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8-2 b さいきんのギルド運営

 国政会議の2日後、4公の話し合いがいつもの場所で行われた。

 今回はアリス無しだ。呼ぼうにも会議を抜け出してどっか行っちゃったし。

 「まったく、アレは何だったのだ?」ミンドート公はアリスが会議の途中で出て行ってしまったことについてご立腹だ。「ただの落ち着きのない子供ではないか。」

 まったくだ。

 「陛下も陛下だ。アリス公を王に据えたいのではなかったのか?」

 「全く。陛下のお考えが読めん。」ロッシフォールも言った。「王女殿下をアキアに赴かせたいのだろうか?」

 「スラムのようにアキアでも芋を育てさせようとしてるんでしょうかね?」モブートも不思議そうな顔をした。

 「それはあるかもしれませんね。」ジュリアスが言った。

 「アキアでは寒すぎて芋は合わない。」

 ぼそりと言ったのはジュリアスの隣に腰かけていたデヘアだった。

 彼女は芋の税率の件で早速会議に召喚されていた。

 「そうなのか。だが、その事を陛下はご存じないのかもしれぬ。」ミンドート公は言った。「早めに思いとどまってもらったほうが良かろう。さすがに、18の小娘にいきなりアキアを何とかしてこいというのは酷だ。」

 おや、ミンドート公、意外とやさしい。

 「アリス公が芋を栽培して、アキアの情勢を解決すれば、次の王として箔が付くとの腹づもりなのかもしれませんね。」ジュリアスが言った。「アキアの問題を解決したならアリス君の前評判を覆してお釣りがくる。」

 「しかし、芋はアキアの問題の解決策にはならぬと?」ロッシフォールがデヘアに確認した。

 デヘアは頷いた。

 「正直、少し期待しておったのだが。」

 「アキアの気候なら、最適は小麦。」

 「すでに小麦なのだ。」ロッシフォールは頭を抱えた。

 国政会議はあんな調子だったが、なんだかんだで4公は全員アキアの問題を真摯に受け止めているようだ。

 「デヘア殿、もし王女殿下がアキアに行くことになった場合、何かできることがあるか心当たりはないか?」モブートがデヘアに尋ねた。

 デヘアは無反応で動かない。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「・・・・・?」

 「・・・・・いや、デヘア殿に聞いているのだぞ?」

 「?」デヘアが不思議そうに4公を見つめて首をかしげた。そして、またボーッと動かなくなった。

 鉄ボッチモード発動だ。

 「王女殿下とは友人であろう?」モブートが困った声を上げた。「何か知っていることがあったらなんでもいいので話されよ。」

 「・・・・?」デヘアはもう一度不思議そうに首をかしげると、少し考えて仕方なさそうに口を開いた。「・・・アカシアの木というのがある。」

 「ふむ。」デヘアがようやくしゃべり始めたので、4公たちは身を乗り出した。

 「アカシアの木は回りの野生動物に食べられると、身を守るために葉っぱに毒を発生させて食べられないように変化する。」

 「なるほど?」突然のアカシアの木の説明に、4公たちはこの話がどうアリスにつながるのかと注意して聴き始めた。

 デヘアは続けた。

 「不思議なことに、一つの木だけが食べられたのだとしても、その周辺にあるアカシアの木の葉っぱも毒入りになる。この事実から、アカシアの木は何らかの方法で互いにコミュニケーションを取っていると言うことができる。もしかしたら植物たちは我々の思いもつかない手段で会話をしているのかもしれない。」

 「ふむふむ、それで。」

 「・・・・?それだけ。」デヘアは再び首をかしげた。「植物ってすごい。」

 「そう言う事じゃなくてだな・・・。」モブートが頭を抱えた。

 ロッシフォールはここでピンときたらしく、明らかに会話から身を引いて、過去の会議でも時々そうしていたように両肘をテーブルについてこぶしに顎を乗せた。そして空中の一点を見つめ始めた。

 「いやいや、そんな話をここでして何になる!ここに呼ばれた立場を理解せんか!」デヘア時空に取り込まれてあっけにとられていたミンドート公は我に返るなり声を荒げた。

 見る見るうちにデヘアの大きな両目に涙が溜まる。

 「ああああああ、すまぬすまぬすまぬ言い過ぎた。大きな声でビックリさせてしまったな。怒っておらんからな?な?」ミンドート公が慌ててデヘアをあやした。「その、なんだ。我々は貴殿が王女殿下とアキアの農業についてなにか知っている情報は無いのかと聞いているのだよ?」

 「おお。なるほど。」デヘアがハッと気づいたような声を上げた。「でも、これは、まだ確認の取れていない話。」

 「お、なんだ?」思いもよらずデヘアが本当に情報を握っていたようなのでミンドート公が食いついた。

 「一番花という言葉がある。」デヘアはここだけの話とでもいうように声のトーンを落とした。「野菜や果物の株に一番最初に咲く花のこと。」

 「ふむ、それで?」

 「一番花が咲くと、その後は植物は実を実らせることに栄養を収集させる。だから、おそらく、一番花を咲く前につぶしてしまえば栄養が実に取られるのを遅らせることができるものと思われる。」そう言って、デヘアは4公たちを見回した。そして、声をひそめて続けた。「だから一番花をつぶした株は大きく成長する。現在いくつかの作物で確認済み。だから、一番花の扱いを変えることによって、株を大きくするか、実をたくさん成らせるかの制御が可能かもしれない。」

 「ふむふむ?」

 「終わり。」

 「・・・・。」

 「・・・・。」

 「・・・なんでこっちの話はOKだと思った?」ミンドート公はやさしく尋ねた。

 「こっちは役に立つ。」デヘアはえへんと胸を張って答えた

 「そうか・・・。」

 「殿下の友人はこんなんばっかなのですか。」モブートがジュリアスに訊ねた。

 「うちの娘も殿下の友人と主張して引かないんだが。」ミンドート公がモブートを睨んだ。

 「いや・・・失礼。殿下もデヘア嬢もあまりに個性的なものですから・・・。」

 「ベルマリア公、彼女との通訳を頼む・・・。」ミンドート公はデヘアとはかなり相性が悪いらしい。

 「いえ、私も今朝初めて話したようなものでして・・・。」頼まれたジュリアスも困惑気味だ。「デヘア君。アリス殿下と友達だよね。」

 コクリ。デヘアは黙って頷いた。

 「アリス殿下がアキアで何かできる事があるか知らない?」

 「知らない。」デヘアは言った。「植物じゃないから。」

 「「「・・・・。」」」ジュリアス達3人が苦悶の表情を浮かべた。

 ロッシフォールはすでに我関せずを決め込んでいる。

 「帰っていい?タンポポ見たい。」デヘアは言った。

 「すまんが、もう少し我慢してくれ。」ミンドート公が頭を抱えながらデヘアに言った。続けて、ほかの公爵たちに提案した。「とっとと芋の税率を決めてしまおうではないか。早く解放されたい・・・。」

 こうして、芋の税率を決めるための長い長い話し合いが始まった。

 何せ、税金のことになるとデヘアが全く興味も理解も示さない。

 4公たちはデヘアから植物の知識を要求する形で芋に関するデータを聞き出さないといけない。

 何とかデヘアに税金の仕組みについて理解してもらって芋のデータを引き出したい4公と、4公にタンポポの生態について理解してもらってさっさと帰してもらいたいデヘアの話がかみ合うわけもなく、どちらも不幸せな、ひたすら長いだけの会議は日が沈むまで続いたのだった。


 デヘアが帰った後の机の上には4公が死屍累々と突っ伏していた。

 「もう、無理だぞ。今日は働かん。」ミンドート公は机に突っ伏したまま言った。「スラムの問題なぞもう知ったことか。」

 「所詮は殿下の問題です。ほっといてもいいでしょう。」最終的に巻き込まれたロッシフォールも疲れ切った顔で同意した。

 「それにしても、いったいなんだってあやつは急にタンポポについて話し始めるのだ?芋と何か関係があったのか?」ミンドート公が不思議がった。

 「申しわけないが、私は無融合生とかいうのがどうこうというところから全くついていけておりません。」モブートも疲れ切った様子で言った。「ベルマリア公は理解できたか?」

 「いや・・・私にもさっぱり。天才の言う事は解りません。」ジュリアスも突っ伏したままで答えた。

 「いや、あれは立派な紙一重の方だろう。」ミンドート公が辛らつに言った。「娘と同じくらいの女の子じゃなかったらぶん殴っとるわ。二度と呼ばんでくれ。」

 「まあ、おかげで芋の税率についてはまとまったから良いとしようではないか。」ロッシフォールが言った。

 「そうだな。今日は終わろう。この後、王女が一人で何をしでかそうと知ったことか。」と、ミンドート公。

 「そう心配せずとも王女殿下については危急の問題はあるまい。兵も無ければ情報もない。さすがにあの娘もこの状況ではしばらく動くまいよ。次回の会議で話し合えば良かろう、次回の会議で。」

 公爵達から覇気のない同意の言葉が漏れ、本日の4公会議は幕を閉じた。




 しかして、この時すでに、アリスはヘラクレスを従えてスラムのごろつきたちの本拠地に殴り込み、制圧を済ませていたのであった。

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