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【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。  作者: 自転車和尚
第二章 星幽迷宮(アストラルメイズ)編

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第七三話 最後の記憶(ラストメモリー)

「ふぅん……それでその男性がミカガミ流を使えてたから、ということかしら?」


 エツィオさんはそれほど驚きもせずに……私の目をじっと見ている。

 私は少しだけその美しい青い瞳に気圧されながらも、どうも男性の顔で女性言葉を使われるとなんかおかしなものを見た気がして……少しだけ顔が綻んでしまう。

 ただ、子供の頃からずっと抱え込んでた重石のような何かが、腫れた気になって少しだけ心が軽くなったような気がする。

「そうですね、こんなこと誰にも言えなかったので……少しだけ気が楽になりました」


「そうでしょうね……私の記憶からしたら羨ましいくらいの美女なのに……なんだかねえ」

 エツィオさんはジロリと上から下まで私の体を見つめる……いや、それは恥ずかしいからやめてほしい……私が思わず体を隠すように恥ずかしがるのを見て彼は少しだけ呆れたような顔で、肩をすくめる。

「ああ、なんかムカつくわアンタ……」


「すいません……私一七年間女性やってるもので……」

 それとまあ、私は一応お嬢様として恥ずかしくないように女性として徹底的にお母様より教育を受けている……仕草や考え方なども基本的には新居 灯という女性として構成しているのでどうしてもそうならざるを得ないのだ。

 しかし……それは別で私は聞いておかなきゃいけないことがあったのだった。

「エツィオさん……魂が女性ということですが、何か記憶とかはあるんですか?」


「あるわよ……途切れ途切れで要領を得ない記憶がね。私はその記憶にある男性を探してるの」

 エツィオさんは少しだけ悲しそうな顔で、左手で顔を押さえる……記憶を呼び起こそうとしているのか、それとも何か思い出したくないものを思い出そうとしているのか、とにかくかなり苦痛を伴っているかのような表情を浮かべる。

「男性ですか?」


「記憶にある私は一人の男にずっと恋焦がれていたわ、そいつはミカガミ流の剣士でね……私はずっとそいつを見てたんだけど、そいつは別の女しか見てなくてね……」

 エツィオさんは本当に懐かしそうな、それでいて恋する乙女のようなキラキラした目で話し始める……なんとなくその様子がミカちゃんが恋バナをしてる時のような表情に見えてしまい、私は頬が少し緩んでしまう。なんか可愛いなこの人。

「で、まあそいつはある日私を置いて死んでしまうのよ、あっさりとね。それが信じられなくて記憶にある私は何年もそいつを蘇らせるために、各地を放浪している記憶があるわ」


「それはこの世界ではなく、ということですか?」

 その言葉にエツィオさんは頷く……私は話を聞いて、もしかしたら彼の記憶にある世界は、私の前世となるノエルの生活していた世界なのかもしれないと思った。

 ただあの世界でも命を蘇らせるということは神の技と呼ばれていたので、彼の努力は無駄なものだったのかもしれないけど……それくらい相手を愛していたのだろう。


 ノエルの死後に同じような行動をシルヴィやエリーゼがしていないだろうか? と少しだけ不安になる……前世の私は死ぬ間際に生き抜いた、というある種の満足感と愛するものを残してしまうという不安を抱えて死んでいるわけで、残された人たちがどうしたのかまでは知る術がないのだから。

 二人にはそんな不幸な人生を送ってほしくはないのだよね、ノエルの感情もそう訴えている気がするのだ。

「結局私は愛する男性を蘇らせることはできなかったわ、それどころか……不治の病に冒されて、結局独り身で死んだ」


 エツィオさんの顔が曇る……その死ぬ寸前の記憶、というのを思い出しているのかもしれない。私も夢で自分が死ぬ時の記憶を見るが、想像を絶するくらいの痛みと苦しみが全身を包んでいて思い出すだけで体が震えるのだから。

「私はね……前世の私を受け入れずに他の女しか見なかったそいつを一発ぶん殴ってやるつもりなの。お前のせいで私はこんなに苦しんでいるんだぞってね。そいつがミカガミ流を使う剣士というのはわかってるけど、それ以外の記憶は思い出せない」


 エツィオさんは少しだけ寂しげな、とても女性らしい表情で苦笑いを浮かべて立ち上がる……少しだけ気が晴れたのか、私に手を差し出す。

「ごめんね、新居さん……怖がらせる気はなかったわ、でもミカガミ流と聞いてどうしても確認したくて……」

 私はその手をとって、立ち上がるが……エツィオさんは急に私を引き寄せてそっと抱きしめた。少しだけ手が震えている……死ぬ寸前の記憶を思い出したことで恐怖を感じたのか、それとも置いて行かれてしまった寂しさを思い出したのか……なんとなく彼の気持ちがわかったような気がして、私はそっと彼の背中に手を添える。


「ありがとうございます、話してくれて……見つかるといいですね、その男性」

 その言葉に、ふうっと息を吐いて私を抱きしめる腕に少しだけ力を込めるエツィオさん……しばらく私たちはそのままの体勢でお互いを慰め合うかのようにじっとしている。

 なんかとてもいい匂いがするな……そして思っていたよりもはるかに彼はがっちりした体型で、細身なのに恐ろしく筋肉質だった。

 う、うん……なんか意識してきたらめちゃくちゃ恥ずかしくなってきたぞ、今私は何をしているんだこれは。

「ありがとう、新居さん。さて、そろそろ男性に戻らなければね……離れてくれるかい?」


「あ、す、すいません……思ってたより、ずっと男性らしくて……」

 エツィオさんが私をぐいと剥がすように押す。もしかして私結構しっかりとしがみついちゃってましたかね……私は少しだけ頬を染めて、少し距離をとる。

 彼は少し頬を掻いて……少し困ったような顔で私を見たり、別の方向を見たりと困ったような素振りをしている。

「い、いや……思ってたよりも君すごい体してるんだなって……男性として僕はちゃんと機能するからさ、ちょっとだけ驚いたんだ」


 あ、そういうことか……ってすごい体!? どこまでどう思ったの、ねえ!? 確かに自分で鏡見て『スッゲーな、私』とか思ってるのは確かなんだけどさ……男性としての部分が少しだけ反応しちゃったってわけか。

 それはそれで喜ぶべきなのか、拒絶するべきなのか……どう言葉を返していいのかわからんのだけど。エツィオさんが私のちょっとだけ複雑な顔を見て、ジト目で見つめてくる。

「お前……自分が女性なの楽しんでるだろ? 嫌なやつだな、僕はここまで苦しんでるってのに……」




「……任務完了しました」

 私は通常空間へと戻ったのち、インカムへと話しかける……次元拘束(ディメンションロック)されていた間は全く連絡も、生命反応すら確認できないとエツィオに聞かされていたので、心配されているのではないか? と思ったためだ。

「あ、新居さん! 大丈夫ですか? エツィオさんと一緒に生命反応すら消えていたので……何があったんですか?」


 オペレーターの焦るような声が聞こえる……どうやら結構な時間連絡が取れていない状況だったのだろう……とはいえ、彼に襲われてましたなんて言えないしなあ、どうしたものか。

「横からすいませんね、そういうのは聞くのは野暮じゃないですか? 二人だけの秘密、ですよ」

 エツィオさんがインカムに話しかける……って何言い出してんだあんた! 私の顔を見て、片目を瞑って悪戯っぽく笑う彼……って聞くのは野暮って、どういう言い方してんだよオメーはよ!


「え? あ、ああ……えーと、まあなんか納得したんで無事なら安心しました」

 なぜか非常に納得した言い方のオペレーターさんの反応で、私は流石にダメだと思った。

 あの言い方は完全に誤解を招きかねないだろう? もしかして何か二人でやってたんだとか思われたら、清純な乙女である新居 灯さん的に非常にピンチなんですけど!

「ちょっと! なんで納得してるんですか!?」


「え? だって健全な男女が二人で消えたって聞いたんで……ねえ?」

 その言葉に完全に私は焦る……これもしかしてエツィオさんと私がそういうことしてたって思われてんの、ねえ? なんとか言ってよ! とエツィオさんを見ると彼は私に舌を出して軽く拒絶の意志を示した後、くすくす笑いながら歩き出している。

「ちょっと、ねえエツィオさん待ってよ! 私貴方に何もされてないし……してないんだけど!」

 インカムに焦って何度も話かけながら私は必死に誤解を解こうとして話しかけながら、エツィオさんの後を追いかけるが、追い打ちをかけるようにオペレーターさんが必死に話をする私を気遣うように、とても優しく声をかけてきた。

「新居さん、そんなに焦らなくても……あんなイケメンに迫られたら仕方ないじゃない」

「ほんと何もなかったんだってば! いや、あったけど大丈夫なんですから!」

「え? あったんですか?」

「え? あ、いや……ちっがあああああう!」




観察者(ゲイザー)まで倒されたか……剣士相手かと思って油断していたが、魔法使いが新たに加わったのだな」

 テオーデリヒはモニターに映る新居 灯とエツィオの姿を見て、感心したように呟く……前衛と後衛のバランスが取れてきたパーティというのは厄介だからだ。

 勇者の素質を感じるあの若者が覚醒していないことが救いといえば救いか……。

「この世界でも勇者パーティ復活とかならないといいけどねえ」


「まあ、その前に私が倒すしかない……命をかけての戦いになるだろう」

 テオーデリヒは薄く笑うと、目の前に置かれたカップからコーヒーを啜って……ほぅ、と感心したように嘆息する。

 今回のコーヒーはなかなかに良い味をしている、と思いつつララインサルを見るとやはりコーヒーの苦さに舌を出して困っているのが見える。

「本当にこの世界の飲み物は……しんどいよ」


「お前が大人になれば良いことだ」

 そんなララインサルの顔を見ながら薄く笑いを浮かべるテオーデリヒ……カップから立ち上る香気と余韻を楽しみながら、彼はコーヒーを飲み終わるとゆっくりと立ち上がる。


「では……私は準備を進めよう……あの美しいミカガミ流の剣士を倒すための準備をな」

_(:3 」∠)_  スッゲーなって思っちゃうのは仕方ないw



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