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7-5 a さいきんの建国シミュレーション

 最後の配給としてじゃがバターをふるまった後、アリスは全員に芋を渡し終えるまで誰一人帰ることを許さなかった。

 皆、素直にアリスに従ってアリスが次に何を言い出すかを待った。

 グラディスと共に芋を配り終えたアリスは再び赤い絨毯の先まで出てきた。なぜかアリスは塔の奥からカリア石を一つ持ってきた。

 「皆の者に二つ通達する。」アリスは声を張り上げた。「一つ、スラムの民のうち芋の保管が不安な者は申し出よ。私が芋を預かる。私はこの塔の地下に保存に適した貯蔵庫を持っている。預かった担保として、芋と同じ重さのこのカリア石を渡そう。そして、私の目の黒い限り、スラムの民が持ち込むカリア石は同じ重さの芋をもって私が払い戻そう。」

 なるほど、これから夏に向かって暖かくなってくる。あのスラム街では芋なんて腐っていってしまうだろう。無担保で預かってあげるのなら気の利いた施策だ。

 一方のスラム民たちはアリスの提案にどういったメリットがあるのかよく解っていないようだった。

 「次の作業まで、芋を取っておけるか不安なものは、この石と交換で私に預けると良い。」アリスはもう一度分かりやすく告げた。

 スラム民から徐々にどよめきが起こった。芋の保管について伝わったからではない。アリスが、『次の作業』と言ったからだ。

 スラムの人々はこの後、また、自分たちに仕事が舞い込んでくると知って歓喜のざわめきに震えた。

 「静粛に!」アリスが声を上げて皆の黙らせた。そして次の説明に移った。「次に、望む者には塩とバターを販売する。塩はカリア石を重さにして15倍、バターはカリア石を重さにして10倍支払うことで提供しよう。」

 ミスタークィーンからかなり安値で卸してもらってるんだから、少しずつでいいから分けてあげれば良いのに。せこいなぁ。

 あと、カリア石じゃなくて芋と交換したほうが楽でいいんじゃね?

 スラム民たちはきょとんとした顔をしてアリスを見ていた。

 「以上。今までの皆の努力に感謝する。」

 ここまで厳かだったアリスはそう言い終えると、今度はお姫様然としてスカートのすそをつまんで優雅に礼をした。そして、くるりとスカートを躍らせて振り返り、毅然とした足取りでレッドカーペットを戻って行った。

 アリスの提案の良さが何一つ伝わらなかったのか、この日は誰一人として芋とカリア石を交換するものは無かった。

 しかし、この提案こそが、アリスの考えた素晴らしく、そして狡猾なギミックだった。




 アリスがスラム民たちに芋をあげてから数日後、思わぬ来客が現れた。

 「ショウ!!」

 「久しぶりです。アリス殿下。」

 アリスと別れてから1年くらいしかたっていないというのにショウは成長していた。タツたち同じくらいの背丈まで背が伸び、そして何より、ずいぶんと大人びて見えた。ここ1年間、大人の世界でもまれてきたに違いない。

 「立派になったわね。殿下なんてかたっ苦しい言葉使わなくてもいいわよ。」

 「じゃあ、久しぶり!アリス姉ちゃん!」ショウはニッカリと笑った。

 「みんなには良くしてもらってる?」

 「うん。」ショウは頷いた。「アリス姉ちゃんが文字とか計算とかいろいろ教えてくれたおかげだよ。皆に重宝されてる。」

 「重宝って、難しい言葉を使うようになったわね。」アリスは感心したように言った。「あなたが来てくれてとてもうれしいわ。これって凱旋よね。」

 「ごめんね、ほんとは自分なんかより親方とか先輩のほうが良いんだけど、誰も来たがらなくって・・・。」

 「何言ってるの。最高の技術者をミスタークィーンは送ってくれたわ。」

 「期待に恥じないように頑張るよ。」ショウは答えた。ほんと立派になったな。「で、僕は何をすればいいの?モノづくりを教えろって言われてるんだけど、そこまですごいことは教えられないよ?」

 「農具の作り方をスラムの人たちに教えて欲しいの。基本的なことで良いわ。」

 「簡単なことなら。道具とかはそろってる?」ショウが尋ねた。

 「道具は無いわ。」アリスは言った。「多少の工具なら私が買って貸し出すわ。」

 「鍛冶とかはどうするの?」

 「そうね・・・鉄器は無理ね。」アリスは少し考えて言った。「最低限の使える農具ができればいいわ。できればタツと一緒に工夫してみて。お願い。」

 「アリス姉ちゃんらしい無茶ぶりだね。」ショウは笑った。「僕なんかにできると思ってくれることがうれしい。」

 「いままでみんな手で耕してきたから、どんな農具でもあればみんな喜ぶわ。街の品質まで行かなくても良いの。少しでも大変じゃなくなるようにしてあげて。」

 「そうはいかないよ。」意外にもショウは拒否の言葉を口にした。「僕は良いものを作りたいんだ。」

 どんな子供だよ。

 「あんた、ほんとに立派になったわね。」

 「親方の受け売りだけどね。」ショウはそう言ってから思い出したように付け加えた。「そう言えば、ボスから塩を預かってきたんだけど。下に置いてある。」

 ボスってのはミスタークィーンの事かな。

 「あら、ありがとう。助かるわ。」

 「あんな量の塩、何に使うの?」

 「スラムの人たちに売ってるのよ。」

 「??何に使うの??」スラムのことは良く知っているショウは怪訝な顔をした。

 「お芋の味付けに使うのよ。」と、アリスは答えを先に言ってから、今までの経緯を説明し始めた。

 芋を配ったその日、スラムの人たちは誰一人として芋を交換しに来なかったが、次の日から、ぽつりぽつりと塩やバターを求めるものが集まってきた。そして、5日後には芋を持ったスラム民たちが塔の前に列をなしたのだった。

 彼らは持ってきた芋を一度カリア石と交換し、そのカリア石で塩を購入した。

 アリスの配給していた食事の味に慣れてしまった彼らは塩なしの芋には我慢できなかったのだ。

 まさにアリスの思うつぼだ。塩と、その交換でアリスが得ている芋とでどちらに価値があるか自分には判断つかないが、アリスが『販売』と言う言葉を使った以上、間違いなくアリス側に営業利益が発生しているのだろう。

 一度上がってしまった生活レベルは簡単には戻らない。ショウの持ってきた塩とバターもすぐに売り切れてしまうことだろう。

 「アリス姉ちゃんありがとう。」ここ最近のスラムの様子を理解したショウが嬉しそうに言った。「みんな、良いものを食べれてるんだね。」

 「まだまだ、本番はこれからよ。だから手を貸して、ショウ。スラムをもっと良くしたいの。」アリスは謙遜抜きでそう言った。


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