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一式中戦車 チイ

 昭和十五(1940)年、試作戦車の試験で大忙しだった。


 が、暇を見て他の事象を追ってみると、まあ、色々と変化があった。


 ノモンハンの影響は至る所に出ていた。九九式ハーフトラックは三菱の手を離れて各所で大量生産が始まっている。


「せっかく農機生産のために作った島根の工場も今度、半軌の生産に転換することになりました」


 そういえばそんな工場もあったなぁなどと思っていたが、農機生産は満州の工場で続けるという。やはり、内地で農機が必要なところは少なかったらしい。


「そうですね、内地の農村は人力や畜力を前提とした小規模耕作地が大半で、機械耕を前提とした農地など北海道や一部の新規干拓、開拓地しかありません、軍の整備がひと段落して農地整備の話が持ち上がるのを待つしかないでしょうね」


 そう肩を落としていた。せっかくできた小型水冷ディーゼルとトラクターやコンバイン、ハーベスターと言った農機具はその大半が満州か北海道の大農場向けであって、それ以外に普及することなく、軍需転換と相成っていた。


 別のところでは、南部さんがへたり込んでいた。


「増産増産と煩いが、こっちの身も考えて欲しい」


 そんな愚痴をこぼしていた。それもそのはず、ベルト給弾式機関銃の制式化で銃器メーカーはどこもその製造に追われている。弾薬が共通化されたおかげで、航空機銃から小銃まで同じ弾を使う。量産効果も高いのだが、陸軍では弾薬製造が新7.7ミリに集中してしまうため、すべての機関銃、小銃の転換が図られていた。転換自体は二年前から始まっているが、ベルト給弾式はようやく制式化されたばかりとあって、その製造現場は忙しいなどというレベルではなかった。


「三交代シフトの24時間操業でまだ助かっているんじゃないですか?」


 そう話しかけると、頷いていた。KAIZENが無ければ現場はさらに悲惨だっただろうという。


 ただ、彼も技術者たちも開発意欲だけは盛んだった。


「そういえば、自動小銃な、満州でソ連とやり合ったとき、向こうさんが装備していたんだってな」


 そう言えばそうだった。主に狙撃銃として使われていたサカロフとか言うやつがあったらしい。


「構造は原さんが持ってきた奴が上だな。どちらにしても7.6や7.7じゃあ銃が暴れて扱い辛いのは変わらない。6.5が良かったんだがなぁ~」


 そんな事を言われた。短小弾で良いじゃないかと思う訳だが。


「輜重や戦車部隊用にあの短小弾は作れませんかね」


「俺は良いが、軍が採用するかどうかだな」


 ごもっとも!


 そんなわけで、どこも忙しかった。歴史の流れは全く変わっていない。国際連盟脱退にはじまり、満州事変、支那事変の拡大にノモンハン事件と知っている通りの状態だ。


 唯一、違いがあるのは、その工業力だろう。10年以上前に始めたKAIZENの成果で今やとりあえずは欧州の中小国並みのことは出来る様になった。

 まだ、スウェーデン鋼は作れないが、一応の鉄鋼品質は達成できている。本来できていなかったレーダーが完成しているので真空管や電装品技術も格段に良くなっている。俺が介入している事で陸軍兵器も良くなっている。海軍はよく分からないが、駆逐艦の形が欧米に似ているので、多分よくなっている。


 ただし、俺の知る範囲内で、戦略や戦術面で進歩があったかというと、大勢に影響がない程度の変化しか起きてはいない。

 226事件もあったし、統制派がどうしたという状態で、結局、議会政治は消滅している。これはバカな政治家の責任だし、新聞やラジオが煽っている事に起因している。

 正直、新聞を読み、ラジオを聞いていると、自分のいた世界のワイドショーと何の変りもない。非常に既視感を覚えてしまう。

 こうやって日本は戦争という祭りにのめり込んだのかと、納得すらしている。戦争の反省?今、この状況に身を置いて、21世紀のマスコミが何ら反省していないことが手に取るように分かった。アイツらこそがすべての元凶だ。コミンテルンがどうした、国家神道がどうした、グンブガーなんてのは、所詮、カレーの福伸漬けか寿司のツマ程度の影響力しかない。そうした根本原因を増幅、拡散させているのはマスコミだ。連中が満州事変の様に反戦を唱えていれば、状況はかなり違ったことだろう。


 マスコミが騒ぎ、一部の「正義」を振りかざす連中が台頭し、誰もがマスコミの言う通りと信じ込んだ結果、神秘宗教的な状態が生まれて、特攻だ何だと起きたんだと、今では理解している。


 そりゃあ、軍にも大きな問題がある。ノモンハンで撃墜された優秀なパイロットを捕虜交換で返還されながら自決に追い込むほどのアホしか居ない。

 総力戦だ、国家総動員だと言いながら、その実、何もわかっていない机上の空論を諳んじているだけでしかないのが丸わかりだった。


 考えても見ろ、バトル・オブ・ブリテンで撃墜された英パイロットを「国王陛下から預かった戦闘機を壊した恥知らず」などと、左遷や自決に追い込んでいたら、21世紀に英国など存在していないだろう。

 本当の意味で、総力戦を知らない。日露戦争の感覚で総力戦とウワゴトを唱えているに過ぎない。そんな「美しい国」が昭和十五年の大日本帝国だった。

 もし、かの将軍の構想した改憲が成功して統帥の統一でもあれば、もう少し違ったのかもしれんが、このままいくと、あの道しかないのが今から見えている。政治への介入?冷酷なようだが、帰還を優先するわが身かわいい俺にはそんな勇気はないよ。


 昭和十五(1940)年十二月、試作戦車を年度明けに一式中戦車とすることがほぼ決定した。生産の切り替えは昭和十六(1941)年後半か十七(1942)年になるとのことだった。 

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