外伝 3
自走砲の要求仕様と共に、兵員輸送車に関しても73式装甲車で行われたように20ミリ機関砲や遠隔操作式機関銃を仕様に含めている。どちらが採用されても構いはしない。
要求仕様をまとめていて気が付いたが、必要となるエンジン出力が500馬力は必要になるが、この時点で車体規格に合ったモノが存在しない。
この少し後の時代、歩兵戦闘車全盛期には550~600馬力エンジンが主流になっているのだが、日本の技術では、現状450馬力が良い所だ。少々足らない。
ただ、これを大幅に引き上げる方法が一つある。これまで堅持してきた空冷エンジンから液冷エンジンへの転換だ。
日本では空冷エンジンが称賛される向きがあるが、世界的には全くそんなことは無い。多くの国で戦闘車両に搭載されるエンジンには液令が採用されている。
戦前の日本で空冷が奨励されたのは、満州での運用を考慮してだった。水資源に乏しい荒涼とした大地では冷却水の確保に事欠きかねず、なおかつ、極寒の地では不凍液が無ければラジエータやエンジンを冷却水の凍結で破損するという事態にもなりかねない。
だが、戦後日本では事情が異なる。今更空冷に拘る必要は少なくは無いだろうか?
しかもこの世界、史実世界以上に技術の前倒しが行われており、戦闘車両を液令ディーゼルとする土台は既に整っている。
90式戦車の試作エンジンから15年近くはやく液令へ転換する事に何の不安も不備もない。
「現状、空冷6気筒ディーゼルでは450馬力程度の性能しか引き出せませんが、液令化すれば70~100馬力ほど簡単に向上可能との試算が出ました」
いく度目かの会議の席上でその様にぶち上げてみた。
空冷こそ至上と言いたげな面々を前にである。
「空冷エンジンの特性上、出力向上には限界があります。液令化によってその幅を広げることが可能な事は自明。さらに、満州を失った現在の日本には空冷でなければならない理由もありません。何となれば61式にも多少小型化した液冷エンジンを搭載し、出力を120馬力ほど向上させられるでしょう」
空冷エンジンを提唱した当人による液冷転換。異論をはさむ余地はどうやらないらしい。
すんなり液令化の方針が決まり、液令V型6気筒エンジンの試作が始まる。変速機は米国から技術導入したオートマチックで行くらしいが、技術的に俺の知る日本より10年は先行しているこの世界ならば、無理ではないと思いたい。
砲に関しては三式戦車砲をリファインして50口径の砲身と61式の砲尾を組み合わせ、重量25tで扱えるように反動も少し抑えた仕様となるらしい。
もちろん、そんな砲を通常の砲塔に載せようものなら大型化は免れないが、クレフト砲塔なので心配する必要もない。
そして、時期的には少し早いが、HEAT弾対策も行っておこうと考え、車体前部の垂直面や側面に中空装甲を設けることにした。10年もすればHEATの性能が上がるので意味はなくなるが当分の間ならば意味を成してくれるはずだ。
何より大きいのは液令化したからと言ってエンジン上部にラジエータ開口部を設ける様なトンチキな設置方法にはしない。どこの何とは言わないが。
車体後部に余裕のある戦車型や兵員輸送車型はマルダーのように車体後部にラジエータを設置すれば良いだろう。自走砲型は防御力に多少劣っても車体前部や側面にラジエータを設け、後部を砲搭載に有効利用する必要があるだろうが・・・・・・
などと基本仕様をまとめていき、何とか主要なファミリー案が完成した。
本格的な設計は専門チームが行う事になるので後は個々の指導はともかく見守るだけになるだろう。
そう思っていると、まず車体が完成した。
基本仕様通りに中空装甲を設けた事でHEAT弾に対する防御力がある事が確認された。試験の結果からサイドスカートの設置も行ったが、鉄道移動を考えると取り外し可能にしないと輸送の便が悪くなりそうだという。
遅れて完成した砲塔はMGSみたいな背負い型ではなく、T92のような姿勢の低い形で収まってくれている。76ミリ砲ではないが、そこは90ミリ滑腔砲。外径は76ミリ砲と大して違わない事が結果に出たのだろう。
キューポラの位置は中央の砲郭より低いため、全周視察用に潜望鏡が設置されている。もう少し後の時代なら暗視装置を装備したターレットサイトにできるのだろうが、未だ時代はそこまで進んでおらず、何とかレーザー測距儀の試作が始まった段階だ。
砲弾は61式と同じものが使えるので対戦車戦闘に不安はなく、105ミリより威力は小さいが榴弾も用意されている。まあ、後のHEAT-MPだがね。
砲塔が低姿勢の為、装甲は厚くできるが、それがどれ程の意味があるのかよく分からない。今のところ可能なグラスファイバーやゴムを積層した充填剤を中空装甲に詰めて、初歩的な複合装甲にでもした方が良いのかもしれないが。
その後、全体試作が完成した段階では全周視察を可能にするためキューポラの位置を高めた砲塔になり、T92というよりHSTV-Lの方が近い形状になったので、思い切って積層装甲を中空部に充填し、砲塔にも同じ装甲を設けるように提言した。
ここまで大きな砲塔になれば意味ないんじゃないのか?
「ここまで大型砲塔にしてしまえば重量も必然的に重くなる。25トンに抑えると全体の防御力が低くなりはしないか?」
出来た車両を見てそう言う。
試作車は積層装甲を備えない状態で20トンを超えており、当然ながら防御力は14.5ミリ機関砲弾程度に耐えられれば良い方だ。
「軽装甲車両の常として、防御力は最低限となるのは仕方がありません。十分な防御力を持たすには30トン近くになってしまうでしょう」
確かにその通りだ。
ただ、そこを補うのが積層装甲の役割となる。まだセラミック装甲が出来ていないが、グラスファイバーと鉄板とゴムを組み合わせる初歩的なモノであっても、中空装甲内部に設置すればHEAT弾の減衰には効果が出るとされる。
その為、砲塔正面部分は砲塔装甲の傾斜装甲との上にクサビ形に積層装甲を設置して中空装甲と積層装甲の相乗効果を狙うような配置にしている。
何だか外観がどんどんシェリダンみたくなるが、中身は違うのだから良しとしよう。
当然だが、研究が始まっているセラミック装甲についても、焼き嵌めによってセラミックを鋼リングで緊縛してやると強度が上がるらしいと話しておいた。




