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6-2 c さいきんの学園もの3

 「本当に大丈夫なのですわよね?」アピスが心配そうに声をかけた。

 このお茶会中だけでも、これで何度目だろうか。アピスはアリスの腕の包帯が目につくたびに言ってくるものだから、アリスもちょっと困っている。

 「アピスン、しつこい。」アリスがもはや敬語や建前上の立場も忘れて言った。


 ここはアピスのお茶会だ。

 今回集まっているのは、カルパニアも含めたアリスグループとアピスだけだ。

 一応、2日ほど休んだアリスだったが、その間アピスはずいぶんと気をもんでいたようだ。休み時間のたびにシェリアたちにアリスの容体を尋ねてきていたし、城に押しかけてこようとミンドート公にお願いをしていたという噂だ。

 アリスが教室に入ってきた時に真っ先に跳んできたのも、シェリアでもキャロルでもなくアピスだった。

 そして、アリスが復帰すると早速、お礼のお茶会をしたいと申し出た。

 お茶会にはいろんな種類のミニケーキが広いテーブルの上に所狭しと並べられていた。どのケーキもすごいパティシエが作ったと素人目にも一目で判る造形をしてた。

 もちろん、アリスは目をキラッキラにして嬉しそうに「食べていいの?」と、アピスを見たのだった。

 ここまで目を輝かせて嬉しそうにするアリスはめったに見られない。前は、たしか・・・ああ、あの蟲のときか・・・。

 今回、アピスはウィンゼル用に木の実も用意してくれた。

 うわ、この木の実うめぇ!

 というわけで、アピスのそろえたケーキに一同は舌鼓をうつのだった。

 「あの、アピス様。あの噂はほんとうなのでしょうか?」自分の前のミニケーキを少しだけ食べたスラファが心配そうにアピスに声をかけた。アピスに話しかけるときはスラファでも堅苦しいしゃべり方になる。

 「噂?」自分の前のミニケーキたちを次々と食べていたアリスが顔を上げた。

 「窓に細工がされていたという噂ですわね。」アピスが言った。

 今までケーキを食べていたアリスがはっと顔を上げ、次のケーキを一口大に切っていた手を止める。

 「大方、どなたかが責任逃れで、そんなことを言ったのでしょう。わたくしには命を狙われる心当たりはございませんもの。」

 「ですが、アピス様は公爵家の娘ですし、王位継承権もありますでしょう。誰かが狙ってくる可能性もあるのではないでしょうか。」カルパニアが言った。「アピス様の身が危険ではないかと心配です。今はその話題で持ちきりですのよ。」

 「ばかばかしい。」そう言って、アピスは紅茶に口をつけた。「ジュリアス殿下でしたらまだしも、わたくしの命を狙って何になりますの。」

 完全に事故だと思ってなんもしてなかった。

 窓枠がアピスの上に落ちてきたのは偶然で、実際はアリスを狙った可能性だってある。というより、そのほうがありそうだ。情報収集しておくべきだったかな。

 アリスもそう感じているのかケーキを食べていた手が止まっている。

 「その・・・アピス様になくても、ミンドート公爵閣下にうらみのある方とか・・・」キャロルが恐れ多そうに自分の意見を言った。

 「まあ、その線はないとは言えませんが・・・。」アピスは少し考えるように眉をひそめた。「もし本当にそんなことでわたくしが狙われたのだとしたら、リデルさんを巻き込んでしまったことになってしまいますわ・・・。」

 アピスはアリスに向けて深々と礼をした。

 「いえ、そんなことあるわけないですわよ・・・。」アリスは気まずそうに目線をそらした。

 「皆さん、考えすぎですよ。学校の中でそんなことしてる人間がいたらすぐわかりますし、それにアピス様が出てくるのを見計らって窓を落とすなんてできませんもの。」シェリアがみんなを落ち着かせるように言った。

 「それもそうですわね。」

 うーん。シェリアの言うことには一理ある。

 もし、その場に狙って窓を落とした人間がいたとしたらアリスが気づかないはずがない。

 それにシェリアの言うように部外者が学校をほっつき歩いていたら自分やヘラクレスが気づくはずだ。部外者じゃなくても怪しい動きをしていればすぐ分かる。特に、あてもない感じでうろついているだけのヘラクレスとは違って、自分はマルチアングルで学校中を監視しているので怪しい奴がいたらすぐ気づくことができる。しかも、必ずしも人間で見張っているとは限らない。何か細工をしようとしている人間が自分から隠れ通すのは至難だろう。

 アリスのすぐ上に落ちてきたわけではないし、やっぱり事故の線のほうが可能性が高そうだ。

 「リデルさん?大丈夫でございますか?腕がお痛みになるのですか?」アリスがケーキを食べるのを止めているのに気が付いたアピスが心配そうな顔をした。

 「え?いえ。アピスンもあんまり気にしないでくださいまし。」アリスが思考の海から引き揚げられて、取り繕うように返答した。

 アリスは自分が狙われているのではと心配しているのだろうか。確かに不安ではある。

 「ああ、リデルさん。そうはいっても怪我までさせてしまったのですよ。わたくしにできることならなんでも致しますわ。」アピスって、生真面目通り越して重くね?

 「むしろこんな怪我くらいで、こんなにたくさんのケーキもらっちゃって逆に悪いですもの。」

 「こんな怪我くらいではありません。女性の体に傷なんて。このまま跡が残ってしまいましたら、わたくし、わたくし・・・。」

 「あ。」唐突にアリスが何かを思いついたような声を上げた。「じゃあ、アピスン。お勉強会に参加してくれない?」

 「勉強会?」

 「そう。クラスの学力を上げようと思うの。」アリスは言った。「そうすれば、もっと難しい授業をしてもらえるでしょ?」

 そう言って、アリスはニンマリとほほ笑んだ。


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