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8-2 a さいきんのギルド運営

 アリスは塔に戻ってくるなり、タツとセンとキャクを呼びつけた。

 スラムの人間が何かやらかしていないかを確認するためだ。

 「スラムの人が街の人に何かをしたっていうのはないよ。」タツは即答した。「する意味がないもの。」

 「そうよね。カツアゲや詐欺を街の人にしたってしょうがないもんね。」アリスが唸った。「やっぱバゾリの嘘じゃない。」

 「街の人が相手してくれませんからね。私たちのほうから近寄っていくことはありません。」センも言った。「まあ、少なくとも今のところは。」

 「そう言えば服はできそうなの?」アリスがセンに尋ねた。

 「麻の糸はできました。これを織り込んでいきたいのですが、ちくちくしないような服にしていくのに苦労しています。」センが答えた。「服ができれば外の人間と関わり合う可能性も出てくるかもしれません。けれど、まだ先ですね。」

 「楽しみにしてるわ。」アリスはそう言って話題を戻した。「これから少しづつ街とも関わっていこうってのに、あなた達の印象が悪いのは困るのよね。」

 「うーん。」キャクが唸った。「もしかしたらケンかも。」

 「ケン!?」アリスが声を上げた。「そう言えばケンって今何してるの?しばらく会ってないから会いたいわ。」

 「何か、良く知らない人たちと徒党を組んでる。」

 「良く知らない人?」

 「スラムの人の集まりじゃないんだ。」

 「スラムの人も居ないわけじゃないんだけど、ほとんど見かけたことない人ばっかり。」

 「俺らみたいに痩せてて、ばっちい。冬前くらいから街に近いところにある大きな空き家に陣取ってる。」タツが言った。「ガラの悪い連中ばっかりだからあんまり近寄りたくない。」

 それやんけ。

 アリスがちらりとヘラクレスを見た。

 「今回は私はノータッチですよ?」ヘラクレスは首を横に振った。「過去に仕組んだ憶えもないです。」

 「う~ん。徒党を組んでるってのは本当だったか・・・。そうするとバゾリの言ってることもあながち嘘じゃないわけね。ケンがなんかやらかしてるのかしら?」アリスは眉をひそめた。「ケンが絡んじゃってるとスラムは関係ないですってとぼけるわけにもいかないわよねぇ。そいつらはあなた達には絡んできたりしないの?」

 「近寄らなきゃ大丈夫。」タツは言った。「そもそも向こうからスラムには寄ってこない。」

 「そいつら街の人に何かしてるの?」

 「そこまでは分らないや。」タツは肩をすくめた。

 「とりあえず、バゾリが嘘言ってるのか、それとも、ケンたちが何かしてるのかをつかまなくちゃ動けないわね。」アリスは腕組みしながら言った。「まずは情報収集よ」。




 「あいつ、戻ってきたらしいのよ。」城の洗い場で赤メイドが言った。

 「あいつ?」例によって黒メイドが赤メイドの隣で一緒に洗濯物をいじっていた。

 「ちび王女よ。」

 「あー居たわねそんなん。」黒メイドが思い出したような声を上げた。「生きてたんだ。最近見なかったけど。」

 「そりゃもうぴんぴんしてるって」赤メイドが言った。「ついに公爵になったわよ。18歳ですって。」

 「うぇ・・・あいつこのまま王様になんじゃない。」黒メイドが心底嫌そうな顔をした。

 「アミール様のほうが絶対いいのに。」

 「誰かが暗殺してくんないかしらね。」黒メイドが物騒なことを言う。「エラスティア公とか。」

 時々、的を射るからこいつら侮れない。

 「病気で死んでくれれば良かったんだけどね。」

 「でね、でね。どうも今まであいつ、スラムに住んでたらしいのよ。」

 「え?王女が?」黒メイドはビックリして声を上げた。

 「そうそう、最近なんかスラムのほうがきな臭いじゃない。全部あいつの仕業みたい。」

 「きな臭い?スラムで何かあったの?」

 「やだ、あんた知らないの?」赤は会話のマウントが取れそうなのを感じたらしく嬉しそうだ。「ていうか、あんた、この間、変な石鹸つかまされたとか言ってなかったっけ?」

 「あー、あの泡立たないし砂利入ってたってやつのこと?なんか変なにおいもしたし。」

 「そうよ。それ。それ作ってんのスラムの連中だったらしいのよ。」

 「え!?嘘!いやだ、汚い!!」黒が身を縮めて両腕両足を掃除するかのように手でこすり始めた。

 「御愁傷様。」赤が言った。「最近、そういうのがいろいろ安く出回ってるみたいなのよ。全部スラムのって噂。」

 「安いのには要注意ってことね。」まだ黒は両手をさすっている。

 「裏をかいて高いやつもあるみたい。」

 「たち悪いわね・・・。」

 「そういう粗悪品やニセモノを作って売ってるのがスラムの人間たちで、それを裏で牛耳ってるのがあの王女なのよ。」

 「それでスラムなんかに居たの?」黒が訊ねた。「ついに犯罪を始めた?」

 「そ。スラムの連中を奴隷みたいに安く買いたたいて、無理やり働かせてるって話よ。」赤が答えた。「なんでもお金じゃなくて道端の石を給料として支払ってるんだって。」

 「石なんか貰ってどうすんのよ。」

 「どうにかなるわけないでしょ。」赤がさも知っているとばかりに答えた。「そこはほら、あいつ王女じゃない。スラムの連中が逆らえるわけないじゃん。嫌でも働かないとしょうがないんじゃない?」

 「給料が安いどころの話じゃないじゃない。相変わらず鬼畜。」

 「アイツが王になったら明日は我が身よ。」赤が身震いして言った。「気を付けないと。」

 「王になんかなられた日には、気を付けたってどうしようも無いわよ。」黒はそう言ってから、赤に尋ねた。「ねえねえ。亡命ってどうやるのかしら?」

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