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6-8 a さいきんの学園もの3

 「アリス殿下ですって??嘘っ!!?」

 「え?え?王女殿下!!?」

 「どういたしましたの?」

 「いま、リデルさんといつも一緒にいらっしゃるおつきのかたがリデルさんのことをアリス殿下とお呼びに・・・」

 「言われて見れば似てるというか・・・いえ、そのまま・・・」

 「ノーラ様・・・今、あの兵士がお連れのかたをアリス殿下と・・・。まことにございますか?」

 生徒たちも従者たちもざわめき立った。さざ波のようにアリスが王女であることが伝わっていくのが分かった。

 一方で、シェリアとスラファはそれどころではない。

 「リデルちゃん。大変、キャロルンが!」

 「キャロルン!!」

 二人はそう叫ぶと即座にキャロルたちのうずくまっている焚火のほうへ駆け出した。

 王女バレとキャロルの突然の嘔吐という2つのイベントが同時にもたらされたアリスは一瞬パニクったようだったが、すぐにシェリアたちを追って走り出した。

 とりあえず、キャロルたちは問題ない。ロビンジュは効果が遅い。それに吐かせた。多少具合は悪くなるかもだが、消化器から吸収された後に倒すことにさせてもらう。胃酸の中で迎え撃つ必要はない。

 とりあえず今はこの場だ。

 犯人を・・・あれ?もういない。

 キャロルたちをどうこうしている間に逃げられてしまった。コッコ視点に飛んでみるが山の奥のほうにも誰かが居る様子はない。

 仕方ないので、この状況を眺めよう。

 キャロルたちは後で対処だし、アリスのことがばれちゃったもんはもうどうしようもない。

 もうこうなったら状況を楽しんでいくしかない。どうせこちとら傍観者だし。

 というわけで今度はウィンゼルに戻る。

 現場では自らのやらかしたことに全く気付いていないヘラクレスがしゃがみこんでアニエスの背中をさすっていた。ほかの二人は草むらに向かってしゃがみこんでいる。

 そこに、アリスや近くに居た従者たちが3人を介抱しに駆けつけてきた。

 「食中毒ですかね?」ヘラクレスが言った。「ウィンゼル卿がうろついてましたし、そのせいかも。」

 まさかのウィンゼル卿犯人説!

 事実無根!

 びっしょびしょの濡れ衣やめろし!!

 吐いた恥ずかしさで泣いていたアニエスがまだ少ししゃくりあげたままヘラクレスに同意した。「リデルさんのペットがお鍋にいたずらしようとしていましたわ!!」

 しまった、無根ではなかった。

 「駄目でしょ、レディ!」ヘラクレスがウィンゼルを叱った。

 いや、ヘラクレス、お前のほうがやらかしてるよ?今、焚火の周り、大騒ぎになってるからね?

 なんか、怒られている空気を察してしゅんとなるウィンゼル。

 いや、ウィンゼルのせいじゃないって。むしろ、君はみんなを助けようと頑張ってたって。

 「いえ、きっとリデルさんの連れてきたスラムの人たちのせいに違いありませんわ!」今度はサザが介抱に来ていたアピスに訴えた。

 「そうですわ。スラムの人間や小汚い動物を連れてきたリデルさんが悪いのですわ!」

 アニエスもここぞとばかりにアリスのことを指さして喚きたてた。

 アニエスもサザもヘラクレスがうっかり『アリス殿下』と呼称したことには気がついていないらしい。

 あたりの従者たちが、サザとアピスとアリスとヘラクレスを代わる代わる見て困った顔をした。彼らは気づいているらしい。

 「あの・・・アニエス様・・・」さすがにまずいと思ったのか、一人の従者がアニエスにさっきのことを報告した。

 「また、訳の分からないことを。」アニエスは従者の言葉を一蹴した。

 「彼女が王女ですって?そんなわけないでしょ。こんな野蛮で無作法な人間が。彼女が王女だったら、うちの洗濯係は王様ですわ。」そばで今の話を聞いていたサザがアリスを冷ややかに見ながら言った。

 「こんな、粗暴で下品な人間が王女なわけありますか。どこをどう見たら・・・あれ?・・・いえ、まさか・・・」向こうでキャロルの介抱をしているアリスの顔を見たアニエスの顔色がどんどんと青ざめていく。

 「アニエスさん、どうしましたの?え?まさか・・・。」アニエスの様子にただならぬ空気を感じて、サザも恐る恐るアリスを見た。

 ちょうどそこに、片付けや、指示を終えて一息つくことができたアピスがアニエスたちの様子を見に近寄ってきた。

 アニエスとサザが助けを求めるようにアピスを見た。

 「アニエスさん、サザさん。ケンさんたちはわたくしのゲストでもございます。悪く言うのはおやめくださいまし。」アピスの話題は一周遅れていた。

 「アピス様、今の話は本当ですの!?」アニエスがアピスに縋りつくように尋ねた。リデルがアリス王女だったりしたら、彼女にとって大変なことになる。

 「当然です!!」アピスがハッキリと答えた。しかし、いまだに話題が一周遅れていた。「彼らがスラムのかたであろうと、立派なアピス=ミンドートの客人ですわ。あなた方も出自ではなく中身を見なさい!」

 「いえ、そうではなく、」

 「あなた方がおなかを壊したことに責任が必要でしたら、このアピス=ミンドートが負います!」

 「いえ、だから・・・・」

 「まだ何かございますの?」

 「リデルさん・・・いえ、リデル様はアリス王女なのですか?」アニエスが尋ねた。

 「はあ?」

 「アピス様!アニエス様の従者がリデルさんがアリス殿下だと言ってますの。」サザが言った。

 「聖母子院の肖像画で見たアリス王女とそっくりですわ。」アニエスが震え声で言った。「あまりにもうり二つですのよ・・・。」

 「そんなわけないでしょう。もしかして頭がもうろうとしているのですか?」アピスが心配そうにアニエスの頭に手を添えて顔色をうかがった。

 そんな所に、キャロルたちを連れてアリスがやってきた。キャロルの顔色だけ少し悪いのは自分が彼女の中で活動したせいだろうか。

 近寄ってきたアリスに露骨にびくっとするアニエスとサザ。

 「キャロルさん、大丈夫ですの?」アピスがキャロルの顔色を見て心配そうに声をかけた。

 「大丈夫ですわ。ちょっとふらふらしますけど大丈夫ですのよ。ご迷惑おかけして申し訳ありませんわ。」

 「リデルンにやさしく看病されて鼻血吹いただけなんですよ。」スラファが苦笑いしながら言った。

 それも原因の一つだ。

 「あらあら。」

 そんなのんきなやり取りの横からアニエスとサザが畏怖のまなざしでアリスを見ている。

 普段とは違った感じでアニエスとサザに視線を向けられたアリスが嫌そうな顔をした。

 「どうしたのリデルちゃん?」シェリアがアリスがあまり見せない困ったような顔をしていたのに気づいて声をかけた。シェリアもなんだかんだでヘラクレスのうっかり発言には気づいてないみたいだ。

 「あなた方は、リデルさんがアリス王女だと知っていましたの?」アニエスがシェリアたちに尋ねた。

 「「「?」」」不思議そうな顔をするシェリアとキャロルとスラファ。みんなヘラクレスの言葉なんて聞いてないのな。

 「リデル様はアリス殿下ですの?」アニエスが問い直した。

 「リデルちゃんがですか?どうやって見たら王女様に見えます?」

 「リデルンが王女様だったら面白い世界になりそうなんねー。」

 「リデルさんは王女みたいなおとなしい肩書で収まりきる人間ではありませんの。」

 解った。

 みんな聞いてないんじゃない。リデルが王女であると理解できないんだ。

 「しかし、間違いなく、その兵士が『アリス殿下』と申しておりました。」アニエスに報告をした従者が自分は間違っていいないと食い下がった。

 「きっと言い間違えたのよ。」アリスがそう言ってヘラクレスを睨んだ。

 無理だろ。何とどう間違えりゃいいんだ?

 「す、すみません。」アリスに睨まれて、ヘラクレスがすごすごと謝る。

 「またですの?仕方ありませんわね。」アピスが大きくため息をつきながらヘラクレスのほうを仕方がないとでもいうように見た。

 ・・・って、待て。

 『また』ってことは前回の事件ときも、ちゃんと『アリス様』って聞こえてたん?

 そのうえで、リデルがアリスである可能性よりも、ヘラクレスがアピスと言おうとして噛んだ可能性のほうが高いと考えたの?

 「顔が似てるからって、リデル様をただの王女殿下とご一緒になさらないでくださいまし。王女など世話をしなくては枯れてしまう花壇の小さな花、リデル様は大地に根差して青空へと伸びあがる黄金色の大麦ですわ!」キャロルが勝ち誇ったように言った。

 賞賛と侮蔑を同時に受け取ったアリスは困った顔をした。

 「リデルさんが、王女なわけがないでしょう。あなた方はご自身の目で人間の中身を見て、きちんと判断するようになりなさい!」アピスが二人を叱った。何気に言ってることがひどい気がするんですが。

 「ですわよね!リデルさんが王女様なわけありませんわよね。」アニエスは一安堵したようだ。

 「そうですわよ。」アピスはやれやれといった感じでため息をついた。「こんな破天荒な王女が居てたまりますか。(一同笑い)」

 ええぇ・・・。

 なにかな。感応精神病による認識阻害でも起こってるのかな?

 アリスは八つ当たりで、元凶であるヘラクレスの膝を足の裏でゲシゲシと何度も蹴っている。

 騒ぎの元凶のヘラクレスは黙って蹴られながらアリスと目を合わさないようにしている。

 こうして、アリスが王女であるとばれた一件について、とりあえずこの場に関してはヘラクレスの言い間違いということで収まった。

 【嘔吐】した3人とも大丈夫そうだったので、一同は焚火のほうで待っている皆の元へと戻った。

 焚火の周りで待っていた皆が不安と好奇の入り混じった目で戻ってきたアリスたちのほうを見つめた。

 いや、アリスたちではなくアリスを見つめた。

 みんなが身じろぎすらできず息を殺してアリスが口を開くのを待っている中、ジュリアスが3人のそばに寄ってきた。

 「よかった。みんな元気そうだ。」彼は無事戻ってきた三人を見て言った。

 そして、続けてアリスに向けて言った。

 「ついに王女だってばれちゃったね。アリス。」

 アリスはガックリと膝から崩れ落ちた。


 残念でした。

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