第九一話 囚われた仲間(プリズナー)
「で、挑戦受けちゃったと……なんで君はみんなに相談もせずにホイホイ受けちゃうんだよ、危険かもしれないだろ?」
「……す、すいません……気が昂ってつい……でも……」
今私はなぜかエツィオさんとリヒターにお叱りを受けている……あの時私は怒りのままにララインサルに挑戦を受けた、と伝えてしまったが、後でその星幽迷宮の簡単な説明をリヒターたちに聞いて真っ青になっているところだったのだ。
な、なんで私挑戦受けちゃったんだろう……でも先輩の傷ついた姿を見ていても立ってもいられなくなったのは事実なのだし。
そんな私の複雑な表情を見て、二人はため息をつくかのように方をすくめる。
「まあ、新居が惚れた男の危機だと言うなら、仕方のないところではないか? よくあるではないか、姫を助ける戦士のようなアレだ」
「ほ、ほ、ほ、惚れてなんか無いし! せ、せ、せ、先輩はと、友達だから心配なだけだし! 私そんなこと考えてないんだから!」
リヒターのあまりに冷静なツッコミに私は思わず反論するが……耳まで真っ赤になっている自分に気がついてなんか自分のやってることに恥ずかしくなってしまう。もういやだ……私何やってんだろ。
そんな私を見てエツィオがやれやれ……といわんばかりに首を振って呆れたような表情を浮かべていたが、気を取り直したかのように説明を始める。
「まあ、もう一度説明するぞ星幽迷宮は防衛用禁術の一つだ……迷宮の名前の通り空間の狭間に巨大な迷宮を構築する戦術魔法で、所有者のイメージに合わせて構造ごと変化させることができる」
エツィオさんの説明が続く……星幽迷宮の最大の特徴は、入り込んだものを殲滅するための防衛機構にあるという。
複雑な構造や、配置される障害物、戦力は基本的に迷宮としては最高級の構成に近いのだという。
特に空間の狭間に設置されるために、広大な構造にすることも可能で迷宮主の望むように構造を動的に変化させることすら可能……つまりは一度侵入を許した後でも、構造自体をリアルタイムで変化させることができてしまうのだ。
前世でもあった迷宮……ダンジョンとも呼ぶが、基本的に天然の洞窟や地下方向へと建築した建造物であり、その構造や構成をリアルタイムで変更するなどということはできなかった。
当たり前だが、建造物の構造を変更するのは土木建築工事が必要なわけで……ただ、リヒターの説明によるとその縛りを取り払ったのが星幽迷宮なのだという。
強力ではあるものの、唯一弱点というか迷宮主に対しての強力な縛りが存在していて、どんなに難易度を高くしても構わないが……侵入者がどうやっても絶対に踏破できない迷宮は構成できないらしい。
例としては入口があるけど出口がないとか、どうやっても迷宮主の元に辿り着けない構造を作ることができない。
その縛りのために出口を設定しなければ構成できないので、どんなに高難易度の構造をしていても絶対に脱出が可能となっている。
その縛りをクリアしてしまえば一〇〇階層だろうが一〇〇〇階層でも作成することはできるし、踏んだら即死の強力なトラップをこれでもかと配置することすら可能だ。
「とまあ、僕の記憶にある星幽迷宮はそんなところだ、リヒターは他に知っていることはあるかい?」
「そうだな……迷宮主はララインサルではなくテオーデリヒなのだろうか? では戦闘を中心とした構成になることは間違いないな、彼は誰よりも誇り高く誰よりも強くあろうとするものだ」
リヒターはカタカタと骨を鳴らしながら私の頭に骨だらけの手を乗せて優しく撫でる……気を遣ってくれているのだろうが、なんか奇妙な光景だな。
「戦闘中心か……お嬢さんが前衛、僕が後衛と補佐、リヒターが防御と回復って感じかな」
エツィオの言葉にカタカタと頷くリヒター……え? この人たちついてくるの? 驚いている私を見てエツィオさんはニカッと笑い、リヒターは……笑ってんだか怒ってるんだかわからない表情でカタカタ骨を鳴らしている。
「君一人に危ない橋を渡らせるなんて、考えちゃいないよ。第一君だけであの迷宮を踏破できるとは思えないからね」
「ま、そうだな……私たちの知識が必要であろう?」
それはそれでいいことなんだろうか……即席のパーティではあるが、囚われた先輩を助けに助けにいくためのチームが編成できたということか。
前世のパーティよりも数は少ないが、今KoRJで構成できる戦力としては最高峰に近いだろう……私は少しだけ、彼らの優しさに感動すら覚え……そっと頭を下げる。
「あ、ありがとうございます……」
私の言葉にエツィオさんは少し複雑そうな顔を浮かべたまま、私の肩に手を置いてそっと呟いた。
「礼を言うのはまだ早いよ、本当に助けられるかどうかわからないのだからね」
「いやー、参ったよ、KoRJから出てくる時にこっぴどく攻撃されてねえ……」
所々が破れたパーカーと、ジーンズについた埃を払いながらララインサルは不思議な空間へと舞い戻ってくる……顔の一部が大きく欠損して欠損部位はまるで汚泥が蠢くかのようにうねうねとうねっている。その姿を見て、テオーデリヒはふうっと大きく息を吐くと首を振って何かを否定している。
「わざわざ自分で行くこともあるまいよ……で、どうだった?」
「こっちにくるよ、あの少女は……本気で怒り狂ってたね。いやあこわいこわい」
目の前に立っていたボロボロのララインサルの体がダメージに耐えきれないように崩れ落ちると、扉の向こうからララインサルが真新しい服装で姿を表す。
新しいララインサルはニヤニヤ笑いながら、床に落ちたパーカーとジーンズを見て少しだけ残念そうな顔を浮かべている。この世界にきて購入した衣服だが案外気に入っているのだ。
もう少し自然な素材であれば最高だったが、これはこれで使い倒せるしな……。
「本気で怒らせて何になるのかわからんが、少なくとも本気のミカガミ流剣士と殺し合えると言うことだな」
「そうだねえ……ところで人質は生きているの?」
ララインサルの目が壁に鎖で繋がれた青梅 涼生の姿を捉える……KoRJでも見た通り彼は戦闘で傷つき、弱ってはいるもののなんとか生きている、そんな状況だ。
そんな青梅の顔を青白い手で確認するとテオーデリヒは満足そうに笑うと、頬を軽く撫でる。
「生きている。この男性は勇者の素質がある……この程度では死ぬことはないだろう」
「……灯ちゃんを、殺させはしないぞ……」
青梅は震える声を絞り出すと……軽く咳き込み、血を吐き出す。そんな彼を見てまずいと思ったのかララインサルが彼の肩に手を当てて、何かをつぶやくと……青梅は少しだけ痛みが楽になった気がした。
「君は勇気があるな……でもあの少女が来るまで死なすわけにはいかないね……オレーシャ、仕事だ」
「はあい……このオウメを癒して可愛がればいいんですねぇ?」
扉の向こうから、長い髪と漆黒の瞳を輝かせたKoRJに捕縛されたはずの女淫魔が姿を現す……ララインサルがKoRJへと乗り込んだ目的の一つ、女淫魔のオレーシャを解放して戦力に復帰させること。
ララインサルたち異邦者も潤沢な戦力を有しているわけではない……あくまでもこの世界に投入できるのは移動を許可した者たちだけ。
オレーシャは呼び出した戦力としてはそれなりに高級な部類に入り、無駄に拘束されているのは勿体無いのだ。
「そうだよ、キミの好きなようにしていいけど殺すなよ?」
「そ、それはもう……花よりも、何よりも大切に扱いますわ……」
ララインサルの翠玉に輝く瞳が怪しく光るのを見て、オレーシャは少しだけ背筋が寒くなったような気分を感じる。
女淫魔であっても目の前の闇妖精族はあまりに底の知れない不気味さを感じさせるのだ。アンブロシオが信頼する最強の闇妖精族……。
世界を滅ぼすために、世界を蹂躙するためだけに、そして自らの快楽のためだけに混乱を巻き起こす、そんな存在。
「オウメを癒すのに、拘束が邪魔でして……解いて治療したいのですが、逃げ出してしまいそうですわね」
「そうだな……彼はあの少女を愛しているのだろう? 姿を変えれば大人しくなるのではないか?」
テオーデリヒの発言に、オレーシャは満足そうに頷く……あの時は精気を完全に吸い尽くすまでは至らなかったが、治療を進めながらある程度はつまみ食いしても許されるだろう。
前回夢で見て思ったが、この若者は初めてだ。女性に対するイメージや、行動が実に初々しい……この世界にきて、何度かつまみ食いをおこなってきたが、この若者は極上の味をしていると思う、特に女に慣れていない味であれば……ゴクリと喉を鳴らすとオレーシャは気絶しているオウメの顔をそっと撫でる。
ああ、たまらない……オウメの顔が快楽と絶望に彩られるのが待ち遠しい……私なしでは生きていけないくらいの快楽を与えてあげよう、オレーシャは怪しく笑うと恭しく二人へと頭を下げた。
「そうですわね……私が責任を持って、治療いたしますわ。それはもう大事に……大切にね……」
_(:3 」∠)_ 先輩の貞操の危険が危ない
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