7-10 c さいきんの建国シミュレーション
そして、その夜。
アルトの渡した飲み薬から吸収された、謎の物質がやってきたのだった。
まあ、来るのは解っていたので、歓迎の準備はバッチリだ。
飲み薬だから何かしらの成分なのかと思いきや、見た目はなんか細菌とか抗体とかそれっぽい何かだった。つまり、自分と同じようにスキルとかを使ってなんかするような生き物ってことだ。
とりあえず、一匹を倒しにかかる。
念のために突出した一つを狙ってみた。
こちらは多勢、あちらは一つという状況になっている所を選んで戦闘を仕掛けた。
もしも向こうの援軍やってくる前に、この一つが倒せないようなら対策を
弱っ!!
最初の一つを一瞬にして粉砕してまった。
アルト先生、これ、また、弱いっす。
これじゃダメですー。私には効きませんー。
どうも、アルトはこの世界の細菌システムについては把握しているものの、その強さを大きく計り損ねているようだ。最初の薬もそんな感じだったし。
ちょっと残念で、ちょっとほっとしたしたような・・・。
アルトの処方にダメ出しをしたその瞬間だった。
各地で激痛が走った。
良く分からない表現で申し訳ないが、まさにそんな感じだった。簡単に事象だけを言うと、アリスのいろいろな場所に配置された自分がダメージを受けたのだ。
痛みの発信地の一つに意識を飛ばす。
そこには半壊した我が細菌軍と向こうから押し寄せるアルト製薬軍が居た。
どうして負けた!?と、思ったのは一瞬。その理由はすぐに明らかになった。
目の前のアルトの薬たちが白い衝撃波を放って爆発したのだ。
自分が意識を合わせていた細胞の居る前線が崩壊した。近くの無事だった細胞に視点が移り、視界が少し後退した。爆心地には何も残っていない。
自爆攻撃か!
アルトもえげつない薬を作ったものだ。
てか、アルトが言ってたのと効果全然違うじゃん。こっちの増殖を抑え込むんじゃなかったっけ?
と、
『解析が終了しました。 アルトの薬:【トリガー崩壊(固有)】【身体保護(固有)】を取得可能です。』
さっき倒した奴の解析終了のポップアップが表示された。
『アルトの薬』ってなんだよ!【解析】が何一つ解析してねぇ!
アルトはアリスに自分の知識から逸脱した何かを投与した見た。もはや薬かどうかも怪しい。
名称はどうでも良い。ポップアップに表示された、【トリガー崩壊(固有)】。
たぶんさっきの細胞の爆発はこれに違いない。
説明のポップアップを求めてスキルを選択してみる。
『【非表示】のため表示できません。』
え?
どういうこと?
そんなパターンあるのか。
うわ、【身体保護】のほうも見れない。
アルトがわざわざこんな仕掛けする訳ないから、この物質が『アルトの薬』とかいう自分の理解の外側の物体だからなのだろうか?
もしくはたまたまアルトが要らん偶然を引き当てたか。これはこれでありそう。
ヒントを探して自分のスキルリストの中にある【崩壊】の説明を表示する。
『自らをすべて崩壊し、宿主に致命的な影響を与える。』
やっぱこれだ。これでダメージ食らってるんだ。
アルトもなんかそれっぽいこと言ってた気がするし。
【崩壊】って、宿主以外にも、周囲の細菌なんかにも致命的な影響を与えるに違いない。宿主だけに致命的なダメージを与えるというのは考え難い。周辺の細胞にもダメージがいってしかるべきだろう。
アルトはこの【崩壊】を【トリガー崩壊】とすることでアリスにダメージを与える部分を取り除いたのだ。
いや?【身体保護】のほうに仕掛けがあるのか?
痛ったっ!!
次の衝撃が各地で観測された。
これやべぇ!!個体は弱いが自爆攻撃のダメージがでかい!
アルトの渡した瓶に何日分の薬が入っていたかは分からないが、こんな状況が一週間も続いたら本当に全滅してしまう。
これ、本当にアリスにはダメージいってないんだよな?
試しにアリスにチャンネルを合わせてみる。アリスはいたって健康そうなようだった。よかったって痛った!!
いかん、アルトの殺意が強すぎる。
リスク覚悟で【解析】した二つのスキルを取ってみよう。説明を見ることができるようになるかもしれない。アリスに危害を及ぼすようなスキルをアルトが積むことはないだろうから、取っても問題はあるまい。
・・・だよな?アルト。
自分に対するリスクは・・・・・・まあ、取ってから考えよう。
【トリガー崩壊】と【身体保護】を選択して取得を考える。
【身体保護】の方だけ色が変わり、突如見慣れぬポップアップが現れた。
『【トリガー崩壊(固有)】の前提条件を満たしていません。』
取得可能ちゃうやんけ!
さっきの『取得可能です』の表示は何だったのか。
何でゲームみたいな手抜き表示があるんだよ。このシステムの運営はこういう細かいところを手抜かずに作るべきだ!
さっきからシステムに踊らされてばかりいる。
てか、【身体保護】だけ取ってしまったぞ?これセットで持って無くて大丈夫なスキルか??
慌ててスキルリストから効果を確認する。
おお!説明が読める!
『自身の活動による宿主へのダメージを無効化する。』
ああ、やっぱそうだよ。
【トリガー崩壊】が【崩壊】と似たようなものだとしたら宿主にダメージが行くはずだ。
そして、【身体保護】はその宿主へのダメージを無効化できるのだ。つまり、あいつらが崩壊するたびに自分はダメージを受けるが、アリスはこのスキルのおかげで無傷ってことらしい。
【身体保護】の効果が分ったので、【トリガー崩壊】のトリガー意味もなんとなく想像がつく。
おそらくアルトの薬は近くに自分が居ると爆発しやがるのだ。つまり、トリガーで(周りに何かが居ることをきっかけにして)崩壊するという事なのだろう。
痛いっ!
またどこかで激痛が襲う。
まいった。
安穏と状況を分析している場合じゃない。
このままでは自分はアルトの薬によって滅殺されてしまう。
アルトの薬はこちらを認知してから爆発までは多少時間があるようなので爆発前に処理することも可能なのだが、いかんせん相手がたくさんいる中では難しい。そもそも、自分のすべてを操って動かすのは不可能だ。【管理】でも局地的な戦術面での細かな指示は与えることはできない。せいぜい『逃げろ』くらいだ。
余ったスキルポイントで何とかできないかとスキルリストを慌てて調べる。
この状況を打開できそうなスキルはすぐに見つかった。
しかし、相変わらず説明が足りない。
【冬眠】:『自らを一定期間活動休止状態にすることで他の細菌からの攻撃を受けないようにできる』
一定期間ってどのくらいだよ?
【崩壊】による自爆攻撃は遮断できるの?
そもそも、『アルトの薬』は細菌にあたるのだろうか??
って、痛い!!
やばい!やばいってばよ!!
背に腹は代えられない。
一か八かで【冬眠】を取得する。
お願い!!
『スキルを取得しますか? スキルポイント2→1 Y/N』
スキルの文字が取得を意味する赤に変化した。
・・・・・。
あれっ?動けない!
活動休止って完全に動けなくなるの!?
適当にアリスの中に散らばった各所の自分たちに視点を移動するが、すべての細菌が動くことができなくなっている。
やばいやばいやばい。
このままだと、ただの標的だ。
終わった・・・。
アルトの薬がじりじりと近づいてきた。そして自分を認識して止まった。
爆発する気だ。
頼む!
まじ頼む!
そして、アルトの薬が爆発した。




