6-7 a さいきんの学園もの3
先生たちが来なくなって3日。
アリスは授業がなくても学校に通っていた。
別に来なくてもいいっちゃいいのだが、そもそも、アリスって授業目的で学校に来ていない。それこそ、学校通り抜けてスラム行っちゃうことも多いので、先生が来ようと来まいと関係がない。
だが、シェリアたち学校に寄宿している生徒たちはそう言うわけにはいかない。遠く故郷から出張ってきているのに何もできないのだから。
というわけで、そんな生徒たちのために昼間っからアリスたちは勉強会を開いていた。ただし、今回はこの状況下にあって、普段参加していなかった暇な生徒たちが参加し、ケンたちは欠席だ。
朝から濃密な勉強会を行って、みんなの集中力も切れてきたころアリスが言った。
「せっかく、学校休みだから、遊びに行きましょうよ。」
「休みってわけではないでしょ。」シェリアがアリスをたしなめた。
「でも、先生が来ないと休みも同じなんよ・・・。」スラファがほほに手を当てて、困ったように言った。
「ね。町の外に出てみない?」アリスが提案した。
おう・・・。
またトラブルの匂い。
ただでさえ現状トラブルなのに、トラブルをさらに重ねて行くスタイルほんとやめて欲しい。
「いや、それはさすがに・・・。」シェリアは躊躇した様子だ。
そうだともよ。
がんばれ。アリスを思いとどまらせるんだ。
「みんなでピクニックとか楽しいと思うのよ。それに、こんな機会じゃないと町の外を自由に見るなんてできないじゃない?」
「うーん?ドッジソン家ではあまり屋外には出られませんの?」キャロルが尋ねた。
「え、あ、出れないわけじゃないけど、ほら、王都の周りってどうなってるか知りたいじゃない?」アリスが予想していなかった質問を食らって戸惑う。
「王都の周り??なんか違いますの?たぶん普通に野原ではありません?東側は山ですし。」
「う、うん。そうだけど。ほら、みんなと一緒に行くのって今くらいしかチャンスないじゃん。みんなでピクニックみたいな?」
「それもそうですわね。皆さんで外でお茶会しましょ。」キャロルが乗った。
「それなら悪くはないかなあ。」とシェリア。
「でしたら、バーベキューなんていいかも。」スラファが提案した。
「いいですわね!」とキャロル。
「バーベキューってなんですか?」シェリアが興味ありげに尋ねた。
あ、駄目だ。完全に成立する流れだ、こりゃ。
と、盛り上がっているところにアピスがやってきた。
「何のお話ですの?」
「みんなで街の外にピクニックに行こうって話をしてたのですわ。」キャロルがアピスに説明した。
「街の外に出ますの?」アピスが言った。
「アピスンも行きません?」アリスが軽いノリでアピスを誘った。
アピスはさすがに反対するだろ。頼むぞ。
「街の外ですか。面白そうですわね。」
おおっと!?
「わたくし、実は貴族街やお屋敷以外はあまり出歩いたことがございませんのよ。いつも馬車から見ているだけでして。」アピスは言った。「ちょっと自分で見てみたいというのはありますわね。」
「でしょ!」アリスが全力で乗っかった。「アピスンも行きましょ、バーベキュー。」
「バーベキュー?」アピスが不思議そうな顔をした。「バーベキューって何ですの?」
「バーベキューってのは・・・バーベキューってなに?」アリスがキャロルに尋ねた。
シェリアも知らなかったのだからしょうがない。
「バーベキューっていうのは、ピクニックに行ってで焚火の料理をすることをいいますの。」キャロルが説明した。
「おいしいのですか?」アピスが尋ねた。
「おいしいというよりは、楽しいのですわ。焼くのは自分たちでやりますのよ。」
「何それ!面白そう!やりたい。」アリスが食いついた。
「自分たちで調理するのですか?」アピスは少し戸惑い顔だ。
「ニアやセリーヌさんたちも誘いましょ!」アリスは乗り気だ。
「ケンさんたちも呼びましょう。」と言ったのはキャロル。
というわけで、先生たちのいないのを良いことにバーベキュー大会の開催が決定した。
そして話は広がり、まずは勉強会の面子の参加が決定し、その流れで勉強会に参加しているいないにかかわらず、クラス中が参加することになった。なんだったら他のクラスの面々も暇だったのか結構な人数が参加予定だ。
なんでこんなことになったかというと、バーベキューをしたことのある地方出身の貴族たちが乗り気だったからだ。
ざっくり言うと、アピス派メインキャラのアニエスとサザが乗り気だったのだ。彼女たちはバーベキューには参加したいけれど、アリス派の中に入っていくのは嫌だったので、人数を増やしてアリス派を薄めたのだ。
まあ、バーベキューって楽しそうだもんね。自分はしたことないけど。
使用人や護衛を連れてくる生徒もいたため、最終的には総勢50人以上の大所帯になる予定だ。
さて話は少し変わる。
いきなり鶏の話になるが、いずれバーベキューの辺りの話に落ち着くので勘弁してほしい。
先日アリスが逃がした鶏だが、城の壁を飛び越えて山に帰っていった。
二匹ともに【感染】成功できている。対話が少なかったので感染できた個数も少なく、かなりギリギリの戦いだったが、なんとか彼らの中の白血球も倒すことができ、安定した状態になることには成功した。ただ、いまだ細胞数は1000にも満たず、他の個体への【感染】を開始するには心もとない。まずは、彼らの中の数を増やすことが先だ。
一応インプリンティング狙いで、アリスに助けられたことを彼らの中で毎朝繰り返し囁いている。鶏たちはゲオルグ達のように恐怖をアリスに感じている気配はあったが、恩義を感じているかどうかも解らない。鳥頭って言うし、そもそもアリスのことを憶えてすらいないかもしれない。ダメもとで彼らの頭の中にささやきかけているようなものだ。
雌鶏はアリスが強引に紐から足をすっぽぬいたせいで今でも少しびっこを引いているので、ヒッチ(hitch:びっこを引く)と名付けた。雄鶏のほうは特に思いつかなかったので見たまんまコッコと名付けた。
で、コッコと名付けた後に、コッコの目線からヒッチを眺めていて気が付いた。こいつら鶏じゃなくてキジなんじゃね?
彼らがキジかどうかはともかく、ヒッチとコッコからアリス野鳥軍を目指すのだ。
さて、このヒッチ&コッコだが、ちょうどバーベキューの当日、会場のすぐ脇の山間に居た。というか、彼らのテリトリーが会場に選ばれた。
会場を紹介してくれたのはのタツだ。川が近くにあり、町から遠くなく、程よく山の中だがそこだけ開けていて、運が良ければ獲物がとれるとのことで選ばれた。
ヒッチ&コッコ・・・獲物じゃん。
ちなみにカリア石はこのさらに山を登ったところの谷に転がっているらしい。
さて、バーベキュー開催日の今日も日課としてヒッチとコッコの中の細菌数を増やし、インプリンティングを行った。その後、彼らが狩られては大変と【操作】で危険を伝えて山を登らせた。
そして、誰もいないはずの山を登っている最中のことだった。
「何奴!!」と、ヒッチとコッコに声が飛んだ。
二羽とも慌てて走り出した。
「なんだ、鳥か。」
忍者ものでよくあるパターンだが、ほんとに鳥だからね。
声を上げたのは兵士だった。兵士のそばにもう一人男がおり、その後ろにはこんな山道の奥だというのに馬車が止まっていた。
ヒッチとコッコよ、このまま動いたら見つかるぞ?そこの茂みに身をひそめるんだ。
ヒッチとコッコは慌てて茂みに身を隠した。
何とか、兵士と男の話を聞くことができる距離だ。
「それでは、頼んだぞ。」もう一人の男、黒いロングコートに身を包んだ白髪の老人が何かを兵士に渡した。
あいつだ!!
ベルマリア公にいろいろ吹き込んでいたあの老人だ!たしか、トマヤ!
なんでこんなところに。
「はっ。お任せください。」兵士は頭を下げて老人が手渡した袋を受け取った。兵士の鎧にも何かの家紋が付いている。見覚えのあるような花だったが、一瞬しか見えなかった。確認しようにも向きが悪く良く見えない。先に馬車のほうを確認する。
!!
馬車には、鎧とは違って一瞬見ただけでもなんだか解る花が描かれていた。
“紫色“のバラの花。花弁の先が少し明るい。
バラはエラスティアの家紋だ。
そう言えばエラスティアの偉い人と思われるロッシフォールが同じ紫色の薔薇をあしらった物を時々身に着けている。ロッシフォールのはもう少し濃かった気もするが、鳥だとすこしだけ色味が違って見えるので同じ紫の薔薇なのだろう。エラスティアの偉い人にだけ許された家紋なのだろうか。
あいつ、ベルマリア公と話しておきながら、エラスティア側の人間だったのか!
あのジジイ、何かする気か?
結局、そのあとトマヤと馬車は帰っていき、兵士だけが残った。
来たタイミングが少し遅かった。
彼らが何を企み、兵士が何を受け取ったかは解らなかった。
コッコを飛ばして馬車を追おうともしたが、コッコが飛びたがらなかったので叶わなかった。コッコは見た目は鶏だし、飛ぶのは不得手なのかもしれない。
そして、兵士はコッコ達に遠くから見張られているとも知らず、森の中に潜伏するのだった。




