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5-5 b さいきんの学園もの2

 さて、場面転換。そして役者出捌。

 昼休みを終えた午後の授業中、自分はウィンゼルの中で考えごとをしていた。

 ちなみにウィンゼル卿は教室の外に出て蝶々を追っかけている最中だ。

 アリスの友達探しをどうしたものだろうか。友達というより王女派を拡張するといったほうが正しい。今後アリスの助けになってくれるような人間と仲良くなるように持って行きたい。それに、王女派がアピス派くらい大きくなれば、シェリアたちもアピスに気を使わなくて済むようになるかもしれない。

 実のところ、ウィンゼルやノロイ他の情報網で候補の人選はすでに済ませてある。

 クラス25人の中からアリス本人、アピス、ジュリアスを除くと22人。学校全体としては、他に20人前後のクラスが3つある。

 ひとつのクラスは最初にアリスが通ったクラスだ。そのクラスではリデルは人気があったが、残念ながらこの中には有力な貴族はいなかった。

 いろいろ観察してきた結果、アピスとジュリアスを除く有力貴族を上から順に挙げていくと、以下のような感じだ。


 候補1。 ゲオルグ

 有力侯爵家の長男だ。

 アリスに恐怖を抱いている。


 候補2。 アンドリュー

 侯爵家の息子。地位もそこそこらしい。他に兄弟が居るとかは不明。

 アリスに恐怖を抱いている。


 候補3。 クリスティン

 伯爵だが中央に近い伯爵で発言力もある家柄。

 アリスに恐怖を抱いている。


 アカン。

 アリスよ。なんてことをしてくれたのか。

 トップスリーを懐柔できる気がしない。

 てか、トップスリーってみんなジュリアス傘下だったのか。それで彼らはあんなにでかい顔をしてたわけね。



 候補4 アニエス

 侯爵家の娘。田舎のほうの出だが、侯爵家なので、家の力で言えばクリスティンにも負けない。アピス派の二番手。いつも大体アピスにくっついてやってくるのはこの娘だ。

 アピスに引っ張られてアリスのことを毛嫌いしている。

 

 この子も無理かなぁ・・・。突破口があれば・・・。

 ちなみに、良くアピスの後ろを飾っている2人のうち残りの一人サザは地方の伯爵家の出だ。



 候補5 デヘア

 頭よさそうな地味子。この子はアリスと同じクラスじゃない。ベルマリア近郊のこの国3番目の大きな街を治める伯爵の子のようだ。頭もよい。

 本人がパワーゲームに関わりたくないので下のクラスに留まっている。そう言ったことが許される辺り、アリス派に引き入れても実家からの抑止は働かない。ひとりでいるから話しかけやすいのも◎だ。


 まずはこの子が一番ねらい目かな。



 候補6 クラウス

 物静かな男子。伯爵家の子。有力伯爵という訳ではないがいわゆる普通の伯爵家。だが長男。どこの派閥にも属していない。ただし、実家の派閥としてはエラスティア派。

 ちょっとガタイが良くて強そうなので、物理的な味方としていて欲しい。ヘラクレスは頼りにならん。


 実は彼、アリスにホの字だ。だけどいつまでも話しかけてきそうにないタイプのやつ。こいつを派閥に組み込めればアリスが結婚するまでは裏切ることはない、だろう。



 候補7 アルベルト

 力のある伯爵家の息子だが、末っ子。

 アリスに恐怖を抱いている。


 候補8と9 オクタヴィアとオーガスタ

 女性にしては珍しくジュリアス派の姉妹。ジュリアスの従姉妹だかはとこだからしい。家柄的には普通の伯爵家だが、ジュリアスとのコネがある分強い。

 女性ということもあってか、アピスやその派閥下とも仲が良く、派閥を超えてアリスとも仲良くしてくれる可能性がある。



 候補10 カルパニア

 アピス派の伯爵令嬢。家に世継ぎが彼女しかおらず女性にして跡取り。婿養子を探してこいと言われているらしい。が、ジュリアスのことを熱視線で見ているのをアリスを除く女子全員が知っている。

 アリスに対してなんか嫌な視線を送ってくる。おそらくジュリアスとの決闘の件があったせいだろう。



 ほかにも伯爵家はいるが、まずはこのあたりからか。

 レベルアップで感染できる対象は増えた。

 しかし、直接何かするにしろ、ウィンゼルを使って何かするにしろ、一度に一人にしか干渉できないっぽいので攻略対象は絞ったほうがよいだろう。

 にしても、有力貴族のほとんどがジュリアス派でアリスに恐怖を抱いているときたもんだ。

 ちなみに、ちょっと前にゲオルグに夢枕作戦を仕掛けたことがあったりする。

 夢枕作戦とは名探偵ヘラクレスの事件簿の時に、アリスの起き抜けにやったつぶやき作戦のことだ。対象本人の意識が明瞭でなければ、動物たちにやるようにこちらの思っていることを人間の思考にも植えつけることが可能だ。

 ゲオルグの起き抜けというかレム睡眠気味の時に呟いてみた。「リデルは素晴らしいよー、可愛いよー、いい子だよー。仲間になっておいて損は無いよー。」

 「ん、ん・・・」ゲオルグが喉を鳴らしながら寝返りをうった。

 ここぞとばかりに念仏のようにゲオルグの頭の中でリデルのことをほめちぎった。すると、ゲオルグの体温が徐々に上がっていき、睡眠中である彼の脳に何か信号が流れているのが感じられた。

 さすがに夢までは共有できないので彼がリデルの夢を見ているのかどうかは解らない。

 しかし、自分がリデルと言うたびに脳への信号が強くなり、時には体が少し反応を起こした。リデルの夢を見ていることは間違いなさそうだった。

 これは、うまくいくかもと思ったとたん、ゲオルグが耳をつんざくような大きな悲鳴を上げて目を覚ました。身体から一気に汗が吹き出し、さっきまで寝ていたにも関わらず荒々しく肩で息をする。心臓がはちきれんばかりの強さで早鐘のように動き始めた。

 彼はしばらくハァハァと声を上げていたが、やがてしくしくと泣き出した。

 それ以来、彼らに夢枕作戦をしかけるのはやめることにした。

 どんだけの恐怖を植え付けてんだよ・・・。

 これではジュリアスの取り巻きの4人とアリスを仲良くさせるのは絶望的だ。

 彼らに限って言うと、友達とか派閥というより、恐怖で支配して下僕とかにしたほうが早い気がする。




 というわけで、まずはデヘアだ。

 アニエスは突破口がないので、デヘアの攻略から狙うことにした。

 彼女が一番組みしやすそうだったからだ。

 一人で本を読んでいる少女→現れるウィンゼル→仲良くなるウィンゼルとデヘア→ウィンゼルを探しに来るアリス→出会う二人→あなたも本好きなの?

 よし、完璧なセッティングだ。

 彼女は昼休み、晴れていれば教室から出て庭の気のふもとでぼんやりと本を読む。本と言っても植物の図鑑だ。写真がない世界なので図鑑と言っても手書きで、その絵はあまりうまいわけではなく、精工とも言い難かった。だが、図鑑が好きというのは本の虫のアリスと気が合いそうだ。

 木にとまらせておいた蛾でデヘアがいつものところにやって来たのを確認した後、ウィンゼルに移動、わざとらしくウィンゼルをアリスたちの周りを一回りさせて、庭に向かう事をアピールする。

 「いってらっしゃい、レディ。」と手を振るアリスたち。

 とりあえずアリスに、ウィンゼルが教室を出て行ったところまで認識させた。まずは上々。

 デヘアのほうもいつものように、サンドイッチを頬張りながら木漏れ日の下で図鑑を読んでいた。

 ウィンゼル卿を彼女の目の前の芝生に座らせ、図鑑を読みふけるデヘアを見つめさせる。

 デヘアは気づかない様子で本を読みふける。

 ・・・・

 すごい集中力だな。ウィンゼル卿に全く気付いた様子がない。

 気づかせようと、ウィンゼル卿をせわしなく回らせたり踊らせたりしてみた。

 あ、今ページをめくったタイミングで絶対目が合った。

 そして、デヘアは本に再び没頭し始めた。

 無視かい。

 ウィンゼル卿の愛くるしさを無視するとな。

 ウィンゼル卿よ。おまえの可愛らしさをコケにされたままで良いものだろうか?

 ウィンゼル卿も今までの人間には自分の可愛さが通用していたという自負があったのか、内心とても燃え上がっているご様子だ。

 ウィンゼル卿は上目遣いに、デヘアに近づいて行くと彼女の膝先をツンツンと鼻でつついてから太ももの上に乗っかりデヘアを見上げた。

 デヘアが初めて本から目線を外してウィンゼルに目を合わせた。

 ウィンゼルはチャンスととみると、今度は太ももにすりすりと頬をこすりつけて、プロの愛玩動物の眼差しでデヘアを再び見上げた。

 デヘアがウィンゼル卿をなでようと彼女の頭に手をのばした・・・と思いきや、その手は頭を通り過ぎウィンゼル卿の首根っこを捕まえた。

 彼女はそっとウィンゼル卿をつまみ上げると、

 「邪魔。」

 投げたぁああああぁぁぁぁぁーーー!!

 大誤算だ。ウィンゼル卿が無効だ。

 この子、鉄のボッチっぽい。




 次はクラウスだ。

 彼は放課後、良く学校の裏の空き地で剣を振っている。

 一人で剣を振っている少年→現れるウィンゼル→仲良くなるウィンゼルとクラウス→ウィンゼルを探しに来るアリス→出会う二人→あなたも剣術好きなの?

 これだ。

 剣術が好きというのは武闘派のアリスと話が合いそうだ。

 しかも、この空き地、スラムへの抜け道の近くでアリスにはなじみが深い。

 ちょうど近くを散歩中だったクロから彼が今日も剣を振っているのを確認、早速ウィンゼルを向かわせた。

 「いってらっしゃい。レディ。」アリスたちは手を振って、ウィンゼルを見送った。

 ウィンゼル卿は素振りをしているクラウスの脇に立ち止まると、後ろ立ちになってクラウスを見つめた。

 クラウスがウィンゼルに気づいた。ウィンゼル卿は彼と目が合うと狙ったように鼻をヒクヒクとさせる。アピールは控えめだ。クラウス相手にはあまりあざとくいかないほうが良いとプロの愛玩動物としての経験から判断したのだろう。

 クラウスはウィンゼルに気づくと、少し離れて再び剣を振り出した。

 くそぅ。またこのパターンか。

 いや、でも、今回はウィンゼルに気を使って少し距離を取ってくれた。押せばいけるぞ、レディーウィンゼル。

 お前のその愛らしさの真髄を見せてくれ!

 ウィンゼル卿は再びクラウスに近づくと、後ろ足で立って素振りをする姿を見つめた。

 再び距離を取るクラウス。

 近づくウィンゼル。

 再び距離を取るクラウス。

 近づくウィンゼル。

 慌てて距離を取るクラウス。

 近づくウィンゼル。

 逃げるように距離を取るクラウス。

 ・・・なんかおかしくないか?

 こいつ、もしかして、ウィンゼルが怖いのか!?

 ウィンゼル卿、GO!

 ダッシュでウィンゼル卿をクラウスに向かわせた。

 「ぎゃああ」彼は悲鳴を上げて逃げだした。

 こいつダメだ。強そうと思ったから囲い込みたかったのに・・・。

 二連発で拒否られて、プライドをずたずたに傷つけられたウィンゼル卿が両手両足を地面についてうなだれていた。

 ウィンゼル卿・・・なんか、すまん。

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