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7-3 b さいきんの建国シミュレーション

 芋を植え終えてしまうと、スラムの人たちの重労働はようやく収まりを見せた。

 こうなってしまうと、アリスの提示していた労働条件が悪いものではなかったような気がして来るから不思議だ。

 スラムの人々は午前と午後ちょこちょこっと畑の手入れをするだけで配給を毎日受け取った。

 大忙しだったタツ達も少し手が空いてきた。

 そんなある日、アリスがタツたち3人を呼びつけて言った。

 「ねえ、カリア石ってあなた達が捌いてるの?」

 「そうだよ。商人さんの使いの人に渡して食料をもらってる。最近はあんまりかな。畑仕事のほうがおなか膨れるし。」タツが答えた。

 「じゃあ、あなた達でカリア石山ほど取って来てくれない?ちゃんとお駄賃は払うわ。」アリスが悪そうに笑った。

 まーたなんか企んでると見た。

 いまさら、カリア石なんか集めてどうするつもりだろうか。

 「お金より、お菓子のほうが良いな。」キャクが言った。「正直、お金の使いどころがないんだ。」

 「それは構わないけれど、お金で持ってたほうが好きなものが好きな時に買えるわよ?」

 「街に買い物に行くのも怖いし、服も無いし。まだ、アピス様からもらったお金もあるし。」

 「ふーん。私は構わないわ。」アリスはそう言いながら、少し何かを考えているようだった。

 「カリア石など集めてどうするおつもりですか?」センがアリスに尋ねた。

 「お金に変えるのよ。」

 「はあ?しかし、ミスタークィーンもそこまでたくさんカリア石を買ってくれるわけではないですよ。」

 「ミスタークィーンに売るんじゃないのよ。ミスタークィーンにはその点連絡済みよ。そこまでコア事業じゃないから、カリア石はこちらの好きに使って良いって。」

 「はぁ。」センは良く分からないまま小首をかしげた。

 「全部取ってこれる?」

 「「「「全部?」」」三人が異口同音に驚きの声を上げた。

 「そう。台車は用意するわ。」

 「まあ、そんなたくさんある石じゃないから、何日もかければできるとは思うけど・・・」タツがそう言ってセンとキャクを見る。

 「もちろん、友達を使ってもいいわよ。彼らの分のお菓子も用意するわ。」

 「うーん、それなら何とか。」タツは少し考えてから返事をした。

 「埋まってるのも全部ね。」

 「埋まってるのもですか!?」センが声を上げる。

 「そうよ。道具も貸すから大丈夫。」

 あ、今回は道具貸すんだ。

 「たぶん、あの河原の所だけにしかないから、深くに埋まってるってこともないと思うし大丈夫なんじゃないか?」「でも結構地面固いぜ。」「道具があればなんとかなるとおもうけど。」「あの石そんな重くないし。」3人は相談を始めた。

 3人はしばらく話し合った後、タツが代表して答えた。

 「分かったよ、姉ちゃん。たぶん大丈夫だと思う。」

 「ちゃんとやってくれたら、お菓子をたんまりとごちそうするわね。」

 アリスの笑顔は彼女が何か企んでいることを物語っていた。




 冬の間、アリスの命令通り、タツたちは塔の地下に次々と大量のカリア石を運び入れた。昼と夜にはアリスに雇われたスラム民たちが毎日のように配給をもらいに列を作った。

 幸いなことにこの間アリスを狙う者は誰も現れなかった。

 搭に籠ったままのアリスは相変わらずいろいろと勉強したり訓練をしたりしていた。

 相変わらずと言ったが、勉強の内容と訓練の内容に変化があった。

 まずは訓練。

 今まで、アリスは素手での格闘のシャドーしかしていなかった。しかし、塔に引っ越して来て、部屋が広くなって天井が高くなったせいか剣の練習をし始めた。

 だいたいの場合、しばらくマーシャルアーツを嗜んだ後、練習用の剣を取りだすと、いろいろな素振りをしてから剣舞を舞うのであった。

 そういや家具の配置がやけに片側に密集してるなと思っていたが、このためだったのだろう。

 あと、筋トレもするようになった。マッチョになるからやめてくれ。

 胸が育たんぞと思ったが、どこで憶えてきたのか胸の前で手を合わせて押すオッパイ用の運動も取り入れてきた。

 残念ながら、それは垂れないようにする運動だ。今のところ必要がない。

 そして、普段読む本の内容にも変化があった。

 アリスは今までよく読んでいたケネスの経済的なことの書かれた本を読み終え、工業や建築に書かれた本を取り寄せては読み漁った。内容は、国の工業の歴史、工業製品の使い方や安全について、各地にある有名な建造物とその由緒についてなどであった。資料や学術書というよりは、ドキュメントやスポーツ新聞の記事ような安っぽい感じの本が多かった。はたしてこれが王様になるために必要とは思えなかった。

 アリスも同じように感じたのか、ケネスの本にかけた時間とは比べるべくもない短い時間で次々とそれらの本を読み進めては、大体の場合、不満足で次の本に取り掛かるのだった。

 ある日、家庭教師にやってきたオリヴァにアリスが尋ねた。

 「ねえ、家の建て方や道具の作り方の書かれた書物ってないの?」

 「家の建て方?でございますか??」オリヴァは唐突なアリスの質問に対して驚いて声を上げた。

 「そう。大工が欲しいの。あと工夫さん。」

 「ミスタークィーンにお願いしましょうか?」

 「ほんと!?じゃあ、家の建て方の本と農具の作り方の本をお願い。」

 「いえ、本ではなくて大工と職人を呼んで殿下の欲しいものを作らせれば良いではないですか。」オリヴァは困惑した様子で言った。

 「そういうのじゃないの。私は大工のなり方が知りたいのよ。」

 大工になりたいの?

 「その様な本はありませんね。職人の技は代々弟子が一緒に仕事をして受け継がれていくものです。彼らはたいていの場合文字が読めません。そもそも、職人がそんな本を書いたってなんのメリットもありませんよ。」オリヴァは諭すように言った。「図面くらいはありますが、職人ごとに書き方のルールが違うので殿下が見ても良く分からないと思いますよ。」

 「・・・まじか。」アリスは呆れたような驚いたような顔をした。「そんなんだから、建築技術が衰退してるなんて書かれるのよ。」

 アリスはそう言ってさっきまで読んでいた建築関係の本を机の上から取り出してオリヴァに見せつけた。

 「まあ、現在はそれほど景気もよろしくございませんし、職人の質が落ちていくのは仕方のないことかと。」

 「現在も何も、旧王国の教会なんてOパーツ扱いじゃない。」

 「Oパーツ??」聞きなれない言葉にオリヴァの頭上にはてなマークが浮かんだ。

 「現在の技術じゃどうやっても作れない物の事よ。この本に書いてあったわ。」アリスは今度はさっきまで読んでいた本を手に取ってオリヴァに突きつけた。

 王になるのにいらない知識が増えてってるなぁ。

 「まあ、そういう事もございましょう。」オリヴァは言った。「大体、誰がそんな本を読みたがるというのですか?」

 「私が欲しいのよ!」

 わがままか!!

 オリヴァは絶句してから、問答無用で授業を開始した。


 


 そして時は経つ。

 春になり、アリスの塔の周りに無数の白い花が咲き誇った。


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