第六五話 家庭教師(チューター)
「そっか……そんな敵まで出てきたのか」
「もう酷かったんですよ、格好がボディビルダーみたいな感じで……」
今私と先輩は最寄駅のスパタで一緒にラテを飲みながらテーブルに向かい合って座っている。
オダイバの事件以降、私と先輩は定期的に会って情報を交換するようになった……私としては決してデートとかそういう気持ちではないので普通にしているのだけど、先輩はいつも本当に嬉しそうな顔で私を見ている。
「僕は最近仕事に行けてないからねえ……灯ちゃんに負担をかけてしまっているようで申し訳ないよ」
「いえいえ、私の愚痴みたいな話を聞いていただけるだけで助かりますんで……」
先輩は本当に申し訳なさそうな顔で私に頭を下げるが……そんなことをしてほしいがために会っているわけではないのでそんなに恐縮されると困るのだけどね。
周りの女子高校生だろうか? こちらをチラチラ見てきている気がするが先輩はそういう視線などには気がつかないように私だけをじっと見ている。
う、うーん……あの一件から先輩は余計に私のことを意識し出しているようで、とても『君が好き!』という光線を出してくるようになった気がする。
「僕もそろそろ卒業だからね、受験も終わっているし大学でもKoRJの仕事は続けるつもりなんだ」
あ、そっか先輩はもう卒業が近いのだっけ……そこまで聞いて私も今年は受験勉強をしなければいけないことに今更ながら気がついた。
受験勉強自体は大したことはないんだ……過去問題とやらを受けてみたが私の知識量というか、学力であればほぼどこでも受かる状態だ。学校の先生からも太鼓判を押されている、そんな状況だ。
「先輩はどこの大学に行かれるんですか? 私お聞きしていなかったですよね?」
「あ、そっか教えてなかったっけ。僕は私立のケーオー大学に行く予定だよ」
私立大学か……お父様からは『灯はどこでも行けるだろうから、好きなところに行きなさい』と言われていて、学費とかそういうのは気にしなくていいと何度も言われているのだよね。
「そうなんですね、私は来年どこに行こうかな……」
ラテを啜りながらミカちゃんの進路を確認しないといけないな、と考える。実は私とミカちゃんの学力には少し差がある……私はどこでも入れるだけの偏差値だが、ミカちゃんは私と同じ偏差値ではないのだ。
ミカちゃんと友人関係を続ける上でも私はミカちゃんの進路に合わせた大学を受験しようと考えているのだが、そうすると結構下の偏差値の大学を受けることになってしまうのでそこが悩みの種なのだ。
「灯ちゃん、ケーオーにこない? 僕も君と一緒にいられるのは嬉しいし……他の大学だと、その……少し心配なんだ」
先輩が本当に心配そうな顔で私をみている……う、もしかして私が別の大学に行くことで、別の男に言い寄られるのを心配しているってことか? しかし私は別に先輩含めて男性に興味があるわけではないので……いや、正確に言えば先輩は嫌いではない。むしろ……その……多分好きな部類に入ってる気がする。
でもこの好き、は女性として好きなのか、彼自身に感じる勇者の素質を好んでいるのか、人間性を好みに思っているのかが今の私には理解できていない。
「友達と一緒の大学を受けようと思ってるんです、でもケーオーに行けるかどうかはちょっとわからないですね」
「そっか……学力に差があるの?」
先輩は結構真剣そうな顔で、私に問いかける。先輩のように文武両道というかスポーツしてても好成績という人がそれほど多くないように、ミカちゃんは勉強自体は嫌いではないけど多少理解力に難があるというか……『なんでこれわからんのだ?』と思うことがたまにあるわけで。
「そうですね、友達はケーオーに行けるほどの学力ではなくて……今から勉強して間に合うものなのでしょうか?」
その言葉に先輩は少し考え込んで……頷く。
「もし迷惑でなければ……僕が勉強を教えてもいいかな? 部活もOBとして参加すればいいし」
私はその言葉に少し悩む……というのもミカちゃんには先輩は私のことが好きで、友達から始めると失言した、というのを教えているからだ。
ちなみにこうやって頻繁にあっていることは伝えていないが、ミカちゃんはなんとなく勘付いているらしく……たまに先輩との仲の進展を聞かれることがあるのだ。
『その先輩とは友達から進んだ? ほっといたら大学生のお姉さんに取られちゃうよ?』
『……友達は友達なんで……それ以上でも以下でもないよ?』
『あかりんはもっと素直になったほうがいいと思うなあ……』
『十分素直だよ? だって私先輩のことお友達としかみてないもの』
そんなやりとりをさっきもしていたのだが……さてどうしたものか。懸念点としてはミカちゃんが結構先輩の写真を見せてとせがんでよく眺めていることがあるからだ。
イケメンだなと思ってるのか、それとも実はミカちゃんの好みは先輩なのだろうか? など色々思うところはあるのだが……それはそうと私の教え方だとミカちゃんも上手く理解できないことがあって、その辺りを抑えられる人が欲しかったのは確かだ。
うーん……でもまあ本人も直接会いたがってたし、先輩も教えてくれるというなら無碍に断ることもないだろう。
「そうですか……ミカちゃんにも聞いてみますね」
「うん、では決まったら連絡が欲しいな」
先輩はとても嬉しそうな顔で……私に微笑んだ。
「マジ!? あかりんの彼氏に勉強教えてもらえるの?! いくいく!」
夜ミカちゃんに電話をして先輩がミカちゃんに勉強を教えてくれるのだけど、どうする? と聞いたらミカちゃんは速攻でオーケーした。
私はあまりにすんなりとミカちゃんが了解したことに驚いている……だって別に勉強は自分でできるよ! と話すことが多いからだ。
「……ミカちゃん別に勉強教えて欲しくないっていうかと思った」
「私だってあかりんと同じ大学行きたいんだよ? でもあかりん勉強が超できるじゃん……このままだと置いていかれちゃうなって少し悩んでたんだ」
ミカちゃんが電話口だが結構真剣な口調で話すのを聞いて、私は少しだけ彼女のことを見誤っていたな、と反省する。彼女も私と一緒にいたいと思ってくれている、その気持ちが聞けただけでも嬉しい。
「ミカちゃん……私も一緒に勉強するから頑張ろうね」
「そうだね! でもあかりんの彼氏イケメンだからなあ……私がその人のこと好きになっちゃったらどうする?」
ミカちゃんの言葉に一瞬言葉を詰まらせる私……いや、ちょっと待って息を呑んでしまったのは私の失態ではあるのだが、彼女が先輩を好きになる? という可能性を私は全く考慮していなかった。
「え……えっと、その私はと、友達なので……」
「ふぅん……なら私が先輩を取っちゃってもいいのね?」
その言葉に、完全にフリーズする私……み、ミカちゃんが先輩と付き合う? そんなこと考えてもみなかった。
先輩はどう思うのだろうか? ミカちゃんは案外行動する時は即断で動くタイプなので、案外押しまくる可能性だってあるのだった。
昔ミカちゃんが好きになった男性がいて、その男性にミカちゃんが告白したのだけどどうもあまり素行の良い人でなく……私の耳にも彼だけでなくその取り巻きがミカちゃんを傷つけようとしていることがわかったので先んじて対応をしたことがあった。
ミカちゃん自身には何も伝えなかったが、おそらく私が裏で何かをしたのだろうというのは勘付いていたようだったが、結果的に素行の悪さが周囲に理解されると、その男性は逃げるようにミカちゃんの元からいなくなった。
『あかりん、あの人なんか悪い人だったんだって……』
『そうなんだ。何かされなくてよかったね』
『……そうだね……あかりん失恋した私を慰めてよ』
『何か食べよっか?』
あの後ミカちゃんと一緒に思い切りパフェを食べまくったんだっけ……随分前のことなのに昨日のことのように思い出せるのだが……それはもうどうでもいいとして、ミカちゃんと先輩か。私は先輩の隣に私ではなく……ミカちゃんがいる光景を想像してみる。
その考えに至った時に胸の奥がチクリと痛んだ気がして、少しだけ自分の感情の動きに困惑するが何も喋らないのはまずいと思いなんとか口を開く。
「……先輩がそうするなら、友達の私には口出しできることはないよ」
電話口でよかった……私は今ものすごい顔をしてこの言葉を絞り出している。面と向かってだったらとてもではないけど……こんな言葉を口にする気にはなれない。
「……あかりん嘘が下手くそだね……あの時と同じだよ」
電話の向こうでミカちゃんはどんな顔で今の言葉を話したのだろうか? あの時って……もしかしてちゃんとミカちゃん気がついてたのだろうか? そしてミカちゃんに心のうちを見透かされたような気分になって、心臓が急にドクドクと動き出す……私は今自分の心に嘘をついている……その本音に気がついてしまい、顔が火照る。
「……嘘なんか言ってないよ……本当だよ」
「ふーん……ま、その先輩にぜひ勉強を教えてください! って伝えてね、じゃあね!」
ミカちゃんはそれだけを伝えると電話を一方的に切ってしまった。
私はスマートフォンを片手に少しだけ……何か自分の選択肢が間違っていたのだろうか? という不安に苛まされてそのままの格好で立ち尽くす。
「嘘なんてついてない……でも、想像したら胸が苦しい……なんなんだ……」
_(:3 」∠)_ 実は学園トップに近い学力のあかりん
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