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6-7 c さいきんの学園もの3

 キャロルたち3人はかけていってしまい、あろうことかトマヤの手先の兵士だけが一人残った。

 ほかには誰にもいない。

 いや。

 まだ、ウィンゼルと自分が残っている。

 男は何をする様子もなくたたずんでいたが、ウィンゼル卿に気が付いて「ちっちっちっ」と指を振って興味を惹こうとした。

 騙されんぞ。

 ウィンゼル卿!合わせて尻尾振るのやめい!

 ウィンゼル卿に興味を示してしばらくの間ちょっかいを出していた男だったが、ウィンゼル卿が懐いてこないと解かると、ちょっかいを出すのをやめて懐から例の袋を取り出した。

 そして、ゆっくりと周りを見渡すと、その中身を鍋の中に注ぎ込んだ。

 また毒か!!!

 男は袋を懐にしまうとまた何もなかったように鍋の前で見張っているふりをし始めた。

 いかーん。

 いかんいかんいかん。

 このままだとアリスが危ない。

 アリス以外のみんなにも被害が行きかねない。

 ウィンゼルで知らせなきゃ・・・いや、どうやって?

 そうだ!スープを台無しにしてしまえばいいんだ!!

 スープの鍋は木の棒で作った鉄棒のような形の骨組みに取っ手を通されて小さな焚火の上にぶら下がっていた。

 ウィンゼルを走らせて、鍋の底のほうをドロップキックさせる。

 ウィンゼルは火を恐れることもなく果敢に鍋の底を後ろ足で蹴り飛ばした。

 しかし、鍋は少し揺れただけだった。

 いや、これを繰り返して揺れを大きくしていけば、ひっくり返せるかも。

 ウィンゼルで鍋の底のほうをタイミングよくドロップキックする。何度も繰り返すうち、鍋の揺れは少しづつ大きくなっていったが、スープがこぼれる揺れにすら至らなかった。そして肉球が熱くてたまらん、限界だ。

 そうだ!!

 木の棒のほうを倒せば!

 今度は木の棒を蹴り飛ばした。が、びくともしない。

 深く差し過ぎじゃね?

 毒を入れた男はしゃがみこんでウィンゼルの動作をニコニコと面白そうに見ている。「どうしたのかなー?」

 お前の入れた毒を何とかしようとしてるんだよ。

 いや、待てよ?

 この落ち着きっぷり。もしかして入れたのって毒じゃないのか?

 例えば化学調味料とか。

 万が一、おいしくなさそうなものができあがりそうな時にはこの粉で・・・

 って、んなわけあるか!

 ぬあああああ、マジどうしよう・・・

 そうだっ!


 ウンコだ!

 ウンコをしよう!!


 ウンコをすればいいんだ!

 鍋にウンコをしよう!!

 やべえ、冴えてる!

 ウィンゼルを鍋の取っ手を通している横棒の上に走らす。

 ウィンゼルはふらふらしながら棒の上を鍋の上あたりまで移動した。そして、鍋に向かっておしりを突き出して踏ん張る。

 よし。

 プルプルプル・・・

 「こら、レディ。いたずらしちゃ、ダメでしょ。」ウィンゼルの意図的な粗相はすんでのところで戻ってきたキャロルに阻止された。

 「毛とか入ってない?」と言ってアニエスが鍋を覗き込んだ。

 「大丈夫みたいですわ。」サザが中を確認して答えを返した。そして、さらにスープをすくうと少し飲んだ。「味もいいみたいね。」


 あああああああああ!!!!


 「私も。」キャロルとアニエスも、サザに倣ってスープの味見をした。「いいですの!あとは仕上げのハーブだけですわね。」

 「では、ハーブを刻みましょうか。」アニエスが言った。

 やばいやばいやばい!

 慌ててキャロルの中に移動して細胞視点に切り替える。

 胃壁を通してキャロルの胃の中に大量の細菌を派遣する。急げ!即効性の毒だったらやばい。

 胃酸で死ぬほど痛いがそんなの関係ない。今は急いで毒を探すのだ。

 胃の蠕動運動(胃が胃酸と食べ物を混ぜる運動)に流されながら探索していると、異物はすぐに見つかった。キャロルがスープ以外を口にしていなかったのも幸いした。

 胃酸に溶かされながら、異物を攻撃にかかった。急いで駆逐&解析だ。

 異物は見た目が禍々しくて、以前アリスに盛られた毒と似ていた。幸い相手は強くないようだが、胃酸からのダメージがでかい。以前のアリス毒殺の時にわざわざ胃壁の内側(自分たちから見て内側)で迎撃したのも、胃酸で細菌があっという間に死んでしまうからだった。現に今回も、すでに胃に染み出した多くが死んでいる。相手との闘いというより胃酸との戦いだ。胃酸に流されながら、溶かされながら、くっついたり離れたりして相手と戦う。

 胃酸が次々と自分たちを壊していく。気合で耐え忍びながら、胃壁から援軍を送り出し対応する。

 毒をやっつけるのが先か、自分が溶け切るのが先か。

 はたまたキャロルが自分の活動のせいで気絶してしまうのが先か。

 攻撃がうまく行かない。

 ようやく相手に取り付いても、胃酸の流れではがされる、そうでなくてもすぐに溶かされてしまう。もう一度取り付けたとしても、さっきとは別の毒だったりする。このせいで特定の相手に集中して攻撃を仕掛けられないのがつらい。

 早く倒さないと、キャロルに何かあるかもしれない。それにスープをみんなが飲み始めてしまう。

 分が悪い!!・・・と思ったがそんなことは無かった。

 途中で気づいた。今回は前回よりも胃の中での自分たちの生存時間が全然長かったのだ。

 取っててよかった、【環境適性】!!

 そして、何とか一つの毒をやっつけることができた。


 『解析終了しました。 ロビンジュ』

 

 似てるも何も、あん時の毒じゃねーか。

 良かった。これなら遅効性だから、対応時間が取れる。毒が吸収され始めてから、やっつければいい。

 いや。

 良くない。

 これ小指の先くらいで象が死ぬんじゃなかったっけ??

 あいつ、結構入れてたよな?

 このままじゃ、大惨事じゃん!!

 「皆様。スープも出来上がりましたので、お食べになってくださいまし!」アニエスが大声を上げた。

 やばいやばいやばいやばい!

 早速ヘラクレスがこっちに向かってきた。

 こういう時、空気読まないのいつもお前だよな!ってか、ほかの従者、誰一人動いとらんぞ?

 「私のもお願いー。」アリスがスープを取りに向かうヘラクレスに気づいて呼びかけた。

 「了解ですー。」ヘラクレスが大声で返事を返す。

 いや、待て!ヘラクレス!それは毒入りだ!お前は感染してないから守りようがない。

 生徒たちも何人か立ち上がった。その中にはアピスも居た。アピスにも感染できていない。

 すぐになんとかしないと!

 すぐにだ!

 慌てて、何かできないかとコンソールを開き、感染者リストやら何やらをひっくり返すようにして何かできないか探す。

 「リデル様の分も合わせて二つお願いします。」ヘラクレスが到着してしまった。「んー、従者が一番乗りしちゃっていいんですかね。」

 そう思ったんなら来るんじゃねえ!

 あああわあわああわ。

 何か、何か、何か・・・あ!

 と、あまり確認をしていなかったスキル欄の中に、今まで薄い文字だった新たなスキルが取れるようになっていることに気が付いた。

 これだ!・・・・これしかないか。


 『スキルを取得しますか? スキルポイント1→0   Y/N』

 YES


 【嘔吐】の文字が赤くなった。

 【嘔吐】:『対象を嘔吐させることが“できる“。』


 ごめん、キャロル。あと、アニエスとサザ。

 キャロルとサザが大きな嗚咽とともに口を押え振り返ると、さっき飲んだスープを草むらに向けて戻した。その直後に、鍋からヘラクレスにスープを取り分けようとしていたアニエスが鍋の中に胃の中のものを吐き出した。

 よっしゃあああ!セーフ!!


 「アリス殿下!大変です!キャロル様たちが!!」キャロルたちに目の前で嘔吐されたヘラクレスが大声で叫んだ。


 あ。

 ああ!?

 こいつ、またやらかしやがった!

 「アリス殿下ですって!?」アリスの隣にいたセリーナたちがびっくりしてアリスを振り返った。

 うわぁ、しょっぱいバレ方だなあ・・・。


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