7-6 b さいきんの建国シミュレーション
やばい!!
なんかやる気だ。ぜったい商談なんかじゃねぇ!
慌ててアリスに戻る。
訓練中だぁぁああ。
いかん!
身体を動かすのが好きなアリスは、大概の場合、些細な事より訓練を優先する。
城壁の外のほうの扉につけられた呼び鈴がなった。
アリス、無視。
これだよ!
まあ、いつものようにグラディスが向かうはずだから問題はない。
じゃねえ
グラディスがやべえって!!
ネオアトランティスに乗り移つる。
グラディスがやばいんだ!
頼む!
「アリス!!アリス!!」ネオアトランティスがカゴの中で羽を広げられるだけ広げて騒いだ。
「ネオアトランティス、うるさい。」アリスがネオアトランティスのほうを見ることも無く言った。
ネオアトランティスがピタッと黙った。
動け、あきらめるな。
ネオアトランティスは「グラディス。」とつぶやいて黙った。
あきらめるなって!
グラディスがやばいんだよ!!
ネオアトランティスはアリスに怒られたせいでキョドキョドと左右を見ている。もう騒がない。
くそっ!ウィンゼルだ!!
部屋に放し飼いされているウィンゼルに乗り移る。
ウィンゼル行け!!頼む!
アリスの所に駆け寄っ
あぶなっ!!
「ウィンゼル、邪魔!!踏むよ!?」踏むよじゃねえ、言葉遣い!!
じゃねえ!!
グラディスがやばいんだって。
アリスに怒られてウィンゼルは少し固まったあと、アリスから逃げるように走り去った。
いや、アリスを説得してくれ!グラディスがやばいんだって!!
これだから【操作】は。
ウィンゼルどこへっ行こうって・・・え゛!?
ネオアトランティス!?
なんで隣飛んでるの!?!?
てか、どうやってカゴから出た??
ネオアトランティスはバサバサと飛んで、部屋の扉の取っ手に片足で器用に止まった。
「えっ!?」さすがのアリスも訓練を止めて、カゴから脱走したネオアトランティスをビックリした様子で見た。
ネオアトランティスはそんなアリスのことは気にせず、彫像のようにノブの上で固まるとノブをつかんだままグルンと後ろに倒れ込んだ。
ウィンゼルがネオアトランティスとアイコンタクトを交わした。
ウィンゼルは加速するとネオアトランティスがノブを回した扉に体当たりした。ミスタークィンのところの職人たちが軽く押すだけで開くように調整しておいた扉は、ウィンゼルの体当たりでも少しだけ開いた。
ウィンゼルが扉の隙間から駆け出した。
「ちょっ!ウィンゼル!!」アリスの声が後ろから聞こえた。
ウィンゼルが階下に急ぐ。隣を見るとネオアトランティスもついてきている。
おまえら、なんて頼りになるんだ!!
さきに行くから早く下にきてくれ!
自分はこの塔一階の天井に住まっている感染済みの蜘蛛に視点を移す。
この塔にはネズミもゴリも入れてないので、他に頼れるものが居ない。
一階では、グラディスが男の一人を案内していた。
「ミスタークィン様からの搬入でさあ。」
「あら、いつもの方では無いのですね。」
「ええ、風邪で伏せっているんでやす。」男は両手をもみ合わせながら言った。「外の連中に搬入させて良いろしいですか。」
「あら、お大事にとお伝えください。お塩と食料の搬入をお願いしますね。」
男は後ろに向かって大声で呼びかけた。
「おおい!入ってこい!」男が開いたままの扉の外に向けて大声を上げた。
「おーう。」外から返事が返ってきた。
「で、搬入はどちらへ?」
「地下にお願いします。」グラディスが男に背を向けて地下室の入口へと向かった。
男はグラディスが後ろを向いたのを見ると、懐から短刀を取り出してさやから抜いた。
グラディスを人質に取る気か!!
男がグラディスににじり寄った。
蜘蛛にぶら下がっている糸を切らせて、男の顔めがけて落下する。
「うぉっ!?」男は悲鳴を上げると慌てて蜘蛛を払いのけようと暴れた。
グラディスが男の悲鳴に振り返った。
「どうなさったのですか?」男の短剣には気づかない様子でグラディスが言った。
「しまった!畜生!みんな捕まえろ!」
男はそう叫けぶとグラディスに走り出そうとした。
その瞬間ネオアトランティスが男の顔に飛びかかった。
「クソっ!!」
男はネオアトランティスを振り払おうと短剣を持ったまま手を横に薙いだ。
ネオアトランティスは飛び上がって男の攻撃をかわした。ネオアトランティスの尾羽を短剣の切っ先がかすめた。
「ネオアトランティス!?」グラディスが突然目の前に現れたネオアトランティスに驚いて固まった。
「ちくしょう貴様、ぎゃあぁぁ!!」
ネオアトランティスめがけて短剣を振りかぶった男が悲鳴を上げると、足を押さえて跳ねまわりだした。ウィンゼルに足を噛まれたのだ。
「おまえら!女をつかまえろっ!!」男は足を押さえて跳ねまわりながら外に向けて大声で言った。
その瞬間、外でも悲鳴が上がった。
開きっぱなしの扉の外では、一人が何匹もの鳥たちに絡まれ、もう一人はジャッカルに襲われていた。
良かった、効いてた、インプリンティング。
ジャッカルが本当にジャッカルかは解らない。だが、リストにジャッカルって出てるからジャッカルってことでいいや。
今度は蜘蛛からジャッカルに乗り移つり【操作】を実行する。
塔の中の女の子を守ってくれ、アリスの家族なんだ。
ジャッカルは倒れた男に襲い掛かるのは止めて塔の中へと駆け出した。そして、ウィンゼルの攻撃から立ち直った男の背中にタックルをしかけた。
男はもんどりうって倒れ、手から短剣がこぼれ落ちた。
そこに、アリスが螺旋階段の上に現れた。
「何をしているの?」
「私にもなにが何だか・・・。」グラディスが目の前のありさまに困ったように答えた。
ネオアトランティスが机の上で両方の翼を広げて「クェーッ」と男を威嚇した。
男はジャッカルにのしかかられている男は床に転がったままアリスに顔を向けた。
「ちくしょう!戦闘狂が来ちまった!!」
せ、戦闘狂??
「良く分からないけど、あなた悪者ね?」戦闘狂が階段の上から言った。
「くそっ!!」
ジャッカルに組み伏せられた男は身体をひねって抜け出すとようやく立ち上がった。
アリスは手すりのない螺旋階段から、階段を無視して飛び下りた。いや、舞い降りたと言ったほうがふさわしい。
アリスはグラディスをかばうように降り立つと、ジャッカルと男のどっちに襲い掛かるかちょっと考えている様子だ。
ジャッカルを少し下がらせる。
アリスは短剣を拾って構えなおした男が敵だと判断して、少林寺のようなポーズをとった。
アリスが来たならばグラディスは大丈夫だ。
ジャッカルに命じて、塔の扉、貴族街のほうの閉じられたままの扉に体当たりをさせる。
ウィンゼルとネオアトランティスがジャッカルの行為に何かを感じたのか真似をして扉に攻撃をし始めた。
にらみ合っているアリスと男をよそに、動物たちが扉を叩く。
塔の外から「どうかいたしましたか?」と兵士の大声が聞こえ、それから扉が開いた。
「!? お前たち、何をしている!ん??」
扉から現れた兵士たちが内情を見て戸惑う。
兵士たちは混乱した様子で、目の前で自分を見上げている動物たちとアリスに向けて短剣を構えている男のどっちを対処するべきか判断をつけかねている様子だった。
とりあえず、危機は乗り切った。
脱走したウィンゼルとネオアトランティス。なぜか塔の中にいるジャッカル。アリスに向けて短剣を構えている男。外で倒れている男二人。それを制圧している鳥たち。そして未だ現状を把握出来ていない兵士たちとグラディスとアリス。
あとは、この状況をどう片づけるかだなぁ。




