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パパは異世界ATM 〜家族に届く育児クラフト〜  作者: taniko


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第56話 六○○○七五○

「話はまとまったかな?」


 部下との話を終えて、プルデリオがこちらに戻ってくる。


「はい」


 メルカトが答えると、プルデリオが居住まいを正した。


「では、改めて自己紹介させてもらおう。

 名はプルデリオ。歳は三十。三年前から組合長をしている若輩者だ。それで、ライチ君は……」


 さくっと終わらせて次にいこうとするプルデリオに、トルヴェルが突っ込んだ。


「おいおい、肝心なのを忘れてるぞ。

 嫁の麗しのアルジーナは、トルヴェルさんの愛娘で、義理の親子関係にある。とか、真面目でキレ者の四歳の息子セリオと、愛嬌たっぷりの二歳の娘ロゼッタにメロメロだとか」


「メロメロ……大切に思っているのは間違いありませんが」


 狼っぽい獰猛さを持つプルデリオが、ちょっと照れた顔を浮かべるのが実に新鮮である。四歳と二歳。可愛さが天元突破の時期だ。わかるわかる。


「北部の他領からギラついた目でこっちにやってきて、『俺達が掘った銀の価値も分からねぇやつは全員商人やめちまえ!』と大暴れしてたクソガキだったとか。トルヴェルさんたちに大変お世話になりながら商人のノウハウを学んで、嫁までもらい、今はその北部領地との銀の取り引きでとんでもなく儲けてる、とか。

 ……紹介するならここまで言わねぇとよ」


 自領の境遇に腹を立てて子供ながら他領から単身乗り込んでくるとは、かなりのガッツである。ギラつく子狼少年……。ちょっとその光景が予想できてしまって、思わず笑いそうになった。


「その節は、どうもお世話になりました……」


 プルデリオが不満たっぷりに礼を口にしたあと、気を取り直してこちらに向き直る。


「ライチ君、君は一体何者で、どうして物づくりに詳しいんだ? どんなところから来たんだ?」


 年下のはずだが、どう見えているのか、どんどん言葉遣いが砕けてきている。ライチは構わず、用意していた返事をした。


「どうもすごく遠くの国から来たようなんですが、その辺の記憶があいまいで。今のところ帰り方も、どの国にいたのかも分からない状態です。

 気がついたらスピネラ村にいたところを、村の人達に助けてもらったんです。そのお返しに、なぜかたまに降りてくる、物づくりの知識を披露していたら、ここに来ることになりました。もしかしたら、高度な文明の国にいたのかもしれません。

 ちなみに、家族のことははっきり思い出せるんですが、可愛い奥さんと、幼い子供が三人います」


 ライチの自己紹介に、ふむ。とプルデリオが腕を組んだ。


「それは……大変な境遇だな。

 新商品に関しては、組合で会議を持って処置を決めていくが、当然、領主様にも報告が必要だ。その際、君のことも今言われた通り報告するので、不審人物かの確認のために、城に呼ばれることもあるかもしれない。すまないが、心の準備をしておいてくれ」


(おお……貴族様に会ったこともないのに、いきなり領主の城に呼ばれるかもしれないのか。大丈夫かな、俺……)


 やましいことはなにもないが、説明ができないことは沢山ある。誓いなんかを駆使して、神様によって死の間際に異世界転移させられちゃうくらいの善人です!ってことが証明できるよう、祈るのみである。



「紹介はこの辺りでいいかな? 残り時間が少ない。手早く支払いを済ませよう」


「はい。こちらの木札が内訳で、このうち甘味シート五百枚のみ、トルヴェル組合長と取引し、お支払いいただく予定です」


「お義父さんが? 五百枚だけを?」


「今夜は、お前の家に泊まりに行くからな。アルジーナに連絡しとけ。せっかく無理を押してあっちの職場を抜けてんだ、じぃじとして孫たちと触れ合わせてくれや。甘味シートは、その手土産だ。

 客間ならいくらでもあるだろ? こいつらも泊めてやってくれ、な」


「相変わらず急な……はぁ」


 プルデリオが露骨に額を抑えてため息をついた。仲が良さそうで何よりである。


「それぞれの金額を教えてくれ」


 額を押さえたまま、プルデリオがそう言うので、メルカトがそれぞれの値段を知らせる。


「ふむ。悪くない。妥当だな。さすがの目利きだ。すぐにフィデリスに支払わせよう。商品の数を確認するので、お義父さんの分以外は、こちらで全て預からせてもらおう」


 プルデリオがベルを鳴らすと、また執事風の老紳士が現れた。若い衆を連れて、せっせとフェラドとメルカトが背負ってきた大荷物を運び出していく。


「数量の確認に立ち会ってやってくれ。私は午後の業務に向かうため、ここで失礼する。

 …………では、また、後ほど」


 最後のセリフをしぶしぶといったふうな声で絞り出した後、案内という建前で執務室を追い出された。




---




「はい。確かに。では、お支払いいたします」


 執務室に向かう際に通り過ぎた二階の一室で、数人による数量確認が行われた。

 

 老紳士フィデリスがギルドカードを服の中から引き出すと、フェラドも首の紐を引いて取り出す。フィデリスはキス、フェラドは噛んで個人認証し、送金していた。続いて、トルヴェルからフェラドへ送金がなされていく。


「では、ライチさんもお願いします」


「あ、はい」


 相手はメルカトだったが、高額なやりとりに、思わず敬語を使ってしまう。ギルドカードを引っ張り出して、カチッと噛んだ。残高のゼロだけが光って表示されている。


「六百万とんで七百五十G。送金するっす」


 カード同士をくっつけると、フェラド、ライチ、の順に数字が光った。六○○○七五○。本当に、くだんの金額が振り込まれている。

 フェラドが残金を分け前として半分メルカトに送ろうとしている間、ライチは市民権代をトルヴェルに返すことにする。


「他にもたくさん出してもらっていますが、まずは十万G、お返しします」


「おうよ。ありがとな」


 まさか午前の昼で、こんなにすぐに返済できるとは思っていなかった。実に便利な世界である。


「あとは、昨日の宿代とか、メルカトたちの立て替えてくれた通行料なんかは、おいくら万円で……」


「そりゃ俺達の奢りさ。俺等が説明をして欲しいってんで招いてんだからな。あいつらはスピネラから荷物を運んだだけで、お釣りで溺れるくらいに儲けてるし、俺は昨日の泊まりで見たヘアケアの方で、がっつり生産してぼろ儲けさせてもらうから、気にするな!」


 商人界はなんとも気前のいい世界である。ライチはしっかり三人に頭を下げてお礼を言った。




---




「そういえば、ギルドカードって、魔道具?だよな?どう見ても。なんで使えるんだろう? ……実は庶民も微力ながら魔力が備わってるとか?」


 商人組合の建物から出たライチは、ふと気になって尋ねた。


「額に魔石のない者は魔力器官がないので、微量すら魔力はありません。後天的に発現する者も、魔力器官ができるとともに魔石が必ず出るようなので、それがない場合は魔力はありませんね。

 ギルドカードは、長年の研究により、微量ながら、魔力を溜めておける仕組みになっているそうです。そして、その使用にはほぼ魔力を消費しないため、一年ほどは魔力補充なしで使用できるらしいですよ」


(なるほど。充電式ボタン電池みたいなのが入ってる感じか)


「そうそう。年に一回くらいは役所や銀行に行ってチャージしないと、魔力切れになるらしいっす。

 ま、どうせ春と秋の市民税の徴収んときに、公営機関でギルドカードを提出しないとなんで、踏み倒そうなんてやつ以外は、魔力の残量のことはあんまり誰も気にもしてないと思うっすよ」


「そうか、カステリナは農作物を納めないから、別で税金を納めるんだ」


 市民税といえば、リノの育休のときに、まとめて住民税を請求されて、ぶったまげた記憶が蘇る。給料天引きだと気づかないが、うちは一年間で四十万円くらいの請求だった。


(すでに出産一時金から二十万円ほど赤が出てるのに、産後ボロボロで寝てなくて収入も減った母親に、こんだけ請求するって、鬼なの?!って思った思った)


 ぼろぼろになってまで市民を増やしてくれてありがとう代で、せめて一年でいいから免除にしてほしいものである。俺はもういないけど、ルノやレントやロクのためにも、少子化対策、がんばれ日本。


「市民税だけでいえば、一回二百Gで、大した金額じゃないっすけどね。ちなみに、俺らは家が郊外村なんで、住居税は取られない代わりに、いちいち街に入るのに通行料を払わされるっす」


 言われてみれば、門を通る時、フェラドたちの分も、ライチと一緒にまとめて通行料を払ってくれていた気がする。住居税を払っている人は、いちいち通行料は取られないというわけか。


「よくできてるなぁ。そうか。だから、貴族のギルドカードの研究が進んだのかもしれないな」


 利がないと研究が進まないのはどこも同じである。カードなら税金の強制徴収に便利じゃん!貴族のお金のやりとりに使ってるこのカードを、庶民も使えるようにして、チャージで釣ろうぜ!と、充魔力式になったのだろう。たぶん。



「で。俺たちはこれから、ヘアケア製品が作れそうな工房を当たっていくが……ライチはどうする? くっついてきても構わんが」


 トルヴェルにおもむろに声をかけられる。


「ヘアケアの方はもう丸投げでお任せしてるんで、別行動してみます。何か買いたいときって、ギルドカードで買えますかね?」


 こんな事も知らなくて街歩きができるのか、若干不安ではあるが、若い頃は少ない貯金で一人で海外を回ったこともある身である。英語すら全くできないのだが、気合いがあれば大抵なんとかなるものだ。


「買えない買えないっす。大丈夫かな、ライチさん一人で」

「せめて銀行での出金だけお供します」

「それがいいな。俺とフェラドで、先に油屋を当たっておくから、メルカトは銀行について行ってやってくれ、油屋で合流だ」


 満場一致でひとり立ちは無理だと判断されてしまった。三十二にもなって、情けない限りである。


「うし。礼拝堂や大聖堂から、夕暮れの祈りの歌が響き始めたら、ここに集合だ。プルデリオ家へ連れてってやる。……解散!」


 そう言うと、トルヴェルとフェラドは大聖堂の方向に歩いていった。


「銀行は商人組合のすぐ隣の、この建物です。さっそく列に並びましょう」


 メルカトも、あれだけヘアケア製品の儲けに興奮していた一人である。こちらに付き合わせて、実に申し訳ない。

 さっさと解放してあげるべく、ライチは急いで列に並んだ。

うっかりいつもより短く、書き途中で一話として投稿してしまっていたので、最後の部分を足しました。

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