6-8 c さいきんの学園もの3
さて、アリスが王女だとばれた後の学校の様子だが、先生たちが居ないうえ、学校を崩壊させた原因であるリデルという生徒が王女であることが発覚したため、乱の極致にある・・・というわけではなかった。
暫定的ではあるがアピスが立て直したからだ。
彼女は、今まで、家の階級で分かれていた3つのクラスを再編纂した。
まず、アリスの勉強会に出ていたすでに自分たちで勉強ができる集団。彼らはすでに学校で教わる範囲はクリアし、むしろ逸脱していた。彼らは自主的に集まって彼ら自身で勉強会を行った。アリスの勉強会の踏襲のようだが、ここにはもう先生役は居なかった。大学のゼミや輪講に近い感じで、そして日本の大学ではめったに見られない熱意でこの勉強会は回った。彼ら自身が望むテーマでいくつか勉強会が立ち上がり、それらはもはや研究に近い内容であった。
彼らにはもう一つやることが与えられた。教師をすることだ。
勉強会のレベルまで到達していない者たちは3つのクラスに分けられ、勉強会の生徒を中心に上のクラスが下のクラスを教えるスタイルで授業が行われた。このクラスのメンバーは固定ではない。得意な科目は上のクラス、苦手な科目は下のクラスと教科ごとに流動的だ。本人の希望とアピスの判断でどのレベルのクラスで授業を受けるか決まる。勉強会に参加している生徒でも教科によっては下のクラスで授業を受けている者もいる。デヘアなどがそうだ。大半の教科はこのような感じでうまく回っていた。
ただ、礼儀作法や体育の授業はそうはいかなかった。これは実践が必要だからだ。前者はアピスとアンドリューが面倒を見た。女性側はアピス、男性側はアンドリュー。
問題は体育だ。アリスとジュリアスが適任の所だったが、アリスは謹慎、ジュリアスもほとんど学校には顔を出さない。
そんなわけで、体育はヘラクレスが受け持った。
あいつ何しとんねん。
なんか、アリスが謹慎になって暇だったヘラクレスが下見と称して学校をぶらついていたのを、アピスが発見してお願いしたらしい。
彼が教えるのは男女問わず剣技だ。女子は型のみだったが、女生徒たちにも好評だった。先生役の手が回らない時間帯に体育の授業を入れて調整してくれるので、ヘラクレスの果たしている役割は何気に大きかった。
全体的なカリキュラムは学校のものをそのまま受け継いでいるが進み方に計画性はなく、個々人が進みたいだけ進んだ。全員が一度に聴講するような授業は少ない。たまに、全体に対して授業やテストが行われ、そのテストで明確になった解らないところや、自分たちの学びたいところを上のクラスの人間が教えたり一緒に考えたりするスタイルだ。アリスの勉強会にかなり近い。各々の先生と生徒が各教科ごとに決められていて負担が偏らないようにされているのも勉強会を踏襲していた。
日本の学校だったら落ちこぼれが発生しそうなスタイルだが、この学校ではそんなことは無かった。義務教育ではないのが良いのかもしれない。大半の生徒が親元を離れて絶対に学ばなければならないわけでもない事に時間を割いているので、自主的にもなろうというものだ。
「シェリアさん、お疲れ様。」今日も学校が終わり、上のクラスの教師役をこなして教員室に帰ってきたシェリアにアピスがねぎらいの声をかけた。
「アピス様こそ、お疲れ様です。」
「私がもっとお勉強を手伝えれば、皆さんの負担を減らせますのに・・・。」先に教員室に戻って来てお茶をすすっていたキャロルが言った。
「いえ、キャロルさんが上のクラスに居てくださってとても助かっていますのよ。」アピスが言った。
一番上のクラスを教えられるほど勉強のできる生徒は少ないため負担が大きいのだ。その中でキャロルとスラファ、そしてエドワルドがクラスの中でお互いに教え合う風土を作ったり、時には自ら先生になったりして彼らのことを助けている。
シェリアとキャロル以外にもスラファやカルパニア、セリーヌ、そしてアリスにボコられた面々も教員室に集まっていた。久々に登校してくる客人を待っているのだ。
「やあ、久しぶり。」しばらくしてその客人が入ってきた。
ジュリアスだ。
「ジュリアス様!お元気でしたか。」カルパニアが真っ先に駆け寄ってきて言った。カルパニアは勉強はあまり成長せず、今も下のクラスと中のクラスを行ったり来たりだが、ジュリアスに対してどもらずに話すことができるようになった。これも勉強会の成果だ。
「やあ、カルパニア。元気そうでよかった。」ジュリアスはカルパニアが迎えに来てくれたことが嬉しかったのかに笑って応えた。彼はカルパニアの差し出した手に外套を預けた。「学校のほうはどうだい?」
「何とか回っていますわ。」カルパニアではなくアピスが答えた。「正直、教科書の手配が一番大変ですわね。ケンさんたちが手伝ってくれて何とかなっている感じですわね。」
アピスの言っているのは、数か月後に入学してくる新しい生徒たちの教科書についてだ。
授業を立て直しただけでもすごいのに、よくこんなところまで頭が回る。責任感の強いアピスだからこそだろう。彼女は既存の教科書を少し編纂した。それだけでも相当な労力だったが、それを複写するのがとんでもない苦労だった。
そんな時に発見したのが、アリスが突然来なくなったため学校に様子を見に忍び込んで来たタツだった。
アピスはタツに教科書の複写をお願いし、その話を伝え聞いたケンたちが快諾した。そうして、現在ケンたちが教科書を作成している。
「先生方がこういった準備もこなしていたかと思うと、今さらながら頭が下がりますわ。」
「ジュリアス殿下も授業を手伝ってくださると助かるのです。」キャロルが言った。
「すまないが、こちらにもやることがある。それに今さらここに入っても僕は教わるほうなんじゃないかな。」
「で、どうでしたの?」アピスが尋ねた。
「結構やばいね。」ジュリアスは少し苦々しい顔で答えた。「このままだと貴族の半数以上がアリスの弾劾を申し出ることになりかねない。復学どころか王位の継承権の取り消しもありうる。」
「ほんとにリデル様はアリス王女なのですか?」と、今さら尋ねるキャロル。
併せるようにしてほかの生徒たちもジュリアスのほうを求めるように見た。
「勘弁してくれよ。」ジュリアスは何をいまさらと苦笑を返した。
「ともかく、わたくしたちでも説得できるところは説得して行かないとダメですわね。」
「わたしも、お父様を説得いたします。商人たちのネットワークに顔が利きますので、ほかの子爵や男爵達には説明くらいはできると思います。」と、シェリアが真剣な顔で言った。
「ベルマリア系列の貴族たちは私が何とかする。」ジュリアスが言った。そして、ゲオルグ達に言った。「いいな?」
「・・・しかたがありません。」「ジュリアス様の命とあれば。」
しぶしぶといった感じでアンドリューとゲオルグが同意した。エドワルド達も黙って頷く。
「問題は私の父とその派閥ですわね。」アピスが言った。
「わたしたちは実家に帰れないんよー。」スラファが言った。「でも、うちの家は大丈夫だと思いますの。」
「うちも大丈夫ですわ。」キャロルも言った。
「スラファさんやキャロルさんたちには学校のほうをお願いしますわ。わたくしもリデルさんのために少し動きたいので、時々留守にいたしますの。その間ご負担をおかけするかと思いますのでよろしくお願いしますわ。リデルさんに、あの時の恩を返すチャンスですもの。」アピスは珍しく鼻息荒く言った。
「頑張ってみせますの!また、リデル様とお茶会ができるようにこの場所は死守ですわ。」キャロルもつられて鼻息荒く言った。
「そうそう、アピス君の依頼していた話は通ったよ。二日後に案内できる。」ジュリアスが思い出したようにアピスに告げた。
「これでほんとにリデルさんがアリス殿下かわかりますわね。」アピスが言った。
「いや、だから、王女なんだって。」ジュリアスが再び苦笑いした。
「頑張ってリデルちゃんが戻ってこれるようにしましょう。」シェリアがこぶしを上げ、セリーヌたちがそれに応えた。
「盛り上がってるとこと悪いけど、自分たちがやっていることが、王選に影響を及ぼしていることは自覚しておいてね。」ジュリアスが釘を刺した。
「・・・・」
「ジュリアス様は・・・その・・・よろしいんですの?」アピスが尋ねた。「あなただって王位継承権がございますのに。」
「まあ、今やおまけみたいな立場だしね。それにアリスはいろいろダメだけれど、アリスが王で無茶苦茶やって、その下で僕ら支えたほうが良いような気もするんだ。僕らじゃ、アリスのような考えは浮かばない。アリスなら世界を変えられるそんな気がするんだ。」ジュリアスは言った。「彼女の見つめている先が幸せな世界なら、それをサポートするのも悪くないと思う。王になったり公爵になったりは目的じゃない、それは手段なんだ。手段を手にしている『僕ら』はできることをうまくやらなくちゃいけない。」
ジュリアスの言っているのはノブレスオブリージュってやつだろうか?
「・・・・。」アピスは少し考えこむように黙ってから、なぜだか晴れやかに微笑んで言った。「そうね、あなたではあそこまでムチャクチャできないですわね。」
「そりゃできないよ!」ジュリアスは貴族らしくなく爆笑した。「それと、人ごとみたいに言ってるけど、君も『僕ら』の中には入っているんだよ。」
「あら、光栄ですわ。」
「みんなもだよ?」ジュリアスは周りを見渡した。「一緒にこの国を良くしていこうね。」
シェリアたちはお互いを確認し合うと嬉しそうに笑った。
いや、もう、ジュリアスが王で良いんじゃないかな。
ついでに報告。
『感染しますか →スキルを選択してください /N』
ジュリアス来たぁ!!




