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6-1 a さいきんの学園もの3

 アピスとの一件があってから、4人はいろいろと吹っ切れた感じだ。

 このところしばらく言葉数の少なかったシェリアも元気になった。

 つられてアリスも前にもましてよく笑うようになった。

 アピスはあの後アリスたちに何かをしてくることはなかった。

 だが、アリスたちのお茶会の次の日、シェリア達3人を再びお茶会に誘った。

 シェリア達3人はドキドキしながら招集に応じたが、その場で何か嫌味を言われたりするようなことはなかった。

 ガッチガチに緊張しながら参加したシェリア達だったが、アピス達はただ談笑しながらカモミールティーを飲み、クリームパフというシュークリームのようなお菓子を堪能しただけだった。

 一度アニエスがアリスについての悪口に話題を持っていこうとしたが、アピスが「今日は穏やかな話題で飲みましょう。」と一言いうと、アニエスは驚いて黙り込み、周りも互いに様子を見ながらそれに従った。

 お茶会はつつがなく終わり、その後もアピスがアリスにちょっかいを出してくることは無かった。

 一方で、アピス以外のアピス派の女生徒たちがアリスに絡んでくるようになった。

 悪い意味ではない。興味津々で話しかけてくるようになったのだ。おそらく、アピスのお茶会でリデルがアリス派であるとスラファが言ったのが原因だろう。

 「ノーラと申します。リデルさんは本当にアリス様とお会いになったことがございますの?」

 「わたくし、セリーヌと申します。ぜひお見知りおきを。ミンドート派ですけれど、アリス様にもお見知りおきいただきたいのですわ。」

 「よろしかったらわたくしもアリス派の会合に及びくださいましな。わたくしはマライア。グラム伯爵の娘ですのよ。」

 王女本人に顔つなぎをお願いに来る彼女たちに、アリスは苦笑いしながら受け答えをするのだった。

 散々アリス派として力になる友達をなどと言っておきながら、いざこうやってアリス派に入りたいという目当てでやって来た彼女たちを目の当たりにすると、彼女たちのなんと薄っぺらく見えることか。


 アリスに話しかけてきた女子生徒の中にはカルパニアもいた。

 しかし、彼女の場合は他とは毛色が違った。

 カルパニアは赤毛で巻き毛の可愛らしい小さな女の子だ。アリスやシェリアより歳は上らしいが背丈は少し小さい。

 「リデルさん。折り入って少しお話がございますの。」カルパニアは授業終わりのアリスの前に立ちふさがって睨みつけた。

 そういや、この子、アリスのことめちゃくちゃ嫌ってたな。

 このクラスでアリスとシェリアよりも唯一背の低い小さな女の子は、下唇を噛んで小さく震えている。よほどの勇気を振り絞ってここにいるのだろう。

 「何でございましょう?」アリスは笑顔で答えた。

 「ここではちょっと・・・」と言ってカルパニアはアリス以外の3人に視線を送った

 「ジュリアス様の事ですの?」横で聞いていたキャロルが身を乗り出してきて訊ねた

 「なななななななななななんでっ!!!!???」カルパニアが顔を真っ赤にして慌てた。反応がちょっとかわいい。

 シェリア達は三人が顔を見合わせて「ねぇ?」と微笑んだ。

 「え、なになに。ジュリアスがどうしたの。」アリスがその場の空気無視で三人を交互に見た。

 「カルパニア様はジュリアス様のことが好きなのです。」シェリアがアリスに耳打ちした。

 アリスが驚いた顔で叫んだ。「ええっ!ジュリアス様のことが好・・・」

 「#@*っ¥w$%&4&x!」カルパニアは人間がここまで赤くなって健康上問題ないのかと心配になるくらいに真っ赤になってアリスの口を両手でふさいだ。

 あまりの騒がしさに何人かが何事かとアリスたちのほうを向いた。

 「リデルちゃん、ここじゃ何だから、向こうで話しましょ。」カルパニアの顔色が大変なことになってきたのでシェリアが慌てて助け舟を出した。

 人間の顔って赤くなりすぎると青くなるんだなあ。

 チアノーゼの時の呼吸窮迫のような荒い息づかいでふーっふーっとしているカルパニアを引き連れ・・・あれ?これほんとにチアノーゼなんじゃね??大丈夫か!?

 いや、ともかく、呼吸のままならないカルパニアを引き連れて人の通らない階段脇のスペースに来ると、スラファとシェリアがカルパニアを落ち着かせる。

 「大丈夫?カルパニア様?」

 「へ、平気よ!」幾分か顔色が人間味を帯びてきたカルパニアがスラファに背中をさすられながら強がった。強がりながらも握っているシェリアの手を放す様子はない。

 何だろう、この娘、アリスに比べると見た目はそんな可愛いわけではないのに、なんかめっちゃ可愛い。“萌え“ってやつなのだろうか?

 「で、私に何の用ですの?」アリスが尋ねた。

 「ジュ、ジュリアス様とはどういったご関係ですの。」カルパニアが恥ずかしそうに顔を赤らめ、もじもじと尋ねた。

 「ジュリアス?いと、いえ、・・・あるのかしら??」いとこって言おうとしただろ。

 「いま、呼び捨てにした!!」カルパニアの顔が今度は怒りでより一層赤くなる。

 「え、あ、ごめんなさい。ついうっかり。」

 「つい、うっかり!?」カルパニアが歯を食いしばりながらうつむいて涙目になる。「やっぱ、つきあってるんだ・・・・。」

 「突き合う???ああ、あれ以来やってませんわよ?」

 「ヤッた!?」カルパニアの顔が最高潮に赤くなり、そして一気に青くなっ、いかん、これは人の顔がなっちゃダメな色だ。

 「カルパニア様落ち着いて。」シェリアが割り込んできて魂抜けかけのカルパニアの体をゆすった。「リデルちゃんはべつにジュリアス様とつきあったりしてませんから!!」

 「何言ってるのよ。シェリアも見てたじゃない。」

 「見てた?」カルパニアが驚愕の声を上げてシェリアの顔をまじまじと見た。「見てた!?」

 「違っ、そうじゃなくて。」シェリアが慌てる。

 「あああああなたたち、そそんんな、た、た、ただれた関係なの!?」

 「ただれた関係?・・・あ!そういえば、関係って意味じゃ、一応ジュリアス様は私の下僕ってことになるのかしら?」

 アリス、もうしゃべるなし。

 「はがががxxxx。」ああ、カルパニアがバグった。

 「どうどう、カルパニア様、落ち着いて。」スラファが出てきた。ここぞというときに頼りになる。「別にリデルンはジュリアス様とおつき合いしてたりはしていないのー。だから心配しないで。」

 「でも、今つきあってるって・・・」

 「突き合ったけど、お付き合いなんてしてませんわよ!」ようやく合点の言ったアリスが笑いながら言った。

 『つきあう』と言う言葉を聞いて真っ先に決闘で剣を『突き合う』ことを思い出す女子が存在しても良いものだろうか。

 「???」カルパニアが何を言っているかわからない様子で混乱している。「よくわからないけど、ジュリアス様とは何も無いの?」

 「そうです。」

 「では、決闘での勝利を盾に、ジュリアス様を手籠めにしたといううわさは?」

 「な!?そんなことするわけないじゃない!」アリスが即座に否定した。さすがに恥ずかしかったのか珍しく顔が真っ赤だ。

 「でも、リデルさんがジュリアス様を侍らせて好き放題しているって噂が・・・。」とカルパニアがぼそぼそと言った。「ジュリアス様は完全にリデルさんの奴隷だって・・・。」

 こっそりとこの場を逃げ去ろうとしたキャロルの襟首をスラファが捕まえた。「キャロルン?」

 「いえ、ね、リデル様はジュリアス様よりもすごいってことが言いたかっただけですのよ。」

 噂の発生元こいつかよ。

 こいつ、ここんとこロクでもないな。

 「キャロルン・・・・」さすがのアリスも不服そうにキャロルを見つめる。

 「それなら良いのです。」カルパニアはようやく冷静になって言った。「ねえ、このことはみんなには絶対内緒よ?その、私がその、ジュリアス様のこと・・・・ね。」

 「当然よ。」リデルが即座に返事をする。「絶対に皆には言いませんわ。」

 シェリアたちは互いに目配せを交わしてから、まじめな顔を取り繕って頷いた。

 まあ、今、アリスにばれたことで、クラスのすべての女子がその思いを知るところになったわけだが。

 アリスが心底まじめに頷いたので、カルパニアは安堵のため息をもらした。

 「カルパニア様はジュリアス様とご結婚なさりたいのですか?」シェリアがど直球にカルパニアへ質問を投げた。

 「とととととととんでもないですのよ。」カルパニアの顔が一気に赤くなった。そして、一気に普通の顔色に戻ると、うつむいて言った。「私のような弱小の伯爵家程度の人間がジュリアス様の奥方様になど・・・。」

 「あきらめてはいけませんわ。」アリスが励ます。「うちの母、じゃなかった、伯母上も子爵でしたけれど王様と結婚いたしましたのよ。」

 「ありがと。そうでしたわね。」カルパニアは礼を言いながらアリスを絶望的な目でちらりと見た。完全に参考にしていない。アリスの両親の結婚はそれほどイレギュラーなことのようだ。

 「その、ジュリアス様くらいのかたでしたら、側室を何人もお作りになられると思いますわ。正室がだめでも、側室でしたらチャンスはあると思いますの。」キャロルが言った。キャロル目線でも正室はそもそも閉ざされた道のようだ。

 「器量もあまりよくありませんから、きっと側室にもなれませんわ・・・。」そう言ってカルパニアはアリスにうらやまし気な視線を投げた。

 「そんなことありませんわ。カルパニア様はとても素敵です。わたくし応援いたします!」いつになく積極的なシェリアがカルパニアの手を握った。

 「わたくしたちも応援いたしますわ。」キャロルが調子を合わせた。アリスとスラファも頷いた。

 「シェリア、皆さん・・・。」

 「そうね・・・。」アリスが少し考えてから言った。「とりあえずジュリアス様にカルパニア様のことをどう思っているか聞きに行きましょう。」

 「ななな!?」アリスの突然の提案にカルパニアが慌てる。

 「リデルちゃん。さっき、誰にも言わないって約束したでしょ!」シェリアが両手でアリスの頭をつかんで自分のほうに向けて言った。

 「え、ジュリアスなら当事者だし良いじゃん?」

 「そこが一番良くないの!」シェリアがアリスを叱る。

 「でも、ほら、この間の決闘で下僕にしたから、側室くらい何とかできるかも・・・」

 「そ!」カルパニアが目をまんまるにして謎の声を上げた。

 「・・・・リデルちゃん怒るよ?」シェリアがアリスを冷たい目でにらみつけながら言った。「そういうのとても良くないと思うの。」

 思うよ。ダメな子でごめん。

 「そ、・・・・・そうですわ。そういうの良くないと思う・・・。」カルパニアが小さな声で言った。なんだか、とても残念そうだ。

 「・・・・・・・。」シェリアがカルパニアを冷ややかに眺めた。

 「そ、その、じゃあ、一つ聞いていい?リデル、あなた、ジュリアス様に許嫁がいらっしゃるか知らない?」カルパニアが仕切り直しをするかのように尋ねた。

 「さあ、聞いたことないわね?」

 「年齢的にもそろそろ決まっていてもおかしくないのよ。アリス殿下とか違うかしら?」

 「!?」思わず驚くアリス。「え?ちがっ!」

 「この間、アリス殿下の名前を呼び捨てで口にしているの聞いちゃったのよ。」

 「従兄妹同士なんだから、当然なんじゃない?」アリスは慌てて答えた。まだ、少しドキドキしているようだ。「そんな話いっさいないわよ!?ないわよね?」

 と、周りに同意を求めるが、みんなこちらに聞かれても困ると首を振った。

 ってか、あなた当人でしょ?

 「リデルンが知らないなら分かるわけないんよ。」

 「そ、そそそ、そうよね。」

 動揺しすぎだ。

 「そう、ならいいわ。」カルパニアは素直には満足している様子ではなかったが、そう返事をした。

 「よし、ジュリアスに聞きに行きましょう。」アリスが立ち上がった。

 「ちょ、リデルちゃん!」シェリアが声を上げたが、アリスが即座に制止する。

 「許嫁のことよ。それならいいでしょ?」

 そう言ってアリスは教室へと歩き始めた。

 カルパニアと三人は戸惑いながら、アリスの後を追いかけるのだった。

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