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6-5 c さいきんの学園もの3

 2羽の鳥に感染した流れはこんな感じだった。


 夏休みの間もアリスは何回かスラムに顔を出した。

 そのうちの一回目のことだった。

 学校には寄らなかったので、いつもの橋の入り口で馬車を降りたアリス達一向。いつものように橋を渡るかと思ったらアリスが橋のたもとに何かを発見し欄干を乗り越えて跳び降りて行ってしまった。

 あわてて、ウィンゼル卿からアリスに乗り移る。

 「グラディス、なんか居る!」

 アリスが見つけたのは、二匹の痩せた茶色い鶏だった。前世で知ってる鶏に比べてだいぶサイズが大きい。尾っぽも長めだ。一方はトサカがあるので雄鶏、もう一方は雌鶏のようだ。

 アリスはずかずかと鶏に近づいていったが、鶏は逃げ出さなかった。

 どうやら、打ち捨てられていた船をつなぐ用の綱の結び目に雌鶏の足がはまってしまっていて飛び立てないようだ。

 「ゲーン、ギャーギャー。」二匹の鳥がパニックになって騒ぎまわる。

 雄鶏のほうは雌鶏の周りを羽をばたつかせながらぐるぐると回っていたが、いよいよアリスが近づくと、さすがに走り去っていった。

 「お土産ゲット。」アリスが逃げられずに暴れまわる雌鶏の首根っこをつかんだ。そして綱の結び目にはまっていた足を引っこ抜いた。「グラディスー。これ食べれるのよね。」

 食べんのかい。

 「フェザンですね。」グラディスが橋の上からアリスに声をかけた。勉強会をこなしているとはいえ、いまだに自然科学的なところはアリスよりもグラディスのほうが詳しい。「おいしいですよ。」

 「じゃあタツたちにあげましょ。」と言って暴れまわる雌鶏の首根っこをつかんだまま立ち上がった。

 その瞬間、一度は離れていった雄鶏が草むらから飛び出てきてアリスに襲い掛かった。

 「よっと。」アリスは右手でひょいっと飛びかかってきた雄鶏の首根っこをつかんだ。「二匹目ゲット!」

 普通、鳥ってこうやって捕まえるもんじゃないよね?

 雄鶏は一瞬何が起こったか解らない様子で首だけを左右にピクッピクッと振っていたが、しばらくして状況を要約認識したのか暴れだした。

 「今から上がるわね。」とアリスは両手の鶏を持ち上げて土手の上に居るグラディスたちに得意そうに見せた。

 そして、グラディスたちの元へ戻ろうと歩き始めたアリスだったが、ものすごい勢いで暴れている雄鶏を見つめてふと止まった。

 もしかしたら静かにさせるために首をパキッとするんじゃないかと思ったが、アリスはそうはせず、雄鶏をじっと眺めた。

 雄鶏はただじたばたしているわけではなかった。アリスの左手を執拗に蹴ろうとしているようだった。左手には雌鶏が囚われている。

 「あなた、この子助けたいの?」アリスは雄鶏に向かって尋ねた。

 雄鶏はアリスの言葉など解らず、ひたすらに雌鶏をつかんでいるアリスの手を狙い続けた。

 「・・・・・。」

 アリスはしばらく沈黙して考えていたが、アリスも人の子だ。そっとしゃがむと、雌鶏をそっと離した。「いいわ、あなたの勇気に免じてこっちの子は解放してあげる。」

 両方離してあげて!!

 「あなた、よかったわね。」アリスが目の前で固まっている雌鶏に話しかけた。

 あ、ついでに【感染】狙っとくか。

 「あなたのお友達に感謝することね。」そう言ってアリスは雄鶏の首根っこはつかんだままで立ち上がった。雄鶏は雌鶏が解放されて満足したのか、それ以上の抵抗はしなかった。

 アリスは雌鶏だけを後ろに残して、すべてを諦めてゆらゆらと揺れるだけの雄鶏を右手にぶら下げて、土手の上まで上る階段へ向けて足を進めた。

 なんだか鶏に対しての魔王感がすごいぞ。アリス。

 しかし、ここで話は終わらなかった。

 今度は雌鶏がアリスの元へやってきた。

 攻撃を仕掛けてきたわけではない。

 雌鶏はダッシュでアリスを追い越すとアリスの前で振り向いて座り、アリスを見上げた。

 アリスは障害物をよけるかのように雌鶏をよけて進む。すると、アリスに通り過ぎられた雌鶏は慌てて立ち上がると再びアリスの前に座った。

 アリスは少しの間雌鶏を見下ろしてから、再び雌鶏を避けて先へ進んだ。

 が、雌鶏が追いすがり再びアリスの前に座る。

 そんなやり取りが三度繰り返され、ついにアリスが雌鶏の前にしゃがんだ。

 「あなた、助けてもらった命を無駄にするの?」

 アリスはそう言って雌鶏の首に手を伸ばした。

 「ゲーン!ゲーン!!」雄鶏が再び大声で叫び暴れ始めた。

 雌鶏のほうは身じろぎもせずアリスを見つめたまま、喉をつかまれるのを待った。

 「 。」アリスが声にならないため息をついた。

 アリスの手は雌鶏をつかむ寸前で止まり、雌鶏はその状態でも静止したままだった。

 「そういうの、止めてよね。これからチキンが食べづらくなっちゃうじゃない。」

 アリスはそう言うと、雄鶏をつかんだまま雌鶏の隣に持ってきた。

 「二度目は無いわよ。」

 アリスはそう言って雄鶏の首から手を離した。

 首から手が離れたと見るや否や雄鶏と雌鶏は矢のようにアリスからダッシュで逃げ去り、そのままの勢いでバサバサとあわただしく飛び去っていったのだった。

 この世界の鶏は跳べるんだな。

 うん、信用してないわけじゃなかったけどね、アリスが二匹とも首パキッとしなくって良かった。

 食べるとはそういう事なのよ・・・とか言いそうじゃん。離してあげるとは思ってたけど。

 もし、首パッキリされてたら、トラウマですよ。やらないとは信じてたけど。

 良かった。ほんとに良かった。

 このどさくさに紛れて、この二羽の空飛ぶ鶏に【感染】できたわけだ。

 そして、アリスのこの業はすぐにアリス自身に戻ってくることになる。




 さて、

 夏休みが終わり、問題ばかりの新学期が始まった。

 最初の問題は新学期の開幕早々に起こった。

 「アピス様。」アニエスとサザが、アピスが登校してくるなり駆けよってきた。


 「リデルさんが連れてきている男どもはスラムの人間でございます!」


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