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7-9 c さいきんの建国シミュレーション

 「殿下はズルいです。」ミスタークィーンが文句を言った。

 彼はアリスが大量に手に入れた芋の買い付けに来ていた。

 「完全なモノポリーだ。」

 「あら、なにがよ?」アリスはとぼけた。

 「私は殿下から芋を買わなくてはいけない。殿下は芋のトレードを完全に牛耳ってしまっている。」ミスタークィーンは不満そうに続けた。

 「別に、スラムの人たちから買えばいいじゃない。」

 「我々商人がもっとも苦手とする人間って誰だと思いますか?」ミスタークィーンは急に話題を変えた。

 「税金取り!!」

 国政側の人間がそれを即答?

 「・・・それもそうですが、他にもいます。」

 「誰?」

 「価値が何一つ解らない人間です。」

 「むしろ良いカモなんじゃないの?」

 「それは、少しだけ価値の分かる人間です。」ミスタークィーンは答えた。「価値がまったく理解されないと、そもそもアイテムにプライスをつけてもらえません。あろうことか彼らはマネーの価値を知らないのです。1ラムジよりも、赤茶けた小石のほうが重要なのです。これでは、我々はこのマーケットに参入する余地がない。」

 「別に、あなた達もカリア石使ったら?」

 「かんべんしてくださいよ。それこそメリットがない。」

 「でも、あなた、この件で結構儲けてるでしょ?」アリスは言った。「お芋だって適正と言うよりは安めに売っているつもりだけど。」

 「私はそうですが、ギルドの面々にまでチャンスが回らないのです。」

 「それは駄目よ。今、あなた達が本気でこの村に介入したら、せっかくの彼らの経済がしっちゃかめっちゃかになっちゃうもの。」

 「我々だって、せっかくのマーケットを死に追いやるようなことはしません。」ミスタークィーンは必死に主張した。「ただ、芋を直接買い付けたいだけなのです。」

 「嘘ね。食い散らかして去っていくわ。」アリスは忌憚なく反論した。「だから、彼らが成長するまでもう少し我慢しなさい。近いうちに、普通の通貨経済に移行して、ここも街の一部になるわ。」

 「では、こういうのはどうでしょう。」ミスタークィーンは不敵に笑った。今のアリスの言葉を待ってましたというような口調だった。「我々から、技術を提供いたします。」

 アリスは思わず立ち上がった。

 そして、何かをミスタークィーンに叫ぼうとして踏みとどまった。驚いているのでも、怒っているのでもなさそうだ。喜びが顔にでるのを抑えているように見える。

 「どういうつもり?」アリスは警戒しながら訊ねた。

 「いえ、スラムの人々のレベルが街と遜色なくなれば、芋のマーケットを開放していただけるのでしょう?それに我々としてはスラムの数百の需要は捨てがたい。投資ですよ。マーケットをエクスパンドするための。そもそもこれは以前殿下が我々に提案したことですよ?Win-Winといこうじゃないですか。」

 「たしかに、喉から手が出るほどうれしい提案だわ。」アリスは用心深く考えながら言った。「でも、以前あなたは私が農具を作りたいと言ったとき少し渋った。今回はどういう風の吹き回し?」

 「おや、喜んで受け入れてもらえるプロポーザルだと思ったのですが・・・。」

 「前にもあったわよね、こんなこと。」

 「前に?」ミスタークィーンが少し考えるそぶりをしてから言った。「ショウの時の事ですかね。」

 「そうよ。」アリスは言った。「あなたが欲しいのは人手。それも破格の人足。」

 「ご明察にございます。」ミスタークィーンが臆面もなく答えた。「しかし、そちらとしてもエンジニアを育てられるというメリットがあるはずです。鉄器の技術を欲しいのでしょう?建築と。もちろん、こちらがテクノロジーを教えるわけですので、普通の工夫と同等のサラリーは払いません。我々はスラムに派遣して教育を施すプロパーたちにもサラリーを払わないといけませんからね。それでも、今のスラムの方々には充分かと存じますが。」

 「・・・・スラムの人にお給料として通貨を渡す気ね?」

 「わたくし共はカリア石を持っておりませんのでね。」

 「そういう干渉の仕方をしてくるのか・・・。もう少しの間、街と隔離して街の職人や商人たちと闘える時間を作ってあげたかったけれど、そのやり方は完全に想定の外だったわ。」アリスは口にこぶしを当てて深刻そうに言った。そして、眉をひそめて必死に考えながら、再び椅子に腰を下ろした。

 「殿下はコンスル(執政者)ですからな。人々を『駒』として考えることはありましょうが、私ども商人のように『商品』として考えることはございませんでしょう。このようなことは思いつかなくて仕方ありません。」

 「安くて質の良い技術者がこの村で生まれてしまうかもしれないわよ?」アリスは一矢報いようと、ミスタークィーンに問いかけた。

 「構いませんよ?それで困るのでは我々商人ではなくエンジニアだ。そこはほら、実力の世界です。」ミスタークィーンはどこ吹く風で肩をすくめた。「私どもはこの場所に新しく生まれたマネーフローに一枚噛めれば良いのです。」

 「参ったわね。私はこの提案断れないもの。」アリスはお手上げと言った様子で両手を上げた。「スラムの人に技術を提供してくれて、なおかつお給料を払ってくれる人を追い返すなんてできない。」

 「では、交渉は成立という事でよろしいですかな?」

 「構わないわ。お芋の件も考えとく。よろしく頼むわね。」アリスはニッコリとほほ笑んだ。「あんまり買いたたかないでね。」

 「ご安心を。コンペティターのいないマーケットでは、適性価格が一番儲かるのですよ。」

 こうして、街の技術の流入が始まり、スラムの発展にはさらに加速していくのだった。



 そしてアリスの籠城と建国シミュレーションゲームは4度目の芋の植え付けを待たずして一旦の終わりを告げる。

 この後すぐ、王命が下されたからだ。


 アリスは塔から出て、公爵となるのだ。




 その話をする前に、私事だが、アリスの国作りとは関係のない話を少しだけしておきたい。


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