6-4 a さいきんの学園もの3
さて、しばらくの月日が流れた。
この数か月ほどでアリスはすっかり学校に溶けこんだ。
溶け込んだというのは『問題を起こさなくなった』という意味だ。
学校に通い始めて半年近くが経った。
アリスが学校に慣れ、クラスがアリスに慣れてきた。先生もアリスの言動をいちいち気にしなくなった。
クラスには今だアリスのことを良く思わない生徒が居ることは確かだ。特にアニエスとサザだ。
彼女たちは何かをしてくることは無かった。ただ、アリスに聞こえないように陰口をたたき、そして陰口をたたいているところをアリスに見せつけた。
自分は気に障ったものだが、アリス自身はそういった事は城でさんざん慣れていたため例によって気にしなかった。
彼女たちはアピスを懐柔してアリスを忌避する対象にしようと目論んでいたようだったが、そのアピスがアリスと懇意になってしまったものだからどうしようもない。
そのアピスは毎回ではないもののアリスのお茶会に参加していた。セリーヌたちもだ。別にアリスもお菓子を目当てに彼女たちを誘っているわけではない。見返りも派閥も関係なくアピスやセリーヌたちを誘い、貴族としてのしがらみは一切関係なくお茶とお菓子を楽しんだのだった。
アリス自身は相変わらず授業では寝る、木曜は朝来てそのまま脱走する、放課後は先生を質問攻めだ。だが、大事件は起こさなかった。
勉強会については定期的に開催されている。アピスの都合の良い時に開催だったので2週間おきくらいだったが、すでに最初のも合わせて5回以上執り行われている。ジュリアスは都合が合わない時が多く、半分くらい欠席していた。その分の教師役はアピスが肩代わりした。というか、役者不足なアリスの分も教師役を買っているので、実質アピスが先生で、アリスやゲオルグがサポートといった形で勉強会は機能していた。勉強会に出ているほぼ全員を教えておきながら、彼女はケネスやオリヴァから学ぶこともしっかりこなしていた。なんだかんだですごい子だ。
この勉強会とは別の時間で、アピスはアピス派の面々の勉強も見ているというのだからさらにすごい。
おかげでケンたちも今やスラムの人間とは思えないほど教養や品格を身に着けた。
ジュリアスもスラムの人のこと達をばらすこともなく、他の人間たちは気づくこともなく、勉強会はこれ以上ないくらい順調に回った。教えてもらいに来ていた面々も、みな、学ぶ者に変わっていた。
エドワルドやキャロルも自分に実力がついてきたのが分かったのか積極的に参加するようになってきた。彼らは時にはスラム民たちに教えられるようにもなった。キャロルとエドワルドはときどき授業でも質問をするようになった。彼らの質問はアリスと違ってクラスにとってちょうどよかった。彼らは勉強会の中では少しだけ遅れているため、他の面々がきっちり解ったとは言えなそうなところや、解ったつもりのところに的確につまづき、その事を質問するので、クラスの面々にとってもよい質問となっていた。
オリヴァとケネスのサポートも大きかった。特にオリヴァはなんだかんだでその道のプロだ。アピスだけでは回らなかっただろうし、アピスが教えるのを楽しめたのも彼らのサポートがあったからだろう。オリヴァはアピスに教え方を教えたのだ。
ちょこっと自分語り。
数か月経ったのでさすがにレベルアップした。しかも二つ。
ついに【感染】可能数が256。
リストの感染数も100に近い。
ネズミやゴリ達をはじめとする動物たちの面々に加え、学校の先生、クラスの面々にはほぼ感染済みだ。
というか、クラスではアピスとジュリアスにだけ感染できていない。アルトといいグラディスといいヘラクレスといい、メインキャラには感染できんのか?。物欲センサー的なあれなのかな。
それはともかく、学校中の監視は完ぺきに近い。
あとはスキルポイントをどうするか。
【症状】は取るような方向には踏み出せない気がする。エドワルド達一向に使おうかと思ったこともあったが、こうなってみると本当にやらなくてよかったと思う。まあ、やるといっても任意で発動できそうなのは【痒み(足)】くらいだった。【痒み】といっても『対象の部位に痒みを発させことができる』としか書いてないので、発症させたあと収まるのか一生かゆいままなのかはわからない。
【症状】は取らないとして、その代わりに【感染】できる対象数が増えてきたことで、やりたいことがある。
アリス軍の設立だ。
実はここ最近、スラムに行く最中にアリスは襲われたことがあった。
スラムの連中にだ。
そりゃ、王女がスラムをほぼ護衛を連れずに闊歩しているんだから当然だ。
計画は念入りに練られていたようで、スラムに入る前、貴族街からの城壁の外へと出る抜け道を狙ったように襲われた。
スラム街はまだしも、その場所はヘラクレスもノーマークだ。
ってか、あいつほんとなんで先にスラム行っちゃうんだよ。護衛しろよ。
ヘラクレスのことはともかく、襲撃は何故だか空から降ってきた剣を拾ったアリスが10人以上いた襲撃者を全員ぶっ飛ばして終わった。
ちなみにこの事はアリスが語らなかったため、公になっていない。
一応、断っておくが、アリスは犯人を殺したりはしていない。アリスは空から落ちてきた剣を抜くことなく、鞘に納めたままでこん棒のごとく相手を制圧していった。
アリスは全員気絶させると、そのまんま彼らを放置してスラムに行ってしまったので、犯人たちは死んでないどころか逮捕すらされていない。
それどころか、時々スラムで犯人とすれ違うんですが・・・。
というわけで、役に立っていないヘラクレスに変わってアリスを守るため、【操作】によって動物たちの軍隊を作ろうと思い立った。今後、アミール派の貴族やミスタークイーンの仲間たちとやり合うことも出てくるかもしれないし、“力“は持っておきたい。
【操作】で直接軍隊を操れれば簡単なのだが、仕様上、一度に一匹しか操れないので直接操ることができない。
そこで、自分が考えているのはインプリンティングだ。
彼らの意識にアリスが動物たちのボスであることを植え付ける。そして、必要な時に【操作】でアリスを助けに向かわせる。これなら、ネズ子とクロのときのように大変な思いをしなくても、アリスの助けることができるはずだ。
アリスが寝ぼけているときに意思を植え付けたり、ゲオルグに夢を見せたりできているのだから、動物たちにアリスが主人であると植え付けることができるに違いない。
インプリンティングに【操作】のレベルが関係しているかわからないが、刷り込みみたいな現象ができるようになったのは【操作】レベルが上がってからのような気がするので【操作】は上げていくつもりだ。
ただし、今ではない。
どういう動物たちで軍隊を作るかを決めかねているのだ。
いま、手元にいる動物は、ウィンゼルとネオアトランティスとクロを除くと、ゴリとネズミだけなのだ。ちなみに蛾は天寿を全うした。
ゴリ達ではアリスを守るという概念を理解できる知能がないので無理だ。というか、無理じゃなかった時のほうがヤバい。
・・・いや、アリスは気にしないか?
って、アリスが気にしなくてもゴリに愛される姫などあってはならない。
同じ理由でネズミもだめだ。ネズミ姫なんていかん。
つまり、アリスにふさわしい動物を用意したい。
戦闘力もなくてはならない。
人間に害をなさない猫とか犬とかみたいな動物にしたい。狼とかで軍隊つくったらカッコいいんだけど、今のところ名より実だ。できれば町の中に見かける動物のほうがいいだろう。
どの動物に【感染】するかによって取るスキルが変わってくる。
例えば、猫に感染したくて【飛沫感染】のレベルを上げても、動物たちは話さないのであんまり感染できない。その証拠にクロからは一切感染が進んでいない。人間からの【飛沫感染】も飼い猫のような猫相手じゃないとうまくいかない。猫みたいな動物に感染を狙う場合、おそらく【血液感染】だけでなく【抵抗】のスキルの中にあった【環境適正】か【温度適正】か【耐久】を取って、蚊やノミなどを媒介にするのが正解だ。
蚊やノミの吸血により、わざわざ感染しなくても、血液の中に溶け込んで蚊の中に侵入することができる。ただし、蚊に吸われた瞬間から菌の数は減り始める。これは、ネオアトランティスの糞の中に紛れ込んだ時と同じだ。
自分はおそらく【環境適正】でこの現象は防げるんじゃないかとみている。
これならば、蚊に【感染】するわけではないので、たくさんの蚊に媒介者として働いてもらってもリストを圧迫することがない。感染対象が選べないのが難点だが、感染成功した段階でリストを確認して、猫でなければそのまま白血球に負ければいいのだ。
これは犬にしても同じだ。
ただし、犬にしろ猫にしろ問題がある。
飼い犬は見たことある。サミュエルも飼っていたし、この世界の飼い犬は珍しくはない。ただ、鎖につながれているので自由にアリスを助けに来ることはできない。
猫は悪くない。ただ、クロ以外に猫がどれだけいるのかが不明なのだ。飼い猫も見かけない。アリスも最初猫のこと知らなかったし。
見かけてないだけなのか、それともほんとに居ないのか現在リサーチ中だ。
猫がいなかった場合、何を味方につけたものか悩ましいところだ。
というわけで、今3つ残っているスキルポイントを使用する前に、何を味方につけるか方向性を決めなくてはならない。
一部、同じ人間に二回感染している記載があったので修正しました。21/02/11




