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パパは異世界ATM 〜家族に届く育児クラフト〜  作者: taniko


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第74話 スーパーバクテリアくんづくり 前半


「さて。それでは……レッツ・クラフト!」


 屋敷に戻ってすぐに、裏手にある汚れ仕事可の部屋を貸してもらった。使用人に怪訝な顔をされたのは言うまでもない。


 あとニ時間ほどで日没だ。テキパキ進めよう。


 用意したのは、肥溜め池の水の壺と、麻袋に入ったフロステ草。それから、お試し用に糞尿や生ゴミなんかを集めてきた汚物の桶だ。


 ライチは目を閉じ、これまで見てきた光景を思い浮かべた。


(工房通りの悪臭はまだ無理だけど、まずは街全体の下水をなんとかして、街と郊外村の育児の衛生環境を良くするぞ!)


 子供たちの顔や暮らしを思い浮かべて、何とかしてやりたいという気持ちを燃やすのは、父性エネルギーをクラフトに使用するライチにとって、とても大切な儀式だ。


「……おし!父性満タン!」


 壺の蓋を開けた瞬間、むわわっと湧き上がる悪臭が鼻を突いた。意識が割かれる前に、さっと作業用の大桶に中身を移し替え、手をかざす。


「父性クラフト!!バクテリアよ、進化せよ!スーパーバクテリアくんへ!」


 パァァァと大桶の中が光る。


 神秘的な光景ではあるが、それよりも自分の口から出たセリフに一人ライチは恥ずかしさを感じていた。

 三歳のレントと二人で、『元気千倍!パーンパーンチ!』や、『変身!スーパーパパ!とう!』などと、謎のカッコいい風のノリでひたすら遊んでいたからだろう。いい歳をしてついつい魔法使い風に『進化せよ』なんて言ってしまった。


 ……誰もいないからいい……としよう。心の持ちようが大切なスキルのようだし!


(そうか。クラフトポン以外で、クラフト自体に父性エネルギーだけを注ぐってのが、何気に初めてなんだ)


 出来上がりを確認する前に、そんな事をうっすら考えた。汚物処理部屋だが、ライチのスキルの見せ場のようなものだ。魔法使い感が出てしまうのは、致し方ないということで。


「どれどれ……」


 大桶の中を覗き込む、そこには……


「スライム……というか、ゲル?」


 ほんの数秒で、悪臭漂う大桶の中に、先ほどと違う質感のものができていた。匙で表面をすくうと、スライムより粘度の低い、ゲル状のものが乗っている。べたりと下水溝にしがみついてくれる代物なのだから、なんとなくこの粘度はイメージ通りだ。


「これだけ見ると、すごく綺麗だな」


 いろいろな角度から見てみた。色は透明のようにも見えるが、シャボン玉やディスクの反射のような、複雑で何とも言えない色をしている。


 匙ギリギリまで鼻を近づけてみた。


「うん。臭くない。すご……」


 通常のバクテリアの分解がどれくらいの時間をかけるものなのかは不明だが、スーパーくんの方は、ものすごい速さで分解を進めているようだ。試しに大桶をかき混ぜて嗅いでみても、全く臭いがなくなった。


「下水溝にもべったり貼り付くなら、今別の容器に移し替えても貼り付くってことだよな?」


 一度塗布するだけで、水や下水が流れた程度では剥がれず、定住してくれるらしい代物だ。

 大桶の中の様子を確認するために、試しにゲルを別の容器に入れてみることにする。匙を入れて持ち上げる。


「そうか、貼り付く先がないスーパーくんは、水に浮くのか。容器には貼り付くけど、水には浮くなんて、油みたいだな」


 せっかく分離しているので、分離した種類ごとに、別の桶に分けて回収してみる。


「……なるほど。上から、スーパーバクテリアくん、茶色く濁った無臭の水、無臭の茶色のヘドロ、ね」


 中間層の水が濁っていたのは、すくう作業でヘドロが混ざり込んできたせいだったようだ。

 水の桶をしばらく置いていると、どんどんヘドロが沈殿して、透明に近くなっていく。


「で、こっちは、と」


 空になった大桶を観察する。

 大桶全体が、シャボンの膜に覆われたように、うっすらと不思議な色で色づいている。


「塗布はしてないけど、すくいきれなかった分が、側面とか底に貼り付いてくれたのかな?」


 ゲルを塗った、というより、かさが減っていく過程で、ほんの薄い膜だけ残ったような状態だ。この程度の量のスーパーバクテリアくんで、果たして分解はできるのだろうか?


 試しに実験用に準備した汚物の桶から、大便らしき塊をすくい取り、膜の張った大桶に投入してみた。


「うわっ……うわわ……。はやっ、すごっ、ちょっと、これは…………こわっ!」


 投入した瞬間、熱したフライパンに乗せたチョコレートアイスのように、大便がぐずぐずと溶けてなくなっていった。溶けたあとには水気のないヘドロがとろり。


「なるほど。水は生成したものでなくて、分解から弾かれたものだったんだな」


 あまりの分解速度にゾッとしたライチは、何にゾッとしたのか考えて、自分の中の答えにたどり着いた。


「……これ………まさか、生物……動物とかまで分解しない……よな? 大便とか生ゴミには肉とか骨とかも混ざるだろうけど、それは……分解、する……?」


 考えながら持ってきた生ゴミをポイポイと投入するが、どれもシュレッダーかと見紛うスピードで、原型を失ってヘドロになっていく。


 薄い膜によって、人の大便や生ゴミが溶けていくという異常な光景に、それを塗った街で暮らす人体の方が心配になってくる。


(でも、スキルは“生き物が摂取しても無害”だとはっきり言ってたし……)


 神様のくれたスキルのことは絶対的に信頼しているが、大便や生ゴミが溶けてなくなっていくのは、考えれば考えるほど怖くなる絵面だ。



「“人喰いバクテリア”……」



 思わず、恐怖ワードが口をついて出てきた。これは、以前テレビで見かけた言葉だ。

 いくつかのバクテリアが体内に入り込むと、生きたまま体の肉が分解され、数時間で壊死。その部分は、すぐさま切除しないと、命も助からなくなる、というものだった。


(父性クラフトさん、そこのあたりの説明がちょっと足りてないので、注釈お願いしてもいいですか〜!人喰いバクテリアなんてバラまいたら、子供たちの笑顔どころじゃないんです……!)


 『なにとぞ』という姿勢で心中で強く念じてみる。


 ライチは、今になってようやく、このスーパーバクテリアくんによって、“父性エネルギーの力”を思い知ってしまった。


 これまでは、物だと思って安易にその力を注いできた。


 よくよく考えれば、物に力を注いで、別のものを作り出すというこの力は、神の創造の力にも似た異常な能力だ。そして、そのとんでもないエネルギーを、生き物に注ぐことは、これまでの物づくりとは全く別次元のことだった。


(自分の生み出したものが、生き物を瞬時に溶かしていくなんて……恐怖でしかないぞ……)


 トンネル工事のために使われると信じて、ダイナマイトを作った平和主義者のノーベルも、その発明が、戦争で多くの人の命を奪うことになるとは思わなかっただろう。


 ライチが作り出した得体のしれないものも、創造者として、より詳しく知っておく必要がある。


(安全性と、万が一の時のためのコントロールの仕方も!どうかお願いします!!)


 ATMスキルと違い、これまで追加で情報をくれなかった父性クラフトスキルだが、思いが通じたのか、ありがたいことに頭の奥へ情報が届いた。



---




《父性クラフト パパサーチ 起動》



[補足]:スーパーバクテリアくんの安全性と制御方法


【仕様と安全性】

・スーパーバクテリアくんは、命の力である魔力と、浄化の力である神聖力との掛け合わせによって、全く別次元の生命へ進化した個体。

 通常のバクテリアの持つ無作為性はなくなり、魔力で得た生命力を、神聖力の“浄化”に特化して使用することとなる。


・“浄化”の対象は、神の意志を大きく逸脱しない限り、神聖力を込めた者の意志により定められる。


・神の意志により、スーパーバクテリアくんは“生命”には干渉できない。生物が体内に取り込んだ場合も、同様である。


・“意図を持って存在するもの”は、基本的に“浄化”の対象外となる。(木、布、紙、骨など)


・バクテリアが分解を苦手とするものは、クラフトの特性上、分解がほぼできない。(金属、ガラス、陶器、石、砂など)



【制御方法】

・魔力が行き届いていない土地から離れすぎると、一週間程度で活動を停止する。


・水に浮くため、水を流しながら、ブラシのようなもので微細な隙間まで完全にこすり取ると、定着を解除できる。



《パパの育コツメモに自動保存されました》




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