6-8 b さいきんの学園もの3
夜半の城の洗濯場では、いつものように赤と黒のメイドがだらだらとしゃべりながら洗濯をしていた。
「くそ王女、身分隠して学校行ってたんだってさ。」と赤メイド。
「それで最近平和だったのか。グラディスも見なかったし。」と黒メイド。「ってかあいつに学校とか無理でしょ。」
「大問題になってるみたいよ。」
「いやねぇ。相変わらず迷惑なお姫様だこと。」黒メイドはそう言ってニタッと笑った。「で、どんな問題だって?」
「うれしそうじゃない。」
「私の迷惑じゃなきゃ良いのよ。他人の不幸は蜜の味。で、なんだって?」
「いろいろやらかしたみたいよ?」黒が食いついてきたので赤メイドが嬉しそうに語りだした。「面白そうな噂だけでも、まず、授業放棄でしょ、学校から脱走でしょ、暴力事件でしょ、街のごろつき連れて学校を占拠でしょ、みんなの食事に毒を入れたでしょ、あと、生徒の何人かを奴隷にしてたみたい。先生たちとかみんな逃げ出しちゃったみたいよ。ねえ、どれから聞きたい?」
結構盛られてんな。
「ちょ、ちょっと待って。さすがにこの短期間で多くない?」
「どうも、半年くらい前から学校には通ってて、ちょいちょい事件を起こしてたのを隠してたらしいのよ。ところが、この間、王女であることがばれちゃって、それで今までの事件に巻き込まれてたアミール派とジュリアス派の貴族たちが抗議し始めたみたいなの。」
「なる。」
「しかも、先生たちが逃げ出したせいで、今、学校は無法地帯になってるんですって。」
「それで、最近王都の官吏達がバタバタしてたのか。たぶんそれ結構でかい問題になってるわよ。」
「大体、王女のせいみたいよ。さすがに今は謹慎中みたい。」赤はそう言ってから目を輝かして黒に尋ねた。
「でも、あの王女、こないだ廊下で見たわよ?謹慎って何なのかしらね?」
「で、どの話から聞きたい?」
「そうね、そりゃ食事に毒を入れた話からね。」黒メイドが答えた。
「それは一番新しい話でね・・・・」赤メイドは嬉しそうに語りだした。
彼女たちは、しばらくの間はこの話題で毎夜盛り上がるのだろう。
偉い人会議には、また、オリヴァが招集されていた。
王は居ない。たぶんあえて呼ばれてない。
オリヴァの前で3人の公爵が悪だくみのごとく、アリスのことについて話し合っていた。
「学校が機能しなくなり、そして今度は食中毒。しかも、ついに王女であることがばれた。」ロッシフォールが頭を抱えた。「これでは、隠ぺいできない。」
隠ぺいって言うな。
「今回の食中毒に関しては、王女殿下は関係ないかと存じます。」オリヴァが言った。
「スラムの人間を連れ込んだというではないか。そいつらが原因に決まっている。」ミンドート公が怒りで声を震わせながら言った。「しかも学校にまで侵入させていたという話ではないか。娘も通っているのだぞ!そんな人間を近くに引き入れるとはどういうことだ!」
近くに居るどころか、めっちゃ、勉強教えてたよ。
「先生方が辞めたのも王女のせいだと聞きましたよ。」今度はモブートが言った。「先日の暴力事件の件でも、ベルマリア系の貴族たちから再び抗議が来ていますね。例の事件の他にも流血事件があったという話も出てきています。」
あれ以外に流血事件なんてあったっけ?
「・・・・。」ロッシフォールは無言でこめかみを抑えた。
「今回、王女であることをバラしてしまったのは貴公の所の兵士ですものねぇ。」モブート公は少しいやらしい感じで笑った。「さて王には何と報告したもか。」今回、自分は責任の外に居ると認識したのかモブート公の口はいつもより軽い。
「早めに報告をしなければ、学校に子供を通わせている貴族たちが王に何を上申するか・・・。本当にあの王女は!」ロッシフォールはそう声を荒げた。
「私が報告しよう。」ミンドート公が言った。
「いやっ、ちょっと待たれよ・・・・。」ロッシフォールが慌てた。
ミンドート公は学校に生徒を通わせていた貴族たちの中で、アリスに文句を言いたい人筆頭だ。
「心配しなくともよろしい。私が腹を立てているのは王女殿下だ。王にも少し腹は立てておるが・・・。どちらかというと公には同情すらしておる。」と、ミンドート公。声にはいら立ちが感じられる。「今回の騒動でよくわかった。王女殿下は駄目だ。王になるための教育などもはや必要ない。アミール殿下を王にしていただく。」
あ、あれ?
話がでかくなった!?
「しかし、アミール殿下はまだ幼い。確かに才能はあろうが、あの歳で国を背負わせるのは可哀そうだ。もう、5年は欲しい。そして王はそれほど持つまい。」ロッシフォールは言った。
「ならば貴公や私が支えればよいだけのことだ。」ミンドート公が言った。「王も貴公も王女殿下を中継ぎにしてアミール殿下をと考えているのかもしれないが、王女殿下を国王にしたら1年で国が傾くぞ。今回のことで分かっただろう。学校を半年で崩壊させたのだぞ?」
「・・・・。」ロッシフォールは反論しようと口を開いたが、良い返しが思いつかなかったようだ。
「先日、王はジュリアス殿下よりもアミール殿下を上位の後継者と認めた。現時点ではまだジュリアス殿下のほうが能力があるのやもしれぬが、それでもアミール殿下に任せても問題ないと王が判断なされたのだ。」ミンドート公は畳みかける。「王女殿下の継承権をはく奪しても問題ないであろう。あのトラブルメーカーはどこかに封印したほうが良い。隣国への嫁として使うのもよいかもしれない。」
「それこそ、戦争になるのでは?」モブートが口をはさんだ。
「「・・・・・・・・。」」
いや、二人ともなんか言えよ。
「ともかく、王女殿下の件は私が具申する。貴公らは心配召されるな。」ミンドート公はこれで終わりと言わんばかりの口調で言った。
珍しく主導権を握られたロッシフォールは不安げな顔をしたまま何も返事を返すことは無かった。
困った。
アリスの王位が大ピンチだ。
今回に関して言えば、どっちかっていうとアリス自身が招いた種だ。ミンドート公をとっちめてまでアリスを守るのは心情的にやりにくい。
そもそもミンドート公に何かする手段が全くない。
どうしたものだろうか。




