

 「「「「なんだって!!?」」」」ごろつきたちが驚きの声を上げた。

 なんで驚くねん、見た目的に。特にモヒカンっぽい何人か。

 「それ・・・ほんとか?」ケンが言った。

 「みたいよ。バゾリが怒ってんの、たぶんそれだわ。」さっきまで一緒に騙されていたアリスが言った。「あんた、たぶん詐欺の片棒も担がされてるし、他の犯罪にも協力してるかもよ。」

 「いや、ジルドレイさんに限ってそんなことは無い。いろいろ世話になってんだ。うちらの商品買ってくれるのも彼だけだし。みんなの面倒もよく見てもらってる。」

 「ジルドレイって人なのね。そんなに支払いも良かったんだ?」と、アリス。

 世話になったっていうのはそう言う意味じゃないだろうに。

 「さすがにそれほど高くは買ってくれなかったかな、まあ、俺たちの作ってくれるものを買ってくれるだけでも、大助かりだったさ。」

 「ん??商品の事じゃなくて・・・ちょっと待って?もしかして、配達とかボディーガードのお駄賃は?」アリスがちょっと真顔になって尋ねた。

 「いや、それは、こちらの誠意だから・・・。」

 「あんた、何やってんの!?なんでも屋やってるとか言ってたのに何タダで仕事してんの?完ぺきに足もと見られてんじゃないの!!」アリスが声を荒げた。「間違いないわジルドレイは悪よ!!」

 そういう現金な判断やめよう?

 「こっちは相手のため、あっちは自分のため。それじゃ儲からない。あんたらいいように搾取されてんのよ!そんなんダメよ!!」アリスがここに来て本格的にヒートアップしてきた。「あんたら見た目の割に人良すぎ!」

 ごろつきたちが、なぜか急に怒り出したアリスにあっけにとられる。

 「私の手下が金を巻上げられるなんて屈辱だわ。」アリスは息巻いた。「よし!まずは、方向性をハッキリさせましょう。」

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